ロマン砲狂いが語る世界の真理
「……あふっ♡ ~~~~~~~っっ!」
ボーンデビルによって生み出されたアンデッドモンスターたちが、創造主の死と共に崩れ落ち、元の骸骨へと戻っていく。その音を聞きながら、俺は自分の中に大量の経験値と一緒に快感が流れ込んでくるのを自覚した。
物理的な干渉はないはずなのに、ゾクゾクゾクッという前立腺を刺激されるような感覚が体内を撫で回し、膝がガクガクと震えそうだ。
(やっぱりイイ……! 体のデカいモンスターをぶちのめすのは……!)
ここまでの道中で遭遇したアンデッドみたいに比較的小柄なモンスターを景気よく吹き飛ばすのも良いが、自分よりも体の大きなモンスターを力任せに、豪快に捻じ伏せるのもまた違った趣がある……!
それが強敵であればあるほど、倒した時の達成感も相まって言い表しようのない愉悦となって全身を駆け巡るのだ。
(そして止めを刺す時の勢いで出来た陥没痕! 蜘蛛の巣状に割れた地面! 舞い上がる土埃! 鳴り響く轟音! はぁ……はぁ……た、堪らねぇ……!)
これぞ通常攻撃の極致。剣とか槍とか平凡で地味な武器を振り回してるだけじゃ辿り着けない、【竜腕】だからこそできる最高に派手でカッコいい通常攻撃だ……!
(は、早く【炎王結界】や【エウロスの波動弾】も使いたい……!)
しかし《エンドレス・ソウル》に出てくる他のロマン砲の派手さとカッコよさは、【竜腕】の比ではない。MP消費量百オーバーという、馬鹿げた燃費の悪さに見合うだけのエフェクトと威力があるのだ。
そんな風にロマン砲スキルへの渇望に悶えていると、ふと俺に向けられる視線に気が付いた。
「…………」
視線の主は案の定というべきか、ベルだった。いつも通りボンヤリとした無表情で、それでもどこか興味深そうに俺の顔を凝視している。
ベルと知り合ってそれなりの時間が経ったが、彼女が人間に対してこのような視線を向けるのは初めてだ。しいて言うなら、その目は激辛系の料理を食べている時に似ているかもしれない。
「ベル、一体どうし……いったぁっ!?」
グルンと勢いよく振り返ると、横っ腹に強い痛みを感じた。
そう言えば、俺怪我してるんだった。ロマン砲スキルでボスをぶちのめした快感が痛みを超越していて忘れてた。
「悪い、ちょっとポーション取って」
「…………(コクリ)」
【竜腕】を解除し、ベルから受け取った回復ポーションを傷に振りかけると、皮膚が破れて肉が露出していた傷痕が、煙を吹きながら一気に治る。
服やズボンは血で塗れたままで傷痕は残ったけど、痛みは残さず完治したのを確認すると、俺は改めてベルと向き合った。
「それで、どうした? そんなに俺の事をガン見して」
……もしかして、俺がロマン砲スキルで悦に浸っているところを、変なものを見るような目で見ていたんだろうか? しかしそれは無理もないこと……直しようもないこの世の摂理みたいな反応でしかないんだが?
「…………分からない」
そんな風に俺が懸念を抱いていると、ベルはこれまた珍しく戸惑っているかのように口籠っていると、やがてゆっくりと、自分が言う言葉を一言一句確かめるかのように口を開いた。
「…………ジードが割り込んで血を流したのを見てたら…………何となく気になった」
「な、何だそりゃ……?」
どうやらベル自身、どうして俺の事をガン見してたのかよく分からないらしい。
「……まぁいいや。別に悪い事してるわけじゃないしな。気になることがあるんだったら見ても良いし、考えても良いし、何なら人に聞いてもいい。ベルの判断で好きにしな」
「…………(コクリ)」
いずれにせよ、ベルにとって悪い変化じゃないと思う。これを切っ掛けに自発性を育んでいけば御の字だろう。
「それはそれとして、お楽しみの時間だ……!」
俺はボーンデビルを倒したことで出現した宝箱を開き、中に入っていたスキルタブレットを確認する。
――――ここに猛る雷神の疾走、【瞬迅雷光】を封ずる。
どうやら一発で目当てのものを得ることができたらしい。ステータスカードを確認してみるとレベルも上がっているし、今回の攻略は得るものが多いな。
俺は満足しながらスキルタブレットをカードに取り込んでいると、ベルが俺の方を見ながら、今度は自分から口を開く。
「…………それ…………どんなスキル?」
「お、おぉ……! 早速自分が気になったことを口にしたな、いいぞ。そしてとても素晴らしい質問だ」
明確に現れたベルの変化に喜びながら、俺は意気揚々とベルに【瞬迅雷光】の素晴らしさを説く。
「この【瞬迅雷光】は発動することで自身の敏捷値を三倍にする、メリットだけ見れば超強力なスキルなんだよ」
《エンドレス・ソウル》、及びにこの世界では、敏捷値は移動速度だけでなく、通常攻撃の速度にも影響を与える。より素早い攻撃を繰り出そうと思えば、敏捷値を上げる必要があるのだ。だからこそ、俺はSPを敏捷にも振り分けてるしな。
「まぁデメリットとしてはMP消費量が多いのと……敏捷値の上がり方が尋常じゃなくて制御できないこと。そして発動中に止まろうとしたら大怪我することくらいだな」
燃費の悪さはロマンスキルの宿命みたいなものだから無視していいが、残り二つのデメリットが無視できないと前世ではやたらと不評だった。
《エンドレス・ソウル》では自傷ダメージというシステムがある。自分の攻撃スキルに自分で当たったり、勢いよく壁や人、モンスターにぶつかるとダメージを負うのだ。それはこの世界でも極々当たり前の現象である。
「発動中に動体視力が上がるわけでもないしな。いきなり跳ね上がった自分のスピードに、自分で対応できなくなるんだよ」
ゲームの時もスピードがあり過ぎて、勢いよく何かにぶつかってダメージを負う奴は何人もいた。この世界でも使ってみたら壁にぶつかったり、中には崖から落ちたなんて奴もいたらしい。
「ただこれは訓練と馴れ次第でどうとでもなる。最大の問題は、止まろうとしたら大怪我をするってことだ」
歩きにしろ、走りにしろ、移動というのは制御しようと思えばブレーキが必要不可欠になる。しかし【瞬迅雷光】の発動中にブレーキを掛けようとしたらHPの大幅減少……この世界では骨折という、全然割に合わない対価を支払う羽目になるのだ。
「つまり普通の手段では【瞬迅雷光】を制御することは不可能。このスキルは誰も使いたがらないってことだ」
「…………なら、何でそんなスキルを使うの?」
「そんなの最高に派手でカッコいいからに決まってるじゃないか」
一般常識も同然の事を聞かれたので、俺は当たり前のように答える。
【瞬迅雷光】は発動中、全身に青白い電光を纏う。それだけでもカッコいいんだが、最大のメリットはスピードを出すことによって生み出される迫力にある。
「人間って言うのは勢いや疾走感がある方が迫力を感じる生き物でな。【瞬迅雷光】みたいに発動者が全身に光とか炎とか、目に見える派手なオーラを纏い、尾を引くような光芒と共に高速移動しまくる様が圧巻で、最高に派手でカッコいいんだよ」
ベルには分からない例えで言うなら、昔の戦闘アニメと令和の戦闘アニメを見比べれば一目瞭然だろう。
どんなに派手なエフェクトをばら撒いても、肝心のキャラがノロノロ動いたり、静止画みたいな場面を見せられたら迫力不足に感じるが、画面やキャラクター、瓦礫などの物がスピードを伴って動き回っていれば迫力を感じる。
そこにド派手なエフェクトも加えればどうなるのか……その差はもう語るまでも無いだろう。そういう意味では、俺のロマン砲ビルドはまだまだ未完成と言える。
「つまり、ただ見た目が派手な攻撃スキルを使えばいいってもんじゃない。目で追い切れないほどのスピードやアクロバティックで華麗な動きと組み合わせることで、初めて本当の意味で派手でカッコいい戦いを実現し、ロマン砲スキルは最高の輝きを放つことができるんだ……分かるか? その素晴らしさが」
俺がこの世界の真理、戦いにおいて最も重要視するべきことを語ると――――。
「…………???????」
ベルはこれまでにないくらいに頭の上に疑問符を浮かべているような、理解不能な数式を見せられたような目で俺の事を見ていた。
……まぁこれは仕方のない事だ。ベルの感情は常人と比べると全然育っていない。自分では理解できない事がたくさんあるのだ。ここは俺が大人になって、ベルが物事を理解できるようになるのを温かく見守るべきだろう。
「まぁ心配せずに見てろって。ちゃんと活用できる算段があるから習得しに来たんだし」
口でどんなに説いても、格好がつかなきゃ意味がない。
誰もが使うのを諦めたスキルでも、【竜腕】を駆使する俺だからこそ制御できるから習得したのだ。
(それはそうと、気になることもあったな)
なぜボーンデビルはエルトリアという、ラスボスとしての名前でベルを呼んだ? 奴に関連することで、エルトリアに通じるものなんてあっただろうか……?
(確かな事は、ダンジョンは
……いずれにせよ、情報が少なすぎる。今あれこれ考えても仕方がない。
とりあえず、【瞬迅雷光】の制御訓練も始めないと……そう新たな目標を加えた俺は、ベルを引き連れて意気揚々とダンジョンを後にするのだった。
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