心当たりのある刺客
早速ギルドに向かって【ドラゴンハート】のスキルタブレットを報酬金と交換する形で手にした俺は、それが本物であるかを確認する。
――――ここに荒ぶる竜の脈動、【ドラゴンハート】を封ずる。
記されている文言から見ても本物のようだ。ステータスカードを近づければ反応があったし、偽物でもない。
早速、ステータスカードにスキルタブレットを取り込むと、【ドラゴンハート】をしっかりと習得することができた。
(よし……! ひとまずこれでロマン砲ビルドの下地はできた)
通常攻撃手段である【竜腕】に、最大の難点であったMP不足を解決する【ドラゴンハート】。この二つのスキルがあれば、他のロマン砲スキルを実用段階に漕ぎ着けることができる。その上で、次に俺が欲しいスキルは三つだ。
防御を兼ねた迎撃手段である【炎王結界】。
敏捷性を補助する【瞬迅雷光】。
遠距離攻撃手段である【エウロスの波動弾】
いずれも《エンドレス・ソウル》では派手なだけで扱い辛いと酷評された、ロマン溢れるスキルだ。
(問題はこれらのスキルも手に入れるのが簡単じゃないってことか)
できれば早くほしいが、急がば回れともいう。十五歳までみっちり鍛錬を積んで、万端の準備を整えてから臨みたい。
(その為には、細々とした汎用的なスキルも習得しないとな)
ロマン砲スキルだけでは俺が目指すビルドは完成しない。少ないMPでも発動できる、地味だが汎用性の高いスキルの数々があってこそ完成する。。
どれだけ派手でカッコいいスキルを使っても、負けた時に待っているのは『宴会芸なんて使うから(笑)』という嘲笑だけ。勝利だけがロマン砲を輝かせるのだ……そのことを俺はゲームで嫌というほど体験してきた。ましてや、この世界はゲームとは違うんだからな。
(一応、この三年間で冒険者に同行依頼を出して、近場にある色んなダンジョンを巡ったから、ある程度スキルは充実してきたけど)
レベル上げと並行して俺自身の技量を上げるための実戦訓練ついでに手に入れてきた汎用スキルの数々だ。大体は《エンドレス・ソウル》でも使ってきたスキルだが、中にはゲームには存在しなかったスキルも存在する。
(大体は小さい火を出してライター代わりになったり、冷たい水を出したりと、日常でちょっと役に立ちそうって感じのスキルだけど、
【危機感知】……これが俺が手にした、ゲームには存在しなかったスキルだ。
効果は名前から察しが付くように、迫ってくる危険を漠然とだが感じ取れるというもの。どんな危険が迫ってるとか、その具体的な内容までは予見できないが、自身の肉体にダメージを負う事態が直前に迫っていれば、それを感じ取れるというものだ。
(効果は限定的だけど、不意打ち対策とかには役立つのが良い)
ちなみに今日の訓練中、俺が弓使いの攻撃をある程度対処できたのも、このスキルによるところが大きい。常時発動型だからMPの消費も無いのもポイント高いし。
転生前、前田さんはこの世界と《エンドレス・ソウル》は細かい部分が異なると言っていたけど、そのことを実感できることだった。
(こういう俺の知識には存在しない有力なスキルもあるし、やっぱり今後も積極的にダンジョン攻略しないとな)
そんな事を考えながら屋敷に戻るための帰路についていた俺は、工房や倉庫が密集した区画にある、暗い裏路地を通っていた。
ここを通るのが、屋敷からギルドへ向かうのに一番の近道だからだ。三年前から頻繁にギルドに向かっている俺からすれば、この人気が無さ過ぎて不気味さすら感じる裏路地は馴れしたんだものである。
(といっても、今日はさすがに暗すぎるな)
念願だった【ドラゴンハート】が手に入ると聞いて、夕暮れ時に屋敷を出たからな。今じゃもう日が沈みかけて、ただでさえ日の差さない裏路地は夜のように暗くなっている。
(こういう時でも、手に入れてきたちょっとしたスキルが役立つ)
俺は自分の頭上に発動者を追尾し続ける光の玉を出すスキル、【トーチ】を発動した……その瞬間、【危機感知】スキルが強烈に反応した。
「うおっ!?」
とっさに地面に伏せると、背後から迫って来ていた何かが俺の頭上を勢いよく通過し、そのまま俺の目の前に着地する。
「な、何だ……お前は……!?」
俺を背後から襲おうとしたものの正体……それは、全身をフードで覆って容姿を隠した、両手に短めの片刃剣を持った人間だった。
フードで顔を隠してるから詳しい年齢は読み取れないが、身長は十三歳の俺よりもさらに低い……もしかしたら、十歳に届くか届かないかくらいじゃなかろうか?
そんな奴が、今間違いなく背後から俺を殺そうと襲い掛かってきたのだ。
(え? 何!? 殺し屋!? 暗殺者!? 殺人鬼!? んな馬鹿な!? 俺はそんなのに狙われる心当たりは――――)
……いや、あったわ。父やチェルシー、ディアドルたちからすれば俺は殺したいくらいに目障りだったはず。アウトローな人種を雇い、人気のない場所と時間を狙って俺の命を取ろうと考えても不思議じゃないかもしれない。
実際にそうであるという確証はないが、それが一番可能性が高いと思う。そうでなくても、平和な現代日本と比べたら人々の倫理観が低い世界だし、タダの趣味って感じで無差別に人を殺す奴がいてもおかしくはないかも……。
(さ、さすが異世界……!まさか殺人鬼のターゲットにされる日がくるなんて……!)
現代日本でも全く無いってことはない事態だが、それでも数万人中一人の人生に、一度あるかどうかの確率だろう。それがたったの十三年でこんな全く嬉しくない機会に巡り合うとは……。
なんにせよ、このまま無抵抗でい続けるわけにはいかない。そう即断した俺は【竜腕】を発動し、身構える。
(どうやら向こうも暗殺から戦闘に切り替えたっぽいしな)
少なくとも、俺を逃がす気はないんだろう。となれば戦うしかないわけだが、俺は自分の心臓が緊張で激しく鳴っているのを自覚した。
これまでも実戦を積み重ねてきたが、それはあくまでも指南役である冒険者に見守られながらの訓練。誰も助けに入らない、完全に一人の状態での殺し合いは初めてになる。
(焦るな……ここが正念場だ)
敵から視線を外さないまま、ゆっくりと空気を吐いて息を整える。
俺はこれまで先手を取るよりも後手から対応する、守りに長けた戦い方を学んできた。【危機感知】も合わせれば、相手の様子を窺ってから動いた方が良いし、幸いにも【トーチ】を発動したおかげで視野も確保できている。相手の動きを観察するのに丁度いい状況だ。
そんな風に後の先を狙う俺に対し、暗殺者はどう攻めてくるのか……そう思っていると、暗殺者の全身から赤い蒸気のようなものが立ち昇り始めた。
(……おい待て。あれってもしかして……!?)
それは俺がゲームでの通信対戦で、何度も何度も見てきた、あるスキルによるものだ。
もしも俺の予感が的中しているのなら非常に危険と言わざるを得ない……そんな危惧を肯定するかのように【危機感知】スキルが警鐘を鳴らすと共に、俺は巨大化した両腕を交差して防御体勢に移った。
「ぐっ!?」
その直後、暗殺者の武器と【竜腕】がぶつかり合い、甲高い金属音と共に火花が散った。
「んの……っ! オラァッ!」
俺は両腕を振り回して、懐にまで近づいてきた暗殺者を振り払うと、奴は着地と同時に高速移動を開始し、周囲の壁も利用しながら俺の周囲を旋回しながら一撃離脱の攻撃を繰り返してきた。
(は、速い……っ! それにあの赤い蒸気は……!)
【危機感知】のおかげで何とか対応できているが、俺自身の敏捷値を優に上回るこの速さ……そして攻撃の際に一瞬だが確かに見えた片刃剣全体の意匠を確認し、俺はこの暗殺者がどんなビルドを組んでいるのかが分かった。
(間違いない……【赤霧の死神】と【吸血の双刃】を合わせた吸血鬼ビルドだ!)
発動すれば持続的にHPが減り続ける代わりに筋力と敏捷のステータスが大幅に上がるスキル【赤霧の死神】と、相手に攻撃を当てれば自身のHPを少しずつ回復できる武器【吸血の双刃】……この二つを合わせることでスキルのデメリットを消しながら、高速移動と威力が高くて隙が無い連続攻撃を可能とするビルドだ。
スキル発動時に出てくる赤い蒸気が血に見えることや、武器の名前から吸血鬼ビルドと呼ばれるようになり、対戦だけでなく攻略でも猛威を振るっていたが、今問題にすべきはそこじゃない。
(なんてこった……! 初めての一対一の殺し合いで、俺の天敵と出くわすとは……!)
基本的に、素早くて一撃離脱を得意とする奴はロマン砲ビルドの天敵だ。【竜腕】を主軸にした近接戦闘でも相性がいいとは言えない。まだまだ修行中の段階で遭遇する敵としては、最悪の部類だろう。
(……だが、いずれは乗り越えなきゃいけない敵でもある)
冒険者になればいずれはこういう敵とも戦う事が分かり切っているっていうのもあるけど、それだけじゃない。
ゲームとして《エンドレス・ソウル》を楽しんでいた時もそうだった。俺はこういった、皆が強いと褒め称えるビルドを、ロマン砲ビルドで叩き潰すのが何よりの快感なのだ。
だからだろうか? 今の俺は命の危機を確かに感じながらも、同時に『どうやってコイツをぶちのめそうか』とワクワクしている。今なら戦闘狂と呼ばれる人種の気持ちが分かるようだ。
(それに……今の俺でも
そうでなければ、通信対戦で千連勝なんてできやしない。
懸念があるとすれば、この世界での訓練量が足りていない事だが……冒険者相手の成功例もちゃんとある。実戦でやるのは初めてになるが、ぶっつけ本番でやってやろうじゃないか。
――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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