第31話 名探偵ポロリと碧依ちゃん

『静馬さんが描いた絵を切刻んだ犯人は、この五人の中にいます!』

 大学の美術教室――ツインテールの女子がパイプ椅子に座る五人の男女を見渡し、真剣な表情で断言する。


『犯人は、貴方――猫神梅子さんです!!』

『はぁーあんた何言ってんの!』

 足を組み偉そうにパイプ椅子に座っていた派手目の女は、いきなり名指しされ怒りを露わにする。


『静馬の彼女である、この私が! どうして犯人になるのよ! 自称探偵だか何だか知らないけど! 冗談は、貴方の、今のその格好だけにしてくれる!!』


 ドっ直球の返しに、ツインテールの探偵は何も反論出来ず、ただ顔を赤らめながら、わなわなと小刻みに身体を震わせた。

 今、彼女はそうツッコまれても仕方ない格好をしていた。

 下はグレーでミニのプリッツスカートと黒のニーハイソックス、そして上半身は白いビキニのトップスのみという……青少年の性的感情を不用意に刺激する格好をしていた。


「やっと想ちゃんの大好きなエッちーシーンが出て来たね!」


 ゲホッゲホッ……


 急に話を振られ、弁当を食べていた想真はむせ返す。

 想真と碧依はしばらく前から手持ち無沙汰もあり、リビングのテレビで『名探偵ポロリ』を見ていた。


(なに? そのトゲのある言い方……やっぱり一切合切、碧依ちゃんに見られていたって事なのか? ……)

 想真は不安そうな目で、テレビ正面のソファーに座る碧依を見る。


『ふっ……貴方、よくもまーその胸でビキニなんて付けられたものよねー』

 梅子が探偵の胸を見ながら、鼻で笑う。


『今、胸とか関係ないしー……それにまだ成長期だしー……』

『ゴメン! 何言ってるか聞こえない!』


 テレビの中で女同士の仁義なき戦いが繰り広げられている中、想真は不安そうな目で碧依を見ていたが、その視線はゆっくりと彼女の足元に下りて行く。そして一転、想真は困惑の表情となる……。

 彼が見詰める先、そこには器に口を突っ込み、ガツガツと何かを食べているブサイク犬の姿……。


「ねーぇ……碧依ちゃん」


「ナニもーぉ! 今、ちょうどポロリ良い所なんだけど!」

 碧依は面倒臭そうに想真を見る。


「ゴメン……でもこの犬、本当に幽霊なの……滅茶苦茶、ドッグフード食べているんだけど……」


「さっきも言ったでしょう。私達は幽霊だって! それにその器の中、良く見てみて!」


「えっ」

 想真は弁当箱を持ちながら犬ががっついている器の中を覗き込む。

 そして、ぎょっとする……


(……全く…………減ってない!?)


 先程、自分達は幽霊だと言っておきながら、愛犬のためにドッグフードを用意する碧依の姿を見て、想真は……なかなかレベルの高いギャグ、ブッコンでくるな……と思いながら、その様子を眺めていた。だが今、器の中身を確認すると、これだけ犬がガッついているにも関わらず、その中身は殆ど減っていない。さらにその減った分も器の外に零れた分である……それを見て想真は、さらに眉間に皺を寄せる。


「ねー碧依ちゃん」

「もーだから! 今、謎解きの真っ最中なんだって!」

「ゴメン……でもこの犬、ドッグフードを食べていないとしたら一体何を食べているの?」

「それは……あれだよ、あれ……パワー的な、あれだよ」


(ナニ、その思いっきりフワっとした答え……これ絶対、碧依ちゃんも何なのか分かってないよ……)


「じゃーそのパワー的なあれを碧依ちゃんも取るの?」

「取るよーでもチッチみたいに固形物からは取れないかな」

「えっじゃー何から取るの?」

「水? 液体からなら私も取れるから」

「そうなの……」

「お仏壇の前とか、お墓の前にお供え物があるのはそのためだよ」

「ホントに?」

「たぶん……」


(多分なんかい!)


「そんな事より、そろそろ、想ちゃんお待ちかねの、ポロリシーンが出てくる頃だよ」

 それを聞き想真は腑に落ちない表情でテレビの方に目をやった。


『――あなたのパパが見つけた、その洋服は、確かに私の物よ……そしてあなたが言った通り、ここにいる弟にその洋服を着せ、アリバイ工作をさせたのも私……』


『やはりそうでしたか……いや、ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか梅子さん、何か勘違いされている様ですが、隣にいるこの人は私のパパではなく――』


『――彼氏の樋口です。宜しくお願いします!』

 白い野球帽を被ったポッチャリ眼鏡男がペコリと頭を下げた。


『誰が彼氏よ!! あなたは只の助手でしょうが!!』

『えっそうなんですか、ポロリさんがやたらと僕に、女の子の大事な部分を見せて来るから、てっきり彼氏かと――』

『やたらと見せていないわ!! それにその言い方!』

 探偵は語気を強め助手を睨み付ける。


『……こんな変態、露出狂女に私の計画が邪魔されるなんて……』

 項垂れる梅子……

『変態でも露出狂でもありませんから! 腹いせにディスらないで下さい! 梅子さん』

『あのーポロリ探偵……少々お話が脱線している様なのですが……』

 戸惑いの表情をする静馬。

『……失礼いたしました静馬さん……コホン、少し脱線しましたが、これで私が推理した通り、静馬さんの絵を切り刻んだ犯人は、やはり猫神梅子さんでした。そして、その動機は多分……静馬さんが珠代さんを、絵のモデルにしたことによる嫉妬かと思われます』

『嫉妬……どうして私が、そこにいる自分より下のランクの女に嫉妬しなければならないのよ!』


『じゃーどうしてあなたは珠代さんが描かれた絵を切り刻んだんですか!』


『腹が立ったのよ! 美貌、知性、社会的ステータス、どれを取っても私の方が上のはずなのに……モデルに選ばれるのは私ではなく、いつも別の女……。初めは静馬が私にモデルを頼むのが恥ずかしいのかと思っていたわ……でも、違った。私は気付いたのよ……モデルに選ばれる女の特徴に……』


『お前……まさか……』


『私が気付かないとでも思っていたの……絵を描いている時の静馬の目を見れば直ぐに分かったわ……だって今も、貴方はその探偵の胸をチラチラ見ているんですから……』

 憎しみが篭もった目で梅子が探偵を睨み付ける。


『私は前から知っていたのよ! 貴方が大の貧乳好きで、そしてエッチなDVDもそっち系ばっかりだっていうのは!』


 探偵を含めた周囲の人間は一斉に冷たい視線を静馬に向ける。そして彼は目を逸らした――


『私は大嫌い……静馬が大好きな貧乳が……私は憎い……静馬の目とアソコを釘付けにする貧乳が…………だから……こうしてやるわ!!』


 勢い良く椅子から立ち上がった梅子は、いきなりポロリに襲い掛かる。


 キャァァァァァァァー――大学の美術教室に悲鳴が響き渡った。


 そして、白い物が床に落ち、テレビ画面には艶々とした白い肌が全面に映し出される。


「マジか……」

 想真は息を飲む……


 徐々に画面が引いて行き……艶々した肌には、チジれた毛が薄らと生えている。


(えっ! これ……上じゃないよね……もう完全に下の方だよね!!)

 さらに興奮する想真。


 そして、ついに画面に映し出される…………………………………………………………


…………樋口君のハゲ頭が――


「お前の、ポロリかーい!!」


 ツッコミを入れ、ソファーで想真が項垂れるなか……テレビ画面にはハニカミながらペロッと舌を出す樋口君の顔が、アップとなった……

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