彼は誰あおい⇒出会って2分で、だいしゅきホールド!!

源次うめの

第1話 プロローグ

 人生には大きな節目が幾つもある。高校入学も人生において大きな節目の一つであろう。

 それまでの学校生活が不本意であったなら高校入学はリスタートのチャンスであり、順風満帆の学生生活を送って来た者にとっては更なる飛躍の時となる。


 かく言う俺も女子に全く相手にされなかった、これまでの日陰の人生を終わらせ、陽光に満ちた学生生活を送るべく高校に入学した……。


 そんな俺が、彼女、ほうじろコウさんと初めて出会ったのは入学式の当日だった。

 入学式が行われる体育館で一人座っていると、二人の女子が斜め前の席に座った。何気なく奥の女子生徒を見たとたん、俺はその美しさに衝撃を受ける。 


 まず、彼女の美しさで釘付けになったのは、その優しそうな目元。目は二重、瞳は大きく黒目がち、常に潤んでおり間近で見つめ合えば多分、男女問わず彼女の事を好きになってしまうだろう。

 次に美しい肌と髪。彼女の透明感あふれる健康的な肌は高級な真珠を思わせ、艶々とした髪は内から光っているのではないかと錯覚する程美しく、それをボブカットにしていた。

 さらに忘れてならないのが唇。薄紅色のブルンとした唇は張りがあり瑞々しく、男共をドキドキさせるに違いなかった。

 そして最後に俺が彼女に魅かれた最大の理由、それは笑顔である。隣の女子と話す際、時折みせる笑顔。彼女が笑った瞬間、美しく整った顔は一気に可愛らしくなる。


 俺はこのギャップにやられてしまった。美しさと可愛らしさ、彼女はその両方を持っているのだ。

 この二つを持った女子に抗える男など多分いないだろう……


 俺は入学式が終わる頃には彼女を好きになり、1週間後には告白をしていた。



 タララララララ ティンティティ……


ほうじろさん……僕と付き合って下さい」


 廊下を歩いていた彼女を見つけるなり、俺はいきなり思いの丈をぶつけた。


 一瞬、驚いた様子の彼女だったが、俺の言葉を理解すると、みるみる白い肌は紅をさし伏し目がちに呟いた――


「私も伊達君の事が好きでした……」


 タッラララ……


 思いも寄らない彼女の言葉に、俺は身体が震える程、驚いた。先程、彼女が俺の言葉に驚いたよりも何倍も俺は彼女の言葉に驚いた。


 そして身体全体が暖かくなり嬉しさのあまり思わず俺は彼女を抱きしめてしまう。

 

 突然の事に彼女の身体は一瞬、強張った様に思えたが、すぐに喰代さんは俺の身体を抱きしめ返してくれた。


 あーこれでようやく長かった暗黒時代は終わる。


 そして、これからは日の光が射す喰代さんとの暖かい時間だけが訪れる。

 俺はさらに彼女を強く抱きしめる。


 タンタタタ タラララ……


「えっ 何あれ。喰代メッチャ抱きしめられてるんですけど!」

「えーマジ。よく喰代なんて抱きしめるよねー」

「ホント、目が真っ黒でチョー怖いのに!」


 どこからか二人の幸せな時間を邪魔する声がする。

 俺は若干イラっとしながら声のする方に視線を向ける。

 そこにいたのは昨日までの自分と同じ匂いがする三人の女子生徒。

 三人は斜めに身を構え、こちらの方を不満そうに見ていた。


 あー……そういうことかと、俺は直ぐに理解する。


 多分、この子達は恋愛に興味があるものの自分達には彼氏がいないものだから、それでやっかんで他人の恋愛にちょっかいを出して来る……例えるなら恋愛コバンザメ。


 かわいそうなJKだ……。


 憐れむ目で彼女達を見ていた俺だったが、一つ許せない事があった。それは喰代さんの目が怖いと言った事だ。

 よくもまあー喰代さんがカワイイからって酷いことを言うものだ。


 俺は喰代さんを抱きしめている手を少し緩め、彼女を見詰める――


「喰代さん、あんな人達の言葉なんて気にしないで下さい!」

「あなたの瞳はとても……」


 …………真っ黒だった。

 むちゃくちゃ真っ黒だった……

 人とは思えない程、真っ黒だった……


 そう……俺の目の前に居たのは喰代さんではなく、ホオジロさんだった。コウさんではなく鮫さんだった。


 俺はベッドの上で、抱き枕のホオジロザメを思いっきり抱きしめていた……


 タララララララ ティンティティ……

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