3-8 中層完全踏破達成 《結名1人称》
中層配信14日目。
中層完全踏破の旅もいよいよ大詰め。結名たちは現在60層を攻略中。
ここ60層は砂漠エリア。
山岳エリアも過酷だったけど、砂漠エリアはさらに過酷な環境。
熱線のような激烈な日差しが結名たちの肌を焦がす。
肌は乾燥でヒリヒリ。のどはカラカラ。
暑いというより熱いだよ……。
でも、結名たちは配信者。
笑って旅をしてきた。
どんな過酷な環境でも、楽しいを感じたい。
「
花吹雪が結名の周囲を舞う。
花吹雪に刻まれたモンスターは砕け散った。
《範囲魔法TUEEE》
《ゆなな、カッコイイ!》
バサァ!
地面から1体のモンスターが勢いよく飛び出す。
大きな手の形をした砂のモンスター【サンドハンド】だ。
麗華ちゃんに向かって、平手を叩きつけようとする。
「わたくし、ジャンケンは強くてよ」
麗華ちゃんの拳がサンドハンドを貫いた。
《グーでパーを倒した!》
《(ニート万歳)麗華、ゆなにジャンケンよく負けてるけどな》
戦闘終了。
「おーーほっほっほーー!! サンドハンドの群れなんて、楽勝ですわーー!」
麗華ちゃんも楽しそう。
配信始まる前は暑さにバテていたけど、いざ配信が始まったらこの通り。
正直無理をしているんだと思う。
でもフィナーレが近いから、休みたいよりも楽しい気持ちのほうが勝っちゃってるんだよね~。
結名もね、同じ気持ちだよ。
「さぁ、即出発ですわー」
「うん、行こう!」
《水分補給は忘れずにー》
《どんどん行こう》
15分程経過。
「あれ、蜃気楼じゃありませんわね……」
「本物だと思うよ……」
視線の先には――60層の出口のエレベーター。
ダンジョンの各階層は魔法のエレベーターで移動する。
《出口キターーー!》
《そろそろ頃合いだよね》
《ついにこの旅もラストかぁ……》
「最後にここを抜けなきゃいけないんですの……」
麗華ちゃんが目の前の光景に顔をしかめる。
目の前には長くて大きな下り坂。
「この急勾配を降りるのは嫌ですわね……」
《どうして?》
視聴者の疑問に麗華ちゃんが答える。
「こんなに急な下り坂、絶対足元取られますわ。転んだら髪が砂まみれになるじゃない」
《なるほどー》
《砂まみれのゴールはカッコつかないねw》
《女子として、その悩み分かります》
「そうだ! ゆな、いいこと思いついた!」
「何ですの?」
「板に乗って滑ろうよ。早く着くし、絶対楽しいもん!」
「名案じゃない! わたくしの華麗な滑りを見せてさしあげますわ!」
ここで視聴者から指摘があったので、結名が読み上げる。
「固目玉焼きの黄身さん『モンスターが潜んでいたら、どうするの?』――決まってるよね」
結名と麗華ちゃんの回答は、
「「ぶっ飛ばす!」」
板を取り出して、準備完了。
「どちらが早く着くか競争だね」
「おーっほっほっほーー! 負けませんわーー」
《どっちが勝つんだろ?》
《麗華様じゃね》
《大穴でゆなな》
「「Ready――――Go!」」
《Go!》
《Go!》
《Go!》
《Go!》
蹴り出しが早い分、麗華ちゃんが先行した。
「おーっほっほっほーー! ごめんあそばせ~~」
《さすが麗華様、身体能力勝負なら負けなしだ》
《このまま勝負が決まるんじゃね》
バサァ、バサァ、バサァ、バサァ、バサァ……
私たちの行く手を遮るように、サンドハンドの大群が姿を現した。
《いっぱい出たぁー》
《邪魔すんな》
「そこを――おどきなさい! エアキャノン!」
エアキャノンとは、腕を高速で振ることで打ち出した空気の大砲だ。
《まとめて倒せーーー》
《サンドハンドいきなり終了のお知らせ》
《今、エアキャノンはまずくね?》
「え? うわあああああ~~~」
《麗華様が後ろにぶっ飛んだぞ》
《(Tama)エアキャノンの反作用だね》
《普通に避ければ良かったのでは》
「お先にぃ~、麗華ちゃ~~ん」
《麗華様が後ろにさがったことで、結名が逆転した!》
《(麗華様の信奉者)ハンデですよ、ハンデ》
「す、すぐに追いついてみせましてよおおぉぉぉ~~」
と言っている麗華ちゃんの声が遠ざかっていく。
「さぁ、差をつけるよ!」
なるべく真っ直ぐに滑ることでスピードを上げる。
《行けぇ! ゆなな!》
《行けぇ!》
《(百合の間に挟まりたい女)行けぇ!》
砂丘を抜けた。ゴールまであと400mもない。
このまま滑れば結名の――あれ? 何か地面が下がってバランスが取りにくいんだけど。
バランスを立て直そうとしていると、大渦が発生した。
そして、渦の中心には――
キシャーーー!!
巨大なアリジゴク【ジャイアント・アントライオン】がいる。
《ゆなちゃん、危ない!》
《ゆなが食われるーー》
「
モンスターを薔薇で拘束。これで襲ってこれない。
後は――
「麗華ちゃん! 後は任せた!」
「トドメですわーーー!」
《いけえええええ》
《いけえええええ》
《いけえええええ》
ドオオオオオンッッ!!
地響きが聞こえたと同時に、
「お先に失礼!!」
麗華ちゃんがゴールに向かって飛んで行った。
《麗華様がアリジゴクを蹴って、すっ飛んで行ったぞ》
《まさかの土壇場で逆転》
《サンドボード関係ないよねw》
エレベーターの前で麗華ちゃんが笑う。
「おーっほっほっほーー!! レースはわたくし宝月麗華の勝利ですわーー!」
《おめーーー》
《おめーーー》
《おめーーー》
「「そして――」」
結名と麗華ちゃんが同時に宣言する。
「「レイゆな、中層完全踏破達成~~~~~!!!」」
《¥50000:本当にやりとげた!》
《¥50000:お疲れ様あああ》
《¥30000:おめでとう!》
《¥50000:おめでとうございます!》
《¥10000:すごい!》
《¥38000:麗ゆなバンザーーーイ!!》
《(麗華様の信奉者)¥20000:麗華様バンザーーーイ》
《(百合の間に挟まりたい女)¥5000:おめでとううううう!!!》
《(蜘蛛衛生兵)¥50000:中層をたった2人で踏破しちゃうなんて!》
《(ニート万歳)すげえな》
「中層も完全踏破したことだし配信終了かな」
「お待ちなさい」
「何か、告知あったっけ?」
「下層――少しのぞいてみませんこと?」
《おおおおお!!》
《ついに下層にカメラが入るのか?》
《(麗華様の信奉者)麗華様ならそのままクリアできるでしょうな》
「下層……」
上層と中層の難易度が桁違いだったように、中層も下層の難易度は桁違いだと言われている。
詳しいことは何も分からない。未知の世界。
《(Tama)情報不足だよ。引き返そう》
《(蜘蛛衛生兵)絶対にダメ! 死んじゃうって!》
湧いているコメントがほとんどの中、諫めるコメントもある。
危険なのは百も承知。
それでも、結名たちは完全クリアを目指しているんだ。
何もしないで終われない!
「せっかくだから、ちょっとだけ見に行っちゃいまーす」
《そうこなくっちゃ!》
《楽しみ!》
《やったぁ!》
エレベーターで61層に降りた。
「ここが下層ね」
目の前にはごつごつした肌の岩山。1つの洞窟があり、その中に線路が続いている。中は闇。線路がどこに繋がっているのかは全く分からない。
「炭鉱。いや、廃坑エリアといったところかしら」
《廃坑か、やばそう》
《久々の迷宮系だな》
《不気味な雰囲気だね……》
急に洞窟の中から2つの光が現れた。
中が暗くて姿は確認できない。
《動物の眼?》
《何がいるんだ?》
光る眼は結名たちを見つめるだけで、何もしてこない。
炭鉱の外にいる限り、襲ってこないのだろう。
麗華ちゃんが洞窟の入口に向かって歩いていく。
「ここで帰るつもりでしたが、あいさつされたからには、あいさつし返すのが社長令嬢の流儀でして」
麗華ちゃんが洞窟の敷居をまたいだ。
「エアバレットですわ」
ビュン!
高速の空気弾が洞窟内を飛ぶ。
そして、光が消えた。
「それではごきげんよう」
麗華ちゃんは洞窟を出た。
麗華ちゃんは結名の所に戻って来るなり、髪をかき上げ宣言する。
「宣戦布告いたします」
《宣戦布告?》
《厨二全開だなww》
「今回の攻略はここまでです。しかし、わたくし宝月麗華と石川結名は必ず廃坑エリアを攻略してみせますの!」
《¥10000:廃坑エリア攻略楽しみにしてるぞーー》
《マジで下層行くの??》
《面白そう!》
《¥20000:この先も見たい!》
「結名も麗華ちゃんと一緒に頑張るから、応援よろしくお願いいたします!」
麗華ちゃんだけじゃない。
結名だって、目標はダンジョン完全攻略だ。
ダンジョン完全攻略すれば、結名の夢だって……。
坑道の入口に背を向けて最後のあいさつ。
長かった中層完全攻略配信もいよいよ終了だね。
「それでは、『麗華様とゆなのダンジョンちゃんねる』今回の配信はここまでですわ」
「チャンネル登録、各種SNSの登録。ぜひよろしくお願いしますー」
「「それでは、ごきげんよう~~~」」
《ごきげんよう~~》
《ごきげんよう~~~》
《ごきげんよう~~~~》
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この小説はこれにて終了です。
ここまでの応援ありがとうございました。またいつか別作品でお会いできるのを楽しみにしております。
追放された悪役社長令嬢 宝月麗華~SSSランク越えのポーションを飲み世界最強の探索者になってアイドル配信者を助けたら、アイドルに溺愛されて、万バズ配信者に成り上がりましたわ~ さくらとさちほ @sakurasachiho
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