1年後
最近、独り立ちできるのを指折り数えるようになった俺は、相変わらず訓練とスキル習得に時間を費やしていたのだが、そんな時間の中でベルの特異性に気が付いた。
(ギフテッド……ゲームには存在せず、この世界には存在する一種の才能を、ベルが宿しているということだ)
ステータスカードは本人の血を垂らし、個人情報を取り込むことで生成する。
それで初めて作ったステータスカードに記されている能力値は経験値を一切取り込んでいないため、オール1で固定、SPは5、スキルの表示覧もスカスカの状態が当たり前なんだけど、その常識を覆す人間が時たま存在する。
(それがギフテッド。初期状態から常人より優れた能力を持つ人間だ)
普通の人間よりも初期能力値が高かったり、SPが多かったり、初めからスキルを一つ以上保有している、単純明快な才覚を持つ人間……ベルはその内の一人だった。
(その中でもベルは特に貴重だっていう、能力上昇に補正が掛かるタイプだってんだから驚きだ)
これは長期的に見れば非常に優れた資質だ。
初期能力値が高いくらいじゃ、高レベル帯になると常人との間に大した差は生まれないんだけど、能力上昇に補正が掛かるタイプは、レベルを上げてSPを振れば振るほど常人との能力差が大きくなる。
例えば、SPを筋力に1振れば、筋力値は1上がるのが普通だけど、これがギフテッド持ちになると、上がる筋力値が2以上になったりするのだ。
(と言っても、全能力の上がり方が常人以上とか、そんな美味い話はなかったけど)
一口にギフテッドと言っても個人差が大きく、MPの上昇に補正が掛かるタイプもいれば、スタミナの上昇に補正が掛かるタイプもいる。
そしてベルの場合、敏捷値に補正が掛かるタイプだ。ちょっとSPを振り分けて検証してみたところ、敏捷の上がり方が他の能力と比べて二倍になっていた。
(レベルやスキル構成の割にはやけに速いと思ってたから、ギフテッドだってことは早い段階で分かってたけど、その中でも一番の当たり枠とは)
ラスボスの依り代になっていた影響か、それとも単なる偶然なのか……いずれにせよ、ベルは【瞬迅雷光】抜きでも俺以上のスピードを出せる可能性がある。これはとても大きく、そして嬉しい誤算だ。
(やっぱりベルはスピード特化のビルドを組むのがマストだな)
多分、ベルを操っていた奴も同じ事を思っていたんだろう。
初めて会った時から、SPの振り分け方が既にスピード重視になっていたから、俺とパーティを組んだ後も同じようにSPを振り分けてたんだけど、それが上手くかみ合っていたと思う。
敏捷値を上げれば、回避盾としての能力も生存確率も上がるしな。
(となると、ベルが突き詰めるべきは害悪型がいいだろう)
ゲームとかやらない人間にはあまり馴染みがないかもだけど、害悪というのは厭らしい戦い方することで敵対プレイヤーからは嫌われやすい、一部のプレイヤーの事を指す、ある種のゲーマー用語のようなものだ。
《エンドレス・ソウル》でもそういった害悪戦法をするプレイヤーは数多くいて、それよりも多くのプレイヤーから罵声を浴びせられていたものだが、いざ仲間になった時は非常に頼もしい存在でもある。
(そしてベルみたいなスピード特化に一番相応しい型は、状態異常を駆使したタイプだな)
敵を毒や麻痺状態にし、戦況を有利に働かせる状態異常系のスキルは、ゲームだけではなくこの世界でも非常に有用だ。
例えば、敵を麻痺状態にすれば自分だけでなく味方も敵に攻撃しやすくなり、逆に攻撃を対処しやすくなるし、毒状態にすれば攻撃をしなくてもスピードで翻弄するだけで敵を倒せる。
(特に毒みたいな継続的にダメージを与える状態異常は、無理して火力を上げる必要が無いからスピード特化のベルと相性がいい)
SPを他に回せるし、相手がどれだけ硬くてタフでも、毒状態にしてしまえば直接攻撃の威力が低くても倒せる余地があるし、何よりも俺の主目的を阻害しないのが大きい。
毒による継続ダメージで敵を倒すには時間が掛る……つまり、俺がロマン砲スキルで止めを刺す時間があるのだ。ベルもいざという時に一人で敵を倒せるし、一石二鳥だろう。
「というわけで、こういうビルドをお勧めするんだけど、どう? やってみる?」
「…………(コクリ)」
俺がプレゼンしたビルドを提案してみると、ベルはあっさりと頷いた。それからはベルのスキル集めに時間を費やした。
ひとまず、武器に毒を纏う【毒の剣】、相手を麻痺状態にできる電撃を放つ【スタンボルト】、睡眠効果を持つ霧を撒く【夢見の花霞】といった、《エンドレス・ソウル》でも登場する状態異常三点セットの習得は成功。それ以外のスキルは追々……独り立ちした後という形で落ち着いた。
(本当ならもっと早くに習得したいスキルがあるんだけどな)
俺の知識の中には、もっと強力な状態異常を引き起こすスキルに関するものもあるし、状態異常攻撃をサポートする常時発動型スキルに関するものもある。
しかしそれらのスキルはどれも高難度ダンジョンでしか手に入らない……少なくとも今の俺たちのレベルで挑むのは遠慮したい。
(いずれにせよ、本格的に動くのは成人後になりそうだな)
俺のロマン砲スキルにしても、ベルの状態異常スキルにしても、手に入れるには相応の準備としっかりとした基礎作りが必要だ。
改めて、ベルを含めた俺たちの目指すべきビジョンをしっかりと見据え、そこに至るまでの訓練を続け……気が付けば、ベルと出会ってから一年が経とうとしていた。
=====
さて、この度目出度く十四歳を迎え、独り立ちするまで残り僅かとなった今日この頃、この一年で色んな変化があったと思う。
分かりやすい変化として、俺の身長がぐんぐん伸びてるってことなんだが、ベルの身長も若干伸びているのだ。
出会った時は本当に十歳くらいの子供にしか見えなかったんだけど、今では目に見えてハッキリ分かるくらいに背が伸びている。
(まぁそれでもチビであることには変わりないんだけども)
ベルの年齢については、未だにはっきりしない。最低でも七百年以上前に実在したはずの人物だけど、外見だけ見れば子供にしか見えないから。
ただ、初めて会った時の印象通り、十歳っていうのはないと思う。なにせ痩せっぽっちでガリガリだったしな。子供が健全に成長するには、明らかに栄養が不足している感が否めなかった。
(この一年はちゃんと食事を摂ってたから、それ相応に身長が伸びたって感じだしな)
多分だけど、実際の肉体年齢的にはもうちょっと上……俺と同い年くらいなんじゃないかと思う。
それが栄養不足が原因で、実年齢と比べたらチビになったってところか。
(後は……表面的な態度とか仕草がより顕著になって分かりやすくなったってところか)
無表情自体は相変わらずだけど、何を考えているのか分からない、何も言わなければ人形みたいに動こうとしないなんて状態からは脱することができたと思う。
(少なくとも、今のベルは自発的に動くことが多くなった)
……まぁ本を読む時とか、質問がある時くらいにしか、自発的に動かないんだけどな。それ以外の時は基本的に、誰かに言われたとおりに動くのがデフォルトだし、極度の指示待ち人間であることに変わりはない。
それでも、これはベルにとって大きな進歩だと思う。心の問題は、変に焦って変化を求めるようなもんでもないしな。
(あと細かい変化って言ったら…………父やディアドルが、俺の事を睨んでくる機会が増えたってところか)
以前までは、俺を見かければ一睨みした後にすぐに目を逸らして、何も言わずに早々に立ち去っていたんだけど、最近では遠くから俺の事を憎しみの籠った目でジーッと睨みつけてくるのだ。
(……正直、気分が重い。あれ絶対に近々モーション仕掛けてくるよ……)
もちろん、悪い意味でな。面倒臭いったらありゃしない。
喉元過ぎれば熱さを忘れるなんて言うけど、今の二人はまさにそれだと思う。父はここ最近、執政官に怒られることもなかったし、ディアドルに至っては四年前からまともに顔を合わせていないし。
(考えられるとしたら、俺が成人を迎えて出ていく前に、これまでの鬱憤を晴らす仕返しをするってところか)
それも執政官から文句を言われない、合法的な手段でっていうのが確率が高そうだ。それなら対処も楽だからいいんだけど……それ以外となると、あまり考えたくないな。
……とこんな感じで、これまでの事とこれからの事、その他色んなことを考えていた俺の元に、ある朗報が届いた。
前々からギルドを通じて冒険者たちに出していた調達依頼……ロマン砲スキル、【エウロスの波動弾】のスキルタブレットの現物が、この町のギルドに届いたのである。
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