ロマン砲ビルドの戦い


(ここからはギャンブルだ)


 俺が制御をミスって死ぬが、フレアナイトが攻撃を食らい続けて死ぬかの二つに一つ。今の俺が【瞬迅雷光】を使って戦うというのは、そういう事だ。

 それでもやるしかない。そうでなければ俺もベルも死ぬのが確実だから。

 俺が構えを変えてたことでフレアナイトは少し躊躇しているような様子を見せたが、やがて大剣から光の刃を伸ばして、それを大きく振りかぶる。


「っ!」


 その瞬間を狙い、俺は光の尾を引きながらフレアナイトの懐に急接近し、がら空きになった胴体に助走をつけた正拳突きを叩きこんだ。

 ようやく与えられた渾身の一撃によって、足裏が地面から離れて数メートルほど吹き飛ばされたフレアナイトだったが、それでも地面に転がるようなことはせずに足裏から地面に着地。

 地面に線を引きながら体勢を整える……その間に、俺は隙を与えないように再びフレアナイトの元へと高速接近し――――。


「うぉ!?」


 ようとしたところで、フレアナイトは後退しながら大剣を縦一文字に振るってきた。

 頭上から高速で迫ってくる光の刃を、慌てて真横に回避することで事なきを得たが、自分自身のスピードを制御できずに転倒しそうになる。

 このままでは地面に転がってフレアナイトからの追撃を許してしまう。かといって、足でブレーキなどかけていたら【瞬迅雷光】のデメリットによって骨折だ。

 

「――――ふんっ!」


 だから俺は、竜化した腕を地面に突き立てて無理矢理ブレーキを掛けて体勢を整えながら力任せに方向修正し、即座にフレアナイトの元へと急接近した。

 これが俺が【瞬迅雷光】をビルドに組み込めた最大の理由。スキルの発動中に足でブレーキをかけようとすれば足の骨が圧し折れるが、何事も例外はある。


(【竜腕】によってパワーも耐久力も上がった両腕なら、【瞬迅雷光】が生み出すスピード、その負荷を耐えることができる!)


 ようは【瞬迅雷光】の発動によって、足で行うのは困難になる停止や方向転換を、足よりもさらに強靭な竜化した腕が代わりにやろうという訳だ。

 このスキルを使えば鬼のように頑丈になるから骨折をするようなこともない。おまけに直立姿勢でも手の甲が地面に付くくらい腕が長くなるから、簡単に地面に爪を突き立てられて制御もしやすいのだ。


「どらあぁっ!」


 再びフレアナイトに接近した俺はもう一発、助走をつけた一撃を叩きこんでフレアナイトを壁に叩きつけた、

 ……今の俺の魔力値とフレアナイトの耐久力を考慮すれば、最初と今の一撃で【ドラゴンハート】の効果が発動し、MP切れ寸前のところから八割ほど回復したはず。ゲームで散々考えてきたダメージ計算や回復量の数値を信じ、追撃。

 壁に叩きつけられたフレアナイトに対し掌底突きを叩きこんで、奴を壁にめり込ませた……が、俺の本命はそこではない。


「やっと捕まえたぞ……!」


 大きく罅割れ、陥没した壁にめり込んだフレアナイトの全身を、剣を持つ腕ごと巨大化した手で鷲掴みにする。

 そして俺はそのまま、フレアナイトの体で壁に線を引きながら猛スピードで走り出した。

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」


 バキバキバキャと破砕音を鳴らしながら、フレアナイトの体で壁を抉り続ける俺に対し、当のフレアナイトは激しく身動ぎして抵抗しているが、脱出までは出来ていない。

 それはそうだろう。さすがのフレアナイトでも【竜腕】を発動した手でガッチリと拘束されれば脱出はほぼ不可能だ。

 俺の狙いは打撃に寄ってダメージを与える事だけではなく、反撃できないようにすることだ。ちなみわざわざ壁に叩きつけたてから拘束したのは、勢い余ってフレアナイトの体を吹き飛ばし、掴み損なうのを阻止するためである。


(だが壁に擦り付けてるだけじゃ、頑丈なフレアナイトにダメージは与えられない……!)


 握り潰そうにも、今の俺じゃ魔力値が足りない。

 ならばと、俺は【空歩】のスキルを発動。フレアナイトを拘束したまま大聖堂の中央、その上空へ向かって一~二秒ほど駆け上がると――――。


「【エウロスの波動弾】の真価はここからだっ!」


 俺は【エウロスの波動弾】を発動する。

 真上に生成された巨大なエネルギー弾……そこに向かって、俺はフレアナイトの体をぶん投げた。

 当然、飛行手段を持たないフレアナイトはエネルギー弾に直撃……そのまま大爆発を引き起こし、フレアナイトは強烈な閃光と衝撃の中へと飲み込まれた。


(相手を直接エネルギー弾に叩き込む投げ技……これが【エウロスの波動弾】の本当の使い方だ)


【エウロスの波動弾】によって生み出されたエネルギー弾は弾速が遅すぎて折角の威力と追尾性能が死んでいる……だからこのスキルが使い物にならないなんて言う考えは雑魚の思想だ。

 ロマン砲スキルの活用に心血を注いできた俺は、むしろそのデメリットを活かして、スキル自体を投げ技に組み込む。

 幸いにして、【竜腕】はその性質上、敵を掴んで投げることに長けているからな。その【竜腕】と組み合わせることで、【エウロスの波動弾】は全然敵に当たらないスキルから、掴まれば大ダメージ必至の投げ技へと昇華した。


(だが、これでもまだ奴は倒せないか……!)


 元々、フレアナイトはかなり頑丈でタフな敵だ。今の俺のレベルが低いことも相まって、奴は未だ健在。全身から煙を上げながら落下していくフレアナイトの姿を、俺の目で確認できた。


(だが【ドラゴンハート】の効果で、俺のMPは補充された!)


 俺は再び【空歩】を発動し、落下中のフレアナイトの元へと駆け上がり、もう一度この竜化した手で拘束しようとした、その瞬間……【危機感知】スキルが反応を示した。

 なんとフレアナイトはあれだけのダメージを受けて吹き飛ばされながらも、光の刃を伸ばす大剣を構えて、接近してくる俺を迎撃しようとしているのだ。


(ヤバい……! 回避……間に合うかっ!?」


 俺が攻撃を中断して全力で回避をしようとした、まさにその時。フレアナイトの動きが不自然なくらいに鈍くなって、大剣を振ろうとしていた両腕が止まった。

 

(ベルの【スタンボルト】……ここで効いてきたか!)


 相手を麻痺状態にできるスキル。戦闘開始から食らわし続け、俺を庇った時も最後の抵抗とばかりに叩き込んだ、その成果がこの土壇場で花開いたんだ。

 ベルの足搔きは無駄ではなかった。結果として、フレアナイトは致命的な隙を晒した……それを見逃さず、俺は再びフレアナイトに向かって接近し、奴の全身を両手で掴み上げて、そのまま床上十数メートルの壁へと叩き込んだ。

 パラパラと破片を床に落としながら、深々と壁にめり込むフレアナイト。これなら簡単には脱出できないだろう……そう確信した俺は、フレアナイトから手を放し、床に向かって飛び降りた。


「じゃあなフレアナイト……お前は今世で戦ってきた誰よりも強敵だった……!」


 自由落下をしながら振り返った俺の視線の先……そこには今まさに、フレアナイトがめり込んで穴が開いた壁に直撃しようとしている、巨大なエネルギー弾があった。

 フレアナイトを壁に叩きつける直前に、俺が発動しておいた【エウロスの波動弾】だ。起爆性の高いエネルギー弾は壊れた壁に触れた瞬間に爆発。壁に空いた穴を更に押し広げた。


「…………終わったぞ、ベル」


 俺はこちらをジッと見ているベルに視線を向けながら、力の抜けた笑みを浮かべる。

 濛々と立ち込める土煙でフレアナイトの姿は確認できない……その代わりに、ボスモンスター討伐の証である宝箱が、大聖堂のど真ん中に出現していた。 

  



 ――――――――――

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