第53話 楽しい……女子会?

 女子七人が個室で揉めたいた、ちょうどその頃、同じ和食レストランに二人の男子が入店した。

 店に入った二人は女性店員に窓側の席に案内されると、早速メニューを見て料理を注文する。

 そして女性店員が席を離れると、すぐ――


「えっ!? ガッ君……さっきミックスフライ定食注文していたけど、大丈夫なの?」


「あー大丈夫。何か食べられる様になったんだよね。中二の時、一週間くらい入院した事があったでしょう。退院したら、何故だか普通に食べられる様になっていたんだよ」


「へーそうなんだ。そう言うこともあるんだね。まーでも……あれは……しばらく食べられなくなるのも無理はないよ……」


「まー……そうだね……」

 想真と学は同時に溜め息を吐き、小学三年一学期、夏休み前の出来事を思い返した……



「昨日、カブト、三匹採ったんだー」

「タケちゃん、すげーなぁ! そこパラダイスじゃん!」

 碓永武の話を教室で羨ましそうに聞いていたのは想真と学である。


「明日、また俺達、カブト取りに行くけど二人も行く?」

 武達三人にカブト虫採りに誘われ、想真と学も行く気満々。ただ気掛かりなのは橘碧依である。想真と学二人だけで行くとなると、必ず『なぜ私も誘ってくれなかったの!』と後で五月蝿いからだ。とは言え、詳しく場所を聞けばパラダイスは学校の校区外で、バレると親や先生に、碧依まで叱られてしまうため二人はこの件を碧依に内緒にして行く事にした。


 翌々日――

「カブトムシだけじゃなく、クワガタも採れるんだね」

「やっぱパラダイスじゃん!」

 教室で盛り上がっていると、想真は不意に視線を感じ廊下の方をチラリと見る。

 だが、そこには誰もおらず、少し気になったが直ぐに話しに戻り、五人はパラダイスの話で盛り上がった。


 放課後、帰る準備をしていると、学と一人の女子が想真の所にやって来る。聞けば碧依からの伝言で直ぐに手洗い場まで来いとのことだ。想真と神山は顔を見合わせ、『なんだろう?』という顔で手洗い場へと向かった。二人が手洗い場まで行くと、また別の女子が一人おり「これ」と言って想真達に小さな紙を渡し、その子はすぐに去って行った。

 二人は不思議そうな顔で紙を広げ、中を確認する。

 そこには『今日は先に帰って下さい』とだけ書かれていた。


「こんなの直接、言えば良いじゃん!」

「そうだね」

 学も同じ意見だ。

 二人は腑に落ちない様子で教室に戻ると、ランドセルを背負い、教室を後にした。

 廊下を二人並んで歩いていると、近くを歩いていた女子達の声が聞こえてくる。


「なんか、変なニオイしない?」

「なんか臭いねー」

 その声に『確かにクサいなぁー……』と思いつつも想真達は階段を下り校舎を後にした。

 そして校門まで歩いて行く途中、二人はある異変に気付く。


「想ちゃん……何か、ランドセルから、カサカサ聞こえるんだけど……」


「俺も……さっきからガリガリ言ってる……」


「「わぁー!!!」」


 想真と学が叫び声を上げ、急いでランドセルを肩から下ろす。

 そして二人は顔を見合わせ、『うん』と頷き、同時にランドセルを開ける……


「うーわぁ!? なんか、でっかいカメ!! めっちゃ縦に入ってる!?」


 想真がランドセルの中を見ると、筆箱の横に体長二十センチオーバーのカメが絶妙に縦置きされていた。その様子に想真が顔を引き攣らせていたのだが……すぐ隣から――


「痛い!! イタタタタタタ――」

 悲鳴が聞こえる。


 慌てて想真が目をやると、クソでっかいザリガニに学が咬まれていた……。



「「はぁー……」」

 二人は同時にテーブルで溜め息を吐く。

 そして想真はマジマジと自分の手を眺めた。


「あのザリガニ、今の俺達の手くらい、デカかったよな……」

「そうだね……」

 前に座る学も、そう言って自分の手を繁々と眺める。


「俺達、大きくなったよなぁー……」


「そうだね………………じゃなくて!! あれやったの碧依ちゃんだよね!! 碧依ちゃんは知らないって言っていたけど!」

 珍しく怒った表情をする神山。


「……だよ。だって、あの二匹に、碧依ちゃん名前を付けてたもん……」

「えっ!? そうなの……」


「ガッ君の指をガッツリ挟んでいたのが〝アメリカザリガニのジョニー〟で、俺のランドセルに入っていたのが〝クサガメのクサ太郎〟」


「…………」



 神山がテーブルに肘を突き、両手で顔を覆っていた頃、同じ店の個室では女子達が賑やかに食事をしていた。そんな中、ツーサイドアップの女子がローストビーフ丼を食べ終わると、暇なのかジーと前を見始めた。


「今度はなに?」

「学校にいる時と、なんかキャラが違う……」

「別に変わらないけど!」


「今のそれも、学校ではそういう言い方はしない。多分、学校では……ネコかぶってる」


「今! ネコじゃなくって言おうとしたでしょ!!」


「してない……」と言いなが目を逸らす小島。


「まーたー、深月! もう鳴海さんにちょっかいを出すのやめな! ゴメンね鳴海さん」

「別に気にしてないから!」


「トラのシャツ、ディスられたことは結構気にしてる……」


「はーあ!!」

 またも揉め出す二人。これを見た小暮が――


「本当にゴメンね! 鳴海さん。この子、昔からこんな感じなんだよ。見た目はロリロリで無害な小動物系なクセして、吐く言葉は猛獣並みの毒舌。だから、このの見た目には騙されないでね!」


「でも、そういう動物、オーストラリアかどっかにいなかったっけ? 見た目めっちゃカワイイのにスゴく獰猛な奴!」


「タスマニアデビル?」と桜井が言うと田所が「あっそうそう」と返した。


「あーそれなら私も知ってる。見た目はすごく可愛いだけど、悪魔みたいにエグい声で鳴くから、タスマニアデビルって言われているんでしょう」

 黒木の話に、鳴海がニヤリとする。


「あーそうだ小島さん、私がいいニックネーム、あなたに付けてあげる。見た目は可愛いロリだけど、吐く言葉は悪魔みたいに意地悪だから――っていうのはどう?」


 これに珍しく目を見開き、反応を見せる小島。

 そして――


「それ、スゴくいい……ありがとう、タイガー」


「誰が! あばずれタイガーだ!!」


 思い掛けない小島の反撃に、鳴海は顔を真っ赤にし、黒木と田所は肩を震わせながら必死に笑いを堪えた。

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