閑話のような時間

・読者の皆様へのお詫び

先日の午前6時ごろに投稿したつもりが、なぜか保存状態になっていて投稿できていませんでした。楽しみにしてくださっていた方々には深くお詫びします。

その償いという訳ではありませんが、本日投稿する予定だった話は18時前後に投稿しますので、よろしければ読んでくださると幸いです


   ―――――――――



 公爵邸からほど近い場所にある森林地帯。【竜腕】を発動した状態で、全身に青白い雷光を纏った俺は思いっきり木にぶつかった。


「い……ったたたぁ……やっぱりゲームの時みたいにはいかないか……」


 揺さぶられて落ちてきた木の葉を浴びながら、俺は一人呟く。 

【瞬迅雷光】のスキルを無事に習得し、ようやく始めた制御の為の訓練は中々厳しいものがあった。

 元々、ゲームの時でも使いこなすのにかなり苦労した。それが十三年のブランクに加えて、ゲームと現実の差異もあるとなると、制御できるようになのは前世より難航するのは分かっていたことだ。


(だが進捗はある。実際にスキルのデメリットはどうにかできたし)


 訓練は全く無駄というわけではない。この世界でも【竜腕】を駆使すれば、【瞬迅雷光】の最大のデメリットを解消できるのを確認できたのは何より大きい。

 

(あとは壁とかにぶつかるのを無くせばいいだけだ)


 だからこうして、俺は山や森などの障害物だらけの場所で、【瞬迅雷光】と【竜腕】を同時発動させた状態での、毎日ルートがバラバラの全力ダッシュを日課に加えた。

 最初の方こそ制御が効かずに木や岩にぶつかったり、遭遇したモンスターとかに体当たりしたおかげで毎日ボロボロになってたけど、その事故率もだんだん少なくなってきているのだ。


(ついでに言えば、【瞬迅雷光】の消費MPがゲームと同じだったのが僥倖だな)


【竜腕】の消費MPは70。【瞬迅雷光】の消費MPは61。

 俺はステータスカードの最大MPを134で差し止めている。SPを効率よく振る為でもあるが、同時に【ドラゴンハート】などのMP回復抜きで【瞬迅雷光】と【竜腕】を発動できるだけのMPを確保する為でもあるのだ。

 余りの分はステータスカードの性能的に現れた単なる端数だが、こちらにだって計算し尽くした上での使い道はある。


(【空歩】のスキル……これの消費MPも知識通りでよかった)


 俺は懐から取り出したステータスカードを確認しながら、スキルの一覧を表示させる。そこには【空歩】というスキル名が記されていた。

 このスキルは名前の通り、空中を歩いたり走ったりすることができるスキルだ。ただし任意発動型で、消費MPも他のスキルには中々ない特殊なものとなっている。

 

(一秒につき消費MP1……俺の最大MPを無駄なくきっかり使い切る量だ)


 一度発動すれば、自分で解除するかMP切れになるまで空中を自在に走り回れるが、効果を持続する為には一秒に付きMPを消費し続けなければならない。

 だから俺の場合、MPを回復させずに【竜腕】と【瞬迅雷光】を発動させた状態で【空歩】を維持できるのは三秒だけなのだが、【瞬迅雷光】で敏捷値が激増している状態なら

できることは多い。

 具体的には、【竜腕】でも届かない上空の敵を攻撃したり、何もない空中に放り出されても地面に落下する前に復帰したりな。おかげで俺も訓練中に崖から飛び出して地面に激突なんてことは避けられてるし。


「さてと……もういい時間だし、そろそろ切り上げるか」


 俺は汗だらけで疲れ切った体を引きずり、屋敷の方へと戻る。

 会ったら面倒な父やチェルシー、ディアドルと鉢合わせやすい正門は避けて裏門を通り、裏口から屋敷内に入って廊下を進んでいると、窓から見える広い庭の真ん中で木剣を握り、見知らぬ大人に振り下ろしているディアドルの姿が見えた。


「ディアドル様! 正面から行きすぎです! 熱くなれば攻撃が単調になる癖があるようですので――――」

「うるさぁああああいっ! この! この! このぉおおおおおおおっ!」


 恐らく、外部から呼び寄せた剣術指南役に稽古をつけてもらっているんだろう。それ自体は別にいいんだが、やたらと怒り任せに木剣を振り回して、その悉くが指南役が持っている木剣に弾かれているのが、傍から見てもありありと分かるのが気になった。

 どうも熱くなりすぎているように見える。いや、戦闘中は気が高ぶるから熱くなるのも分かるんだけど、それにしたって攻撃が雑だ。

 一体何がディアドルをそうさせているのかと思っていると……。


「僕は……僕は次こそジードの奴をぶちのめすんだあああああああ!」 


 何つー傍迷惑な事を叫んでやがる。

 もしかして、アレか? 三年前のいざこざを逆恨みされてる? ちょっと強めに脅したら漏らしたことを根に持ってる?

 あの一件以来、ディアドルも俺に近づかなくなったから面倒ごとが無くなったと思ってたんだけど、そうじゃなかったのか……。


「マジかよ……だっっる……」


 これはまた、ディアドルとの間にひと悶着あるかもしれない。

 チェルシーはストレスの捌け口に酒に溺れるという手段を見つけ、ルールセン執政官たちにこき使われまくっている父は、最近すっかりうだつの上がらないリーマンのようになってきてるみたいだから油断してたけど、内心ではまた良からぬことを企んでいるかもしれない。


(ベルを俺に差し向けてきた疑惑も晴れてないし、また面倒ごとが起こる前にとっとと十五歳になりてぇ)


 俺はディアドルに見つからない内にとっとと退散し、自分の部屋に戻る。

 その部屋の片隅では、ベルが一冊の本を読み耽っていた。


「ただいま。何読んでるんだ?」

「…………」


 ベルは無言のままスッと表紙を俺に向ける。本のタイトルは【エヴリンの赤い木の実】という、アレイスター公爵邸の蔵書室にある児童書……いわゆる絵本だ。俺も子供の頃、母上にこの世界の文字の手習いがてらに呼んでもらったことがある。

 ストーリーは【わらしべ長者】みたいな感じで、小さな家に住む大家族のために主人公のエヴリンが赤い木の実……つまりリンゴから物々交換を始めて行き、最後には自分の家族全員が余裕を持って暮らせる大きな豪邸を手に入れるって感じのだったはず。


「面白いか? その本」

「…………わからない」


 面白いかどうかは判別できない。けれど興味が無いわけじゃないんだろう。その証拠に、ベルは本に描かれた絵と文章を眺めるのを止めようとしない。

 ……《アウロラの霊廟》以来、ベルにちょっとした変化が現れた。それまでは何を見ても何も感じてないって様子だったんだけど、今では自分の気になるものを見つければ、それをガン見するようになるという、ちょっと分かりやすい態度をとるようになったのだ。


(そんな中でベルが一番興味を持っているのが本っていうのは、いいチョイスだと思う)


 本は読んだ人間の世界を広げてくれる。幸いにも、この屋敷の蔵書室には多彩なジャンルの本があるし、これを機に自分の世界観を広げてくれたらいいと思う。


「あ、そうそう。明日の行動予定なんだけど、またダンジョンの攻略準備するからよろしく頼む」

「…………(コクリ)」


 ……といっても、どこのダンジョンをクリアするかはまだ決めかねてるんだけどな。

 よほど高難度なところを除けば、必要なスキルタブレットが出てくるダンジョンは全て踏破済み。ここはベルのスキルの充実化の為に動くべきか。

 その為にはどうしても町で準備をしないとなんだけど……。


(考えてみれば、ここのところ訓練、ダンジョン、準備ばかりだったな)


 以前、色んな料理をベルに食べさせた時みたいに、また町を色々探索してみるのもいいかもしれない。

 特に本屋と激辛料理店。ここまで俺に付き合ってくれたベルに、せめてものお礼に立ち寄ってみよう。




――――――――――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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