1-7 パートナーの務め 《麗華1人称》
「お、俺は一体……。体が、う、動かねえぞ!」
「あら、目を覚まされたのね。ごきげんよう」
腰を屈め、ストーカーと目を合わせる。
ようやく事態を理解したのか、ストーカーの顔がサーッと青ざめた。
「俺、埋められてるうううううーーーッ!」
《うめ》
《うめうめうめ》
《俺も埋めてほしい》
「おーーっほっほっほーー! 結名様に二度と近づけないように、埋めてやってよ!」
今、ストーカーは地面に首だけ出た状態で埋められている。
「冗談じゃねえぞ! こんな状態でダンジョンに放置されたら、モンスターに食い殺されちまうだろ!」
「それが何か?」
「嫌だあああああ~~~!! 死にたくねえええええ~~~!!!」
「あらぁ~? 『俺も死ぬ』とか言ってませんでしたぁ?」
わたくしの質問を聞いて、石川結名がスマホで視聴者の反応を調べ出す。
《死ぬって言ってた》
《言ったぞ!》
《言い逃れすんな、ストーカー!》
「『死ぬつもりだった』とみんな証言しています」
「だそうね」
「ふざけんな! ふざけんな! ふざ――ゲバァッ!」
わたくしの蹴りがストーカーの顔面に炸裂。
「ふざけているのは、どちらで?」
それっきりストーカーは動かなくなった。
「さて、本題に入りましょうか」
《本題って何だ?》
《コラボあれだけじゃ短いもんね》
《真の大切な人、発表?》
「何を支払えばいいの……」
わたくしの言葉に石川結名の顔に緊張が走る。
あら、『そんな展開、台本にないよ。止めて』とディレクターがカンペを出しましたわね。素人の制御なんて簡単だと思っているのかしら。
だけど、わたくしとのコラボの対価は安くなくって。
ディレクターに一瞬で接近。
「……!」
そして、軽~くデコピン一発。
黙ったきりのストーカーを指差して一言。
「余計なことをなさると、ああなりましてよ」
《この展開、台本にないの?》
《宝月麗華が配信ジャックした?》
《スタッフ、生きててよかったね》
「ごめんあそばせ。お話を続けましょう。わたくしとのコラボの対価として――」
わたくしは悪役。
どんなに非道で理不尽な要求だって突きつける。
「貴女、クロイプロダクションをお辞めなさい」
「――!!」
石川結名の顔が固まった。
《ふざけんな! 何様のつもりだ!》
《ひどすぎる》
《ガチ悪役だ!》
《クロイ辞めたら、ゆななの配信見れないじゃん!》
「これは命令でして。貴女に断る権利はございませんこと」
「結名は……」
わたくしの脅しにも怯むことなく、石川結名が言い返す。
「結名はダンジョン配信を続けなくちゃいけないの。事務所を辞めるわけには……!」
「貴女、こんなブラック事務所に所属し続けていたら――死ぬわよ」
《死ぬ?》
《どういうこと?》
《ストーカーはもう殺っただろ?》
「ストーカー退治配信なんて、まともな事務所ならやるかしら? わたくしなら、そんなプライベートを晒すような真似、絶対イヤですこと。しかも、殺されるかもしれないのに」
《た、確かに……》
《正論》
《プライベート切り売りしすぎ》
「どうせまた中層配信もやるんでしょ。危なっかしくて、見ていられませんこと。いえ、現場の貴女たちはともかく、お偉いさんは『危なっかしいほうがバズる』と考えているんじゃなくて」
《ゆなちゃん、死ぬくらいなら配信やめよう》
《麗華様が助けなかったら、ゆなな死んでた》
《最近、バズり狙いの過激な配信多かったもんな》
それでも、石川結名は首を縦に振らない。
「危険なのは覚悟してます。たとえ死ぬかもしれなくても、結名は――」
「死なせない」
「えっ……?」
「わたくしは貴女を一生護る――それがパートナーの務め」
「そ……それって……」
石川結名が涙を浮かべ、言葉を詰まらせる。
そんな彼女に優しい笑顔を向け、手をとった。
「お忘れですか。わたくしと一緒にやりたいと言ったのは、貴女じゃなくて」
《プロポーズ、キターーーーーー》
《プロポーズ配信!!!》
《8888888888》
《これが、ゆなにとって大事な人の発表だったのか》
《速報:石川結名、宝月麗華と結婚》
《百合の波動を感じますぞ》
《お幸せに~~》
《先にゆななが宝月麗華を口説いていたのか》
《ブラック事務所なんて、辞めちゃえ!》
《(百合の間に挟まりたい女)信じてたよ。宝月麗華がゆななをNTRんだって》
わたくしの言葉に、石川結名が顔を赤らめる。
「宝月さ――麗華ちゃん、改めてよろしくね」
「こちらこそ、よろしくね――結名」
《いきなり名前呼びかよ》
《百合の波動を感じますぞ》
《推せる!!》
《てえてえ~~~!!》
《これからは2人とも推すよ!》
《ゆなな、マジで顔赤くなってね?》
《お幸せに!》
《麗華様なら、うちのゆなを嫁に出せる》
「ストーカー退治配信の対価をいただいたことですし、ここで宣伝!」
用意しておいたフリップをカメラに映す。
「これからは、わたくしと結名の2人でダンジョン配信をいたしますわ。チャンネルのURLはこちら。必ず登録よろしくてよ!」
この配信はバズって、わたくしと結名のチャンネル『麗華様とゆなのダンジョンちゃんねる』は、わずか1日でチャンネル登録者数が30万人を超えた。
けれども、これはスタート地点。
まだまだ、わたくしと結名の快進撃は続きましてよ!
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