第45話 球技大会 その1 波乱の球技大会
球技大会当日は晴天。
野外でスポーツを行うには持って来いの五月晴れとなる。
そんな心地良い天候の下、全生徒がジャージ姿で中央グランドに整列し球技大会の開会式が行われた。式はまず学校長のお言葉、続いて三善生徒会長の挨拶、そして生徒会書記川瀬が大会の注意事項を述べ、その後は各学年、各会場に分かれて大会が本格的にスタートした。
当日、想真の初仕事はクラス男子全員の手にバツを書くことから始まる。これは安全対策の一環で試合中男子は利き手でボールを投げる事が禁止され、それを審判から分かり易くするため利き手の甲に黒マジックでバツを書く事になった。
この作業は各クラスの実行委員が担当することになっていたのだが……想真の前に並んだのは神山と今井のたった二人。残りの男子達はマジックで書く際、鳴海に手を握って貰えるとあって彼女の前に列をなした。これには想真も『そりゃー分かるけど……』と思いつつも、若干ヘコんだ顔で隣の長い列を眺めた。ただ……彼は気付いていない鳴海も微妙にヘコんだ顔で隣の短い列を眺めていた事に……。
次の彼の仕事は中央グランドで行われる三組Aチームと五組Bチームの試合の審判。想真が試合の行われる第三コートに向かうと、すでに両チームの選手が来ており、この試合で主審を務める赤城、そして線審と得点係をやってくれる体育委員の女子も待っていた。遅れた事を二人に謝罪し、赤城からストップウォッチを受け取って想真は副審兼線審の仕事に就いた。
試合は両チーム代表者のジャンケンで始まる。通常、ドッジボールはコート中央ジャンプボールで試合開始となるのだが安全面からこれは止め、ジャンケンで勝った方がボールかコートかを選べる様に変更した。さらに公式ルールの規定では相手内野をアウトにした場合、当てたチームの選手は外野から内野への復帰などもあるのだが初心者には分かり辛いと言う事で今大会では不採用となった。
こうした特別ルールの下、ジャンケンに勝った五組Bチームがボールを選択し、それぞれ内野十一名、試合開始時の外野(元外野)一名というオーソドックスな陣形で試合が始まった。
そしてギャラリーが見守る中、内野五組男子が記念すべき第一投を投げる……が、ボールは勢い無く転々とコートの上を転がり自軍の外野へ。拾い上げた外野男子も同じく緩いボールを投げ込む。さらにこのボールを受けた同組女子も可愛らしくボールを投げたため球はゆるゆる――これを難なく相手三組男子がキャッチし攻守交代となったが、此方の三組男子も緩いボールを相手内野に投げ込んだ。
こんな攻防が何ターンか続く。
これを外から見ていた想真も、初めは投げるボールが緩いのは男子が利き手と反対で、女子もボールを投げ慣れない所為なのかと思って見ていたのだが、前半が半分過ぎた頃にようやくそうでない事に気付いた。
端的に言えば両チームともワザと緩いボールを投げ合っていたのだ。
その理由は戸惑い。
小学校以来久しぶりに男女一緒に球技を行い男女共々どこまで本気でやって良いのか戸惑っていたのである。
その後もこの状況は続き、結局、前半で内野がアウトになったのは三組女子が投げたボールを相手の女子がキャッチミスした場面だけ。結果、五組Bが内野を一人減らし三組Aチームが前半を取った。
ハーフタイム、想真と体育委員の女子がゆっくりと赤城の処に集まる。
すると――
「何かゴメン……」
想真がぼそりと謝る。
これに、すかさず体育委員の女子が「まだ、前半終わっただけだから――」とフォローを入れ、赤城も「そうそう」と同意する。互いに何がどうこうと詳しく話さなくても三人の共通認識は一致していた。
取り敢えず後半を見てみようと言う事で三人は分かれる。
後半――今度は三組Aチームからのボールでスタートしたが、状況が劇的に変わる事はなく前半同様、外から見ていると『もっとバンバン当てていけよ!』とツッコミを入れたくなる様な緩慢なゲームが続いた。当然、審判の想真がそんな野次を飛ばせる訳もなく、ただ試合の成り行きを見守る事しか出来なかった。
その後も想真の希望とは裏腹に盛り上がらない試合がなおも続いたが、唯一大きな歓声が上がったのは三組女子が気を抜いていた相手男子をアウトにした場面だけであった。
結局、後半内野がアウトになったのはこの場面と両チーム女子が一回ずつキャッチミスを犯し、後半も三組Aが取り、この試合は三組Aチームの勝利となった。
試合後、赤城と応援の女子は自分達の試合があるため「後よろしく」と言ってその場を後にし、試合のない想真は備品を次の審判に渡すため残る事となった。その間、彼が考えていた事は盛り上がらなかった先程の試合について……。
当初想真は球技大会で男女一緒にドジボールをやりさえすれば、当然の様に試合は盛り上がり、大会自体も成功するに違いないと単純に考えていた。だが実際に試合をやってみると、久しぶりに男女一緒に球技をやった所為か男女共々、戸惑いと遠慮から全く想定と違う試合内容となってしまう。
そしてこうなってしまった根本原因は……。
(やっぱり昔とは違うのか……)
想真は思い浮かべる、小学校三年、ドッジボールで男子と女子が対決した試合。
(あの頃は男子とか女子とかあんまり深く考えず、お互い憎ったらしい相手をドッジボールで叩きのめす、みたいな感じで盛り上がったけど……そりゃー小学生の時とは違うよなぁ……もうみんな高校生、男女の違いも十分分かっているし、そもそも今は対立する様な関係じゃない、むしろ互いに意識し合う相手だ。
だから今、久々にドッジボールをやってみると互いが互いを意識しまくって逆に盛り上がらない……そう……みんなお年頃なんだよ……こんなビミョーな感じになるならドッジボールなんて提案しなかった方が……)
そんな事を考えながらコートの端に立っていると……。
「岡崎、ダッサッ! なに女子にアウトにされてんの」
「イヤ悪りー悪りー」
「まーまー次の試合に勝てばいいじゃない」
負けた五組Bチームの面々が談笑しながら想真の横を歩いて行った。
さらに声が聞こえ――
「さっきの試合のMVPは智子でしょう」
「あれ、本当にたまたまだから」
「運も実力のうちって言うじゃん! 次の試合も頼むぜ、宮下」
今度は三組Aチームのメンバーが笑顔で横を通り過ぎた。彼等を見送りながら想真が呆気に取られていると、両チームとすれ違う様に向こうから実行委員の小暮舞子がやって来た。
そして開口一番。
「お疲れ。結構盛り上がっているみたいで良かったじゃん」
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