1-6 ストーカーを退治する 《結名1人称》

「本番です。3、2、1、キュー」


 ディレクターの合図で配信開始。


「さぁ~て、今日はみんなに重大発表があります!」


《いきなり本題か》

《Xデーだ》

《言わないで》


「SNSでもお知らせしたとおり、今日の配信で、ゆなにとって大事な人を紹介しちゃいま~す」


《やめてやめてやめてやめてやめて》

《推し変します》

《まだ慌てるような時間じゃない》


「ゆな、探索者になってから今までずっとソロでやってきたけど、やっと一緒に推していきたい大切な人ができました。みんなも一緒に応援してくださいね!」


《分かった! 宝月麗華だ》

《ガチ百合のゆなちゃんが男をつくるわけがない》

《インストで匂わせしてた、あの地下ドルじゃねーの》


「それじゃあ、KOUSEIくん、どうぞ~~~」


 背の高いイケメンが結名の隣に並ぶ。


「今日からダンジョン配信者デビューするKOUSEIです。結名ちゃんと一緒に戦うんで、よろしくお願いします」


《ぎゃあああああああああああああ》

《うそうそうそうそうそうそううそうそ》

《やっぱ男かよ! しかもイケメンだし》

《炎上待ったなし》

《ゆななは本物の百合だって、信じてたのに!》

《石川結名はオワコン》


「KOUSEIくんは、うちの事務所の期待の新人です。歌もダンスもすっごく上手いしー、何よりヤバいくらいイケメンでぇーーー! 絶対、絶対、ぜぇぇ~~っったいッ、ブレイクすると思う!」


 そう言って、KOUSEIくんに軽くハグ。


《○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね》

《炎上どころじゃねえ! ガソリンぶちまけたぞ!》

《      終      了      》

《中層挑戦よりも事故配信だろ》

《KOUSEIの○○○気持ちよすぎだろ》

《演技だよ……ね……》

《ゆななのうそtき! スぺチャ代返せ!!!》

《発狂したヲタクからしか得られない栄養素がある》

《落ち着け、ただのKOUSEIの宣伝だって》

《(百合の間に挟まりたい女)このあと宝月麗華がNTRんだ。あたし信じてる》


 絶対炎上しているよね。

 ほんと、ゴメン。ファンのみんな……。



 結名もKOUSEIさんも、社長が書いた台本通りにお芝居しているだけだ。そもそもKOUSEIさんとは昨日会ったばかりだし。


 男ができればストーカーは必ず実力行使に出る。私たちはそれを狙っている。


 ストーカーのことは本当に怖い。こんな危険な配信したくない。

 それでも、結名はやるんだ。

 全ては結名の夢のため。未来のため。

 本心は絶対に悟られちゃダメ。

 震えは隠さなきゃ。いつもの配信みたいに笑うんだ。




 15分程、最初の階層で練習。


「すごいよ、KOUSEI! スライムとの戦いに、もう慣れるなんて」


 KOUSEIさんの手を取り、喜んでいる演技をしていると、


「よ……よくも騙したなぁ~~!」


 やった! 罠にかかった!

 これは私たちがストーカーに賭けた罠。


《また出たよ、このおっさん》

《スタッフ仕事しろ》



「恋人は俺だよな! それなのに何で俺のこと無視するんだよ!」


 相変わらず何言ってんの……。

 結名の恋人って、わけ分かんない。


「ゆなの恋人は……あなたじゃありません……」


「このチャラ男が恋人って言いたいのか! あぁん!」


「……」


 身体が震える。

 心臓がバクバクいってる。


「そんな男と組むなら! ゆなを、殺す! 俺も、一緒に! 死んでやるううううう!」


 ストーカーは怖い。

 でも、結名は死なないんだ。

 だって――、






「死ぬのはあなた1人で十分」






 女性ADが結名の前に立つ。


「ADごときが探索者様を止めようってのか!」


「AD? 違いますこと――」


 ADが変装用の眼鏡と帽子を取り、長い髪をなびかせ正体を現す。






「欲しいものは奪い取る。邪魔するものはぶっ飛ばす。わたくしが、悪役社長令嬢、宝月(ほうげつ)麗華様ですわ!」






《宝月麗華キター》

《キター》

《待ってました!》

《真打登場!》

《ストーカーをぶっ飛ばせ!》

《ストーカーざまあ》



「ストーカー、貴様は結名様とのコラボのネタとして、今から無様に死んでもらいましてよ。ごめんあそばせ」


「ふざけるな! お前もゆなを狙ってるのか! まとめて、ぶっ殺してやる!」


 ストーカーが杖を振り上げると、地面から魔法陣が出現。

 その上に3つ首の魔犬が出現した。


「ハハハハハ……! すごいモンスターを引いちまったぞ! 宝月麗華、お前がいくら強くてもなぁ、Sランクモンスター、ケルベロスは倒せねえ!」


《出た、ストーカーのモンスター召喚オーパーツ!》

《ゆなな、逃げて!》

《Sランクとか伝説レベル?》


 前に出てきた召喚モンスターはGランクのゴブリンとFランクのワイトだったから、結名だけで追い払えた。

 あのシルバーウルフだってEランク。

 Sランクなんて、本当に倒せるの!?


「問題ありませんこと」


 腕を回しながら、悠然とストーカーに近づく宝月さん。


「あなたを殺すには支障ございませんの」


 恐ろしい言葉を平然と言い放つ宝月さんに、ストーカーに焦りの色が生まれた。



「い、いけーっ、ケルベロス! Sランクモンスターの力見せてみろー!」


《逃げてー》

《マジヤバい!》

《無理だって!》


 ケルベロスが牙をむき、宝月さんに飛び掛かろうとする。


「わたくしに倒されるべき相手はストーカー。邪魔する犬っころも――」


 宝月さんが消えた。




「まとめてぶっ飛ばす!」




 超速のストレートを腹に受け、ケルベロスは吹き飛んだ。


《決まったあああ!!》

《強すぎ!》

《Sランクが噛ませ犬か》

《カッコイイ!!》


「うわあああああ~~!!」


 そのまま飛んできたケルベロスに押しつぶされ、ストーカーは気絶した。

 すぐにケルベロスも爆散した。


《ストーカー、かっこ悪》

《自分のモンスターにやられてるの草》

《ざまあ完了》


「おーーっほっほっほーー! 残念でしたわね! わたくしにかかれば、Sランクモンスターでも雑魚ですのよ~~~!!」


《ストーカー、モンスターガチャ失敗》

《SSR宝月麗華》

《強さのインフレしすぎて、ワロタ》

《宝月麗華コラボ、もう終了》

《ざぁ~こ、ざぁ~こ》

《¥3500:麗華様の活躍、もっと見たいですー》



「やったぁ……」


 安心感で力が抜けちゃって、思わず座り込んじゃった。

 ずっと悩まされていたストーカー問題が、あっさり解決しちゃったよ。


 この人は本物だ。

 一緒に戦えたら、私の願いはきっと叶うんだ!



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