これからも


 フレアナイトを無事に倒したことで、俺は無事に【炎王結界】のスキルを手にすることができた。

 これで俺のロマン砲ビルド完成までの道のりは一つの区切りを迎えたわけだが、俺の追及はまだまだ終わりじゃない。


(【瞬迅雷光】の操作も、完ぺきとは言えなかったしな)


 目標としては、【瞬迅雷光】の発動中でも細かく、自在な動きを可能とすることだ。

 しかしフレアナイト戦での俺は、回避には無駄が多く、攻撃にしたってほとんど体当たりも同然のものばかり。幸いにして敵を倒すことはできたが、俺の理想にはまだまだ及ばない。


(成人まで期日も迫っている……これからも継続的な訓練を続けないとな)


 ……それはそれとして、俺には別の悩みもあった。

 すなわち、ベルの事である。


(そろそろ、今後の事を話し合わないとな)


 かねてより考えていた、ベルをこのまま俺の戦いにまで付き合わせるかどうか。

 前々からベルを戦わせることに抵抗を覚えるようにはなっていたけど、フレアナイトとの戦いを経て大怪我を負ったベルを見て、やっぱりこのままでは良くないと、より一層強く思うようになっていた。

 

(今回は無事だったけど、次はタダじゃすまないかもしれないしな)


 今ベルが戦っているのは決して自分の意志ではなく、俺に言われたからにすぎない。

 そんな風に戦って死んでしまうのはやっぱり違うだろう……もうそろそろ、ベル自身がどうするかを決める頃合いだ。


(いずれにせよ、そこら辺の事を話し合わないとな)


 そんな事を考えながら部屋に戻ると、ベルは窓から花壇の方を眺めているところだった。その視線の先には、白いベルフラワーが今年も咲き誇っている。


「ベル、ちょっといいか?」

「…………」


 俺が呼びかけると、ベルはチョコチョコと歩み寄ってきた。

 そして相変わらず何を考えているのか分かりにくい目で俺の事を見上げて来て、何となく居たたまれない気持ちになる。

 ……いやいや、怯むな俺。こういう話題は有耶無耶にせずに解決しないと。


「あー……そのだな。改めてお前に聞いておきたい事があるんだけど、今後のダンジョン攻略とか訓練とか、ベルはどうしたい? 参加するかしないか」

「…………?」


 質問の意図がいまいち分からないといった風に首を傾げるベルに、俺はさらに捕捉を加える。


「ほら、《煉獄の大聖堂》の時に何度か危ない目に遭ったし、最終的には大怪我をしただろ? それを見たらさすがの俺も心配するようになったっていうか……ベルももう戦いたくないって思ってるんじゃないかって思ってな」

「…………」

「もし今この場で答えを出せないならそれでもいい。時間はいくらでもやるから、明確な答えを出せるようになるまでは訓練もダンジョン攻略も中断して――――」


 そう言い分けた俺だったけど、ベルが俺の服の裾を掴んできたことでセリフが止まり、その隙をつくかのようにベルは口を開いた。


「…………嫌」


 それはベルが初めて口にした、明確な拒否の言葉だった。

 これまで指示を受ければそれに従ってきたベルが、フレアナイト戦の時みたいに拒絶を示している。そのことに少なからず驚いていると、ベルは続けざまに口を開く。


「…………これからも、ジードと戦う」

「いや、でもな。それで死んだら本末転倒だろ。もっとちゃんと考えてから答えを出した方が……」

「…………嫌」


 首を横に振って拒絶を示したベルは、俺の目を真っ直ぐに見据えながらこう続けた。


「…………ジードを……死なせたくない」


 それを聞いて、俺は言葉が詰まった。

 あの時にベルは言った……『ずっと一緒がいい』と。

 確かに俺はあの戦いで何度か危ない局面を迎えていた。ベルがいなかったら、死んでいたのは俺だったかもしれない……だからか? だからベルはこんなに頑なになっているのか?


「…………それに、ジードだって勝手にしてる……だから私も、勝手にしたい……」

「……それを言われたら何も言い返せないな」


 俺自身、自分の欲求の為に色々勝手にやってきた自覚がある。そんな俺がベルの選択の自由を邪魔するようなことをすれば、それこそ筋が通らないってもんだろう。


(それにしても、まさかあのベルがここまで強くNOを突きつけられるようになるなんてな)

 

 最初の頃と比べれば急激に口数が増えたのも驚いたけど、拙いながらも自分の意志を口にしている……その成長が、何よりも感慨深かった。


「……はぁ。分かった、そこまで言うなら今後の方針は現状維持。訓練はもちろん、ダンジョン攻略でも頼らせてもらうけど……後になってから文句言うなよ?」

「…………ん」


 こうして、俺たちは今後も一緒に戦う事になった。

 その結果が良いものになるのか、悪いものになるのかは分からないが……多分後悔はしないんじゃないかと思う。 

 だってそうだろ? どんな結末が待っていても、俺もベルも自分の意志で戦う事を選んだんだから。



 ――――――――――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

色々と伏線が残っているものの、本作は一段落したという事で、一旦筆をおかせていただこうと思います。

今後の連載再開については未定ですが、フォロワー登録、☆☆☆から評価次第で始めようと思っています。

楽しみにしてくださっていた読者の皆様には大変申し訳ありませんが、個人的な都合の兼ね合いもございますので、ご理解いただけますと幸いです。

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ロマン砲狂いの異世界攻略紀~滅びゆく世界で出会ったラスボスを光堕ちさせてみた~ 大小判 @44418

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