第51話 男子二人の秘密の行き先 その1
駅ロータリーを出たバスは左折すると国道を西へと向かう。車内には想真達の他、老夫婦が一組乗り合わせているだけ。右側二人掛け席の前から三番目が想真達で老夫婦は同じく右側の後から二番目である。バスが出発してから二人は特に会話をすることもなく神山は窓側の席に座り外を眺め、隣の想真は進行方向の風景を眺めつつ昨日ことを考えていた。
昨日の事とは碧依との一悶着である。
「いや絶対、私も付いて行くから!!」
「本当に、明日はダメなんだって……」
「それ、おかしいでしょう! ガッ君と一緒に行くんだったら、私が行っても全然イイじゃん!」
「本当にゴメン、碧依ちゃん……」
「なんか昔もこんな事あったよね、私だけ除け者にして男子だけでパラダイスに行くの! あの時はカブトムシを取りに行ったみたいだけど、高校生になったら速攻、合コンとかいうパラダイスでメスカブト取りですか! 本当にいやらしい! 二人とも!」
「いやいや……碧依ちゃん、そんなのどこで覚えたの……そもそも俺は合コンなんて一回も行った事ないし、多分、ガッ君もそうだよ」
「じゃーやっぱり明日、一緒にデビューするんじゃん!」
「いや、だからデビューなんてしないって……」
その後も丸テーブルを挟み二人の押し問答が続いたのだが……
「じゃーもーいいよ……」
「やっと分かってくれた」
それ聞いて想真はほっとした表情をしたのだが、不意に前の碧依が立ち上がり奥にある勉強机の方へ。そして机の上に置いてあったノートパソコンを両手で持つと、ドアへと歩いて行く。
「えっ!? どうするの、それ……」
「あーこのパソコンの中身をママさんに見て貰おうと思って」
「いや、ゴメン……言っている意味が分かんないんだけど……」
「そうなの? 実はね、このパソコンの中には『バーババ』っていうフォルダがあるんだけど、その中には、いかがわしいバーババ動画の数々がいっぱい入っているんだよ!」
「…………」
「……分かった……とりあえず『なんでも言うことを聞く券』を一枚発行するんで、そのパソコンは元の場所に戻そうか……」
その後、想真は碧依に留守番を納得させるため、さらにあと二枚『なんでも言うことを聞く券』を発行することになる……
そして想真は思うのである……『やっぱり一切合切見られていたんじゃーねーか!!』と。
バスの座席に座る想真の眉間には、先程までなかった皺がくっきりと刻まれていた。勿論、その皺は碧依に『ひとりゴソゴソ』を見られてしまった慙愧の念から刻まれたものである。
少しして今度は首を傾げ、頭を掻く想真。
こちらは昨日あれだけゴネていた碧依が今朝は打って変わって笑顔で自分を送り出した事に対する不信の表れである。
再度確かめる様に想真は後を振り返り、もう一度バスの中を確認する。
が、やはり乗っているのは老夫婦一組だけ。想真は少しホッとした表情で向き直った。
だが……彼は知らない……朝、想真が部屋を出た後、碧依が発した言葉を……。
「では、私達もそろそろ行動を開始しようか――ワトスン三号」
国道を西へと走っていたバスは信号で右折すると北へと向かう。走るにつれ道は徐々に勾配がきつくなり、車窓から見える風景も緑が多くなっていった。
暫くするとバスは一層エンジンをふかし急傾斜の坂を上り始める。そして周囲が一望できる小高い丘を登りきると、さらに四百メートル程走ってバスは停車した。
ドアが開き高校生二人が降りる。まず彼等が見たのは登って来た坂の向こう。そこには目線より下、遥か先に先程出発した駅が見え、さらにその向こうにはキラキラ光る海が薄らと見えていた。
丘からの景色を確かめると、想真達は歩き出し、バス停左側、手摺りの付いたスロープを登り、緑豊かな施設へと入って行った。
想真達から遅れること数十秒、バス降車口からは「おじいちゃん、おばあちゃん気を付けて」と聞こえ、老夫婦と犬を抱えた少女が降りて来た。当然、運転手も老夫婦も彼女の存在には気付いていない。
だが三十メートル程離れた場所に立つ黒髪の少女は、犬を抱えた彼女をじっと見ていた。
チッチを抱えた橘碧依を見詰めていたのは三善咲。犬と少女に気付いているのは彼女だけで、他の六人は、只今、第二回女子ミーティングの真最中である。
「さすがに興味本位で付いて行く様な場所じゃないよね」
黒木がそう言うと――
「確かにね。それにあそこで合コンやるとかは絶対ないだろうし!」
田所も同意する。
「じゃーどうする? これから」
周りを見ながら黒木が尋ねると、これに答えたのは小島深月。
「戻って、みんなで御飯……舞ちゃんのおごりで……」
「はーあ!!」
丘の上に小暮舞子の声が轟いた。
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