第27話 大丈夫、私、◯◯◯◯だから
(ほんとっ……)
想真が自転車を漕ぎながら呆れ顔で見詰める先――そこには自転車の前カゴに両前足を掛け、颯爽と風を切るブサイク犬の姿。その意気揚々とした立ち姿が、さらに想真をイラつかせる。
「お前は、一体! 何様だ!!」
前のカゴにいるブサイク犬にツッコミを入れるのだが、当然、犬は振り返りもせず、完全無視。
(ほんと、むかつくわー! コイツ……)
彼自身、薄々気づいていたのだが、そのふてぶてしい態度からブサイク犬が想真を下に見ている事は明らかであった。
「お前みたいな奴を、ちょっとでも信用した俺がバカだったわ……」
休み時間、想真が犬の様子を見に行く度、ブサイク犬は、芝生にあるベンチの下で大人しく寝ていた。
『意外にコイツ、賢いじゃん』と思った矢先、四時間目の事態である……。
想真が刈谷に早退を申し出た後、急いでグランドに駆けつけると、犬は嬉々として二匹の白い蝶を追い掛け回していた。三階の教室から見た黒い粒は、やはりブサイク犬であったのである。
そして想真がテンションマックスのブサイク犬を掴まえるのに、苦労した事は言うまでもない……
「お前さーあのまま走り回っていたら、学校の人に掴まえられていたんだぞ」
今度は諭すように言ってみたが、所詮、梨のつぶて……
「はぁー……なんでこんな奴のために、俺が早退しなきゃならないんだよ…………」
(……まー、でも……コイツがグランドを走り回ってなくても……結局、早退したか……)
ふと、家に居るあおいの顔が想真の頭に浮かぶ。
また溜め息を吐くと、想真はさらに自転車を漕ぎ進めた。
家に着いたのは昼、十二時半前――
自転車を玄関横に止め、カゴにいる犬を抱き上げると、小脇に抱えて家の中に入る。
玄関に入った想真は一旦、ブサイク犬を玄関タイルの上に置き、待つように言う。
だが、ブサイク犬が想真の言う事など聞くはずもなく、犬はさっさとキッチンの方へ突進して行った。
想真はヤレヤレという顔で見送り、犬の足を拭くことを諦めた……。
遅れて想真がキッチンに入るとリビングの方で楽しげな声が聞こえる。見るとソファーの上で、あおいと犬が無邪気にじゃれ合っていた。
ホント……ひとの苦労も知らないで……と想真が思った矢先――
「おかえり、想ちゃん」
「あっあー……ただいま」
「今日は凄く早いね」
思わず『イヤ! その駄犬の所為なんですけど!』と言いたいところではあったが、声の感じ、表情からしてあおいの機嫌は直っている様子。
今は取り敢えず、文句は止めておく。
そして代わりに「……まーちょっと」と曖昧な返事をしたのだが、急にあおいの表情がパッと明るくなりソファーから立ち上がる。
「えっもしかして……私の事、思い出してくれた! それで早く帰って来てくれたの!」
「あっ……イヤー……」
想真は戸惑い、彼女から僅かに視線を逸らす。
「違うの?」
「思い出したって言うか……」
想真は神妙な顔付きとなる。
「本当にゴメン! 昨日あんなに偉そうな事、言っておいて……本当に申し訳ないんだけど……あおいさんが誰なのか……分からなかったよ……」
それを聞き、先程まで明るかった彼女の表情は一変する。
気まずい沈黙の時間が二人の間に流れた……が、
「……でも……俺……昨日からずっと一人の女の子の事を考えていた……」
「……それって?」
あおいの問い掛けに、想真は意を決した様に彼女の方を向く。
「橘碧依……」
それを聞くと彼女は俯き、ゆっくりと、ゆっくりと、想真の方へ歩み寄る。
そして身体を想真に預けた。
「想ちゃん……私、心配したよ……忘れられちゃったかと思って……でも、私の事ちゃんと覚えていてくれたんだね」
「でも……橘碧依ちゃんは……」
そう呟くと、涙で頬を濡らした彼女が笑顔で想真を見上げる。
「そのことね! 大丈夫、私、ユウレイだから――」
「……だいじょうぶ? ……ゆうれい? ……」
(いや、それ……全然大丈夫じゃ……なくねっ)
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