1-3 配信アイドルを助ける 《麗華1人称》

「おーーっほっほっほーー! 欲しいものは奪い取る。邪魔するものはぶっ飛ばす。わたくしが、悪役社長令嬢、宝月ほうげつ麗華様ですわ!」


《ごきげんよう、麗華お嬢様》

《ごきげんよう~》

《ごきげんよう。相変わらず麗しい……》

《ごきげんよう。今回はどんな強敵と戦うんだ?》

《ごきげんよう。麗華様の使ってる化粧品、教えてー》


「今回は狼狩りを行いますわー。誰もが恐れる狼でさえも、わたくしにかかれば子犬以下ですの。ほら、投げ銭よろしくて」


《¥10000:投げ銭しましたー》

《¥1000:今月おこづかい少ないけど、これでいいかな~?》

《同接すごいぞ、もう2万超えたぞ!》



 強さと美貌を兼ね備えたパーフェクトな存在。

 それが宝月麗華。

 ダンジョン配信を始めたら、あっさりと人気配信者の仲間入り――――――のはずだったのに……。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「おーーっほっほっほーー! 欲しいものは奪い取る。邪魔するものはぶっ飛ばす。わたくしが、悪役社長令嬢、宝月ほうげつ麗華様ですわ!」


《(ニート万歳)こん》


 コメ少なっ!


「同接は……5人……」


 また減ってますの~。

 しかも、あいさつは「ごきげんよう」と決めたのに、いっこうに言ってくれません。いえ、あいさつなんて贅沢言いません。せめて「こんばんは」くらい、まともにおっしゃってくれませんかぁ~~。


「今回は狼狩りを行いますわー。誰もが恐れる狼でさえも、わたくしにかかれば子犬以下ですの」


 シーーーーーン


 何の反応もない。

 いつものこととはいえ、誠に悲しくてよ~~。

 こんな調子じゃ収益化なんて、夢のまた夢じゃない。



 ダメ、ダメ、ダメ、ダメぇ~~~!

 切り替え。切り替えですわ。

 暗い気持ちで配信しても、視聴者が逃げるだけ。

 笑顔は営業の基本じゃない。

 会社を追放されて2か月。そんなことも忘れてしまったの!?


「予定変更! 緊急ミーティング!! 人気配信者になるには何が必要かを考えますわ! 視聴者たちも考えなさ~~~い!」


 ちょっとやけくそ気味ですわね。

 でも、なりふり構ってられませんこと!


「強さと美貌を兼ね備えたパーフェクトな存在。それが宝月麗華。――素材は完璧だと思ってよ」


 シーーーーーン


「宣伝も力を入れていますの。インストにエックスター、チックタックも毎日アップしていますし。あっ、もしフォローしていない方がいれば、今すぐフォローしなさい」


 頑張って営業かけても何の反応もない。

 当たり前だけど、悲しいわ……。



《(ニート万歳)内容がつまらん》


 反応ありましたわ!

 耳が痛いけど、沈黙よりは痛くない!


《(Tama)いつも敵をワンパンで倒す配信だけだからね》

《(Tama)キャラは立ってるから、有名配信者とコラボできればブレイクするかも》


「う~ん。有名配信者って【中層】には来ませんわね」


《(Tama)麗華さんの配信で探索者が見切れているところすら、見たことないですよ》


 わたくしが活動している場所は、いわゆる【中層】と呼ばれるエリアだ。


 一方、ほとんどの冒険者の活動場所は【上層】。

 上層は敵が弱い分、入手できるオーパーツも価値が低い。しかも、ライバルが多い。中層に比べて稼げないから、わたくしは行きたくない。



《(Tama)ラノベだったら、有名配信アイドル探索者を助けたらバズるっていうのが定番だけなんですけど……》

《(ニート万歳)ラノベの読みすぎだろw》


「有名配信アイドルなら現実にいるじゃない! ご存じ、【石川結名ゆな】が」


 石川結名

 有名アイドルグループの元メンバーで、ダンジョン配信者の頂点に立つ者。大手芸能事務所に所属しているプロであり、彼女の動画は平均150万回再生だという。

 彼女がダンジョン配信を始めたことで、多くの動画配信者がダンジョン配信を始めるようになった。


「決まりましたの! 石川結名様にコラボを申し込みますわー!」


《(ニート万歳)草》

《(Tama)相手プロですよ》


「プロだろうと関係ありませんわ! 早速上層に行って、石川結名様のピンチをさっそうと助けましてよ。うふふ……そうすればコラボを断れなくって」


《(ニート万歳)草》

《(Tama)落ち着いてー》




 ミーティング終了。

 上層に向かおうとした矢先、


 ビーーーッ!

 サイレンのような音が鳴った。


『救援要請です! 『石川結名』が助けを求めています! 救援に向かわれる方は強く念じてください!』


「本当に石川結名様から救援要請が来ましたわ!!」


《(ニート万歳)妄想乙》


 この救援要請はオーパーツの力。視聴者にはサイレンも声も聞こえていない。


「おーーっほっほっほーー! さぁ、バズるチャンスですわーーー!!」


 救援したいと強く念じると、体が軽くなり周りの景色が変わった。






 なまぐさい血の臭いに、浮ついた気持ちが引き締まる。

 ここは戦場だ。


「グルルゥ……グルルゥ……」


「こ……来ないで……」


 女の子が狼ことシルバーウルフに杖を向ける。

 彼女が石川結名だ。


 彼女の側には血まみれの男女4名が地面に横たわり、戦力外の撮影クルー2名が抱き合って震えている。


「来たら……撃つんだからぁ……」


 弱々しい言葉と突き出した杖はともに大きく震えている。

 彼女自身未来が見えているのだろう。


「グルルゥ……グルルゥ……」


 そんな彼女の感情を読み取っているのか、銀狼は悠然と歩みをやめない。



「ガルワァッ!」


 シルバーウルフが飛びかかった。

 1秒も経たぬ間に石川結名の喉元を食いちぎるだろう。




「遅い」




 溜めていた足の力を全開放。

 足元で激しい爆発が起こる。

 土煙を上げ、体がロケットのように飛ぶ。

 そして――、


 シルバーウルフの牙が石川結名に届くよりも早く、わたくしの拳がシルバーウルフの身体を地中に沈めた。



「もふもふワンコは1匹だけのようね。つまらなくてよ」


 周囲を見回してもモンスターはいない。


「さっさと済ませますわよ」


 腰を抜かしている石川結名と他2名をよそに救助活動を開始。

 重体の3名には心臓マッサージ。バキバキあばらが折れた音がしたけど、非常時だもの、ごめんあそばせ。

 回復ポーションを飲ませて応急処置完了。どうせHP1のわたくしには必要ないものでしたし、安物だし、サービスしておきましょう。



 あ、撮影用ドローン発見。

 最後にメッセージを送りましょう。


「おーーっほっほっほーー! 欲しいものは奪い取る。邪魔するものはぶっ飛ばす。わたくしが、悪役社長令嬢、宝月麗華様ですわ! わたくしの名前、覚えておきなさい!」


 カメラにアピールして、救援終了。


「もふもふ1匹なんかじゃ、まだまだ暴れ足りませんわねー。オーガにトレント、どーんと来いですのー」


 わたくしの固定カメラが置いてある場所まで戻って、配信再開ですわ!



==============================================

しばらく毎日更新しています。

更新時間は基本的にお昼か夕方になります。



読者様の応援が力の源です。ぜひぜひこれからも応援よろしくおねがいします。

「面白いな」「応援したいな」と思ったら、☆をつけていただけると、とてもとても嬉しいです♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る