ヤバい目覚め
(ロマン砲ビルドは魔力を重点的に上げるビルド……魔法使いビルドに近い能力値の上げ方をする)
通常攻撃ではなく、攻撃スキルを主体にした高火力を出しやすいビルドだ。しかし長所と一緒に短所も目立つビルドで、レベルを上げて得たSPを、スキルの使用回数に直接影響するMPに振らなければならない分、他の能力値を上げにくい。
特にロマン砲ビルドは、燃費最悪のスキルを多用するから、普通に考えればMPに多くのSPを振り分けなければならないんだが……。
(そんな下手なビルドの組み方じゃあ、ネット対戦で千戦千勝はできないんだよなぁ)
俺はステータスカードを操作し、マグマドラゴンを倒して得たSPを半分ほどMPに振り分けると、MPの項目はこのように表示された。
MP:134/134
最大MP134……これは《エンドレス・ソウル》に登場する全スキルを最低一回は発動できるギリギリのラインであり、ロマン砲ビルドではこれ以上MPにポイントを振り分ける必要はない。
ここまで聞けばMP不足が深刻化するではないかと思うかもしれないし、実際【竜腕】を一回発動すれば残りMPは半分を切る。一番燃費の良いロマン砲スキルである【竜腕】ですらそのくらいMPを消費するんだから、それ以上のロマン砲スキルとなれば一回使えば他のスキルを使えなくなることもざらだ。
(だがこの問題を一気に解決できるスキルが存在する)
スキルの中には本人の意思でMPを消費して発動できる任意発動型と、本人の意思とは無関係にMP消費なしで発動し続ける常時発動型が存在する。
【竜腕】とかは前者である任意発動型に当たるんだが、次に俺が狙うスキルは後者の常時発動型スキル……【ドラゴンハート】だ。
字面だけ見れば強そうに見えるスキルだが、実はこの【ドラゴンハート】は《エンドレス・ソウル》でも屈指の雑魚スキルとして扱われている。
(効果は自分のMPが最大値の半分未満の時、敵に攻撃を当てればMPを回復できるというっていう、一見強そうなスキルだが……)
問題となるのは、その回復量の低さ。通常攻撃ではMPは一桁単位までしか回復せず、攻撃スキルでも生半可な威力では十数程度しか回復しない、しかもMPが最大値の半分を上回ればスキルの効果が切れるという、とんでもない残念仕様なのだ。
敵に与えたダメージが回復量に影響されるからな。威力控えめで隙の少なさに特化したスキルが主流だった《エンドレス・ソウル》ではほぼ使われることが無かった。
(だが【竜腕】を始めとしたロマン砲スキルなら、一撃当てさえすればMPを全回復できるポテンシャルがある)
つまり実質、MP無限状態が完成するのだ。俺はこのビルドを組み上げて対戦環境で大暴れしてたら、MPが減らないチートを使っていると疑われたことがあるくらいである。
もちろん、その状態を安定して維持するにはスキルの威力を向上させる必要がある。その手始めに、俺は残りのSPを魔力に重点的に振り、残りをスタミナ、耐久、敏捷へとバランスよく振った。
(ロマン砲ビルドを組むにあたって、【竜腕】を採用する最大のメリットは、発動中の通常攻撃は筋力じゃなくて魔力でダメージ計算されるところだ)
基本的に、腕を使った通常攻撃全般は筋力ステータスで威力が上がり、攻撃スキルの威力を上げるには魔力ステータスを伸ばす必要がある。
そして【竜腕】の発動中、通常攻撃は魔力ステータスで威力が決まるように切り替わる。筋力ステータスを不要なものとして切り捨てることができるってわけだ。
(取得できるSPにも限りはある……上げる必要のないステータスを決めるのも重要だ)
器用貧乏とか一番弱い。何らかの長所を前面に出すのが、強いビルドを組む秘訣である。
「……それにしても」
俺は改めてステータスカードを見る。そこにはゲームでは存在していたはずの、HPの項目が無かった。
この世界はゲームのモデルであってゲームそのものじゃない、攻撃を受けたら普通に怪我をして死ぬってことだろう。少なくとも、HPバーが傷を肩代わりしてくれたり、ゲームオーバーからのリセットなど存在しないということが如実に伝わってくる。
(気を引き締めて、準備と確認を進めないとな)
俺自身、前世から持ち込んだ知識の全てがこの世界で通用するとは考えていない。どこかで食い違いが生まれるはずだ。
(まず確認したいのは、【竜腕】の威力のほどだな)
【竜腕】が本当に知識通りの威力が出るのか試したい……そう考えた俺は【隠者の暗幕】で体を覆ったまま《地底土竜の縦穴》を出て、手頃なモンスターがいないか、森の中を軽く散策する。
すると、角の生えた猪みたいなモンスターを見つけることができた。
(あのモンスター……《エンドレス・ソウル》でも散々見てきたな)
敵を見つければ誰かれ構わず突進を繰り返し、数多のプレイヤーを吹っ飛ばしてきた厄介者だ。多分、《エンドレス・ソウル》でも特に嫌われている雑魚敵の一体だと思う。
しかし丁度いいところに現れたとも思った。今の俺の魔力値なら、【竜腕】をクリーンヒットさせれば丁度一撃で倒せるはずだ。
幸いにも、【隠者の暗幕】のおかげで敵はこちらに気が付いていない。足音を立てないよう、ゆっくりと近づきながら、俺は強く念じることで【竜腕】を発動させた。
(おぉ……! これが本物の【竜腕】か……!)
両肩から先が変化し、甲殻で全体を覆い、鋭い爪が生えた巨大な竜の腕となったのを見た俺は思わず感動する。
ゲームの時もそうだったけど、見た目に反して重みは感じない。これなら思ったよりも早く振り回せそうだ……そう感じた俺は角猪の背後に回り込み、右腕を大きく振りかぶって、ゴウッ! という空気を引き裂く音と共に、下からかち上げるような一撃を角猪に叩き込んだ。
「ブギィイイッ!?」
不意打ちを食らった角猪は汚い断末魔の悲鳴を上げ、木を数本圧し折りながら吹き飛んでいく。そのまま音を立てて地面に落下すると、ピクリとも動かなくなった。
倒した……ということだろう。【竜腕】の威力もゲーム通り。おおよそ満足のいく結果だったのだが、それ以上の結果を得られたことを俺は感じた。
「……~~~~~~~~~っ💛」
圧倒的な火力で倒されたモンスター。圧し折れた木々に抉れた地面と言った破壊痕。それらを生み出した豪快な一撃を俺が繰り出したのだという事実に、脳天から背筋を掛けて肛門までゾクゾクッと快感が駆け抜け、俺は思わず膝から崩れ落ちそうになった。
(こ、これは堪らん…‥‥! 前世から数えて十年ぶりっていうのもあるけど……!)
VRではなく現実で行ったからこその生の感覚というべきか……無理矢理例えるなら、プチプチの梱包材を潰したり、凍った水たまりを踏み割ったりした時みたいな、何かを破壊した時に得られる爽快感の凄いバージョン。そこに攻撃の派手さが加わり、ロマン砲好きである俺の琴線を全力で刺激してくる。
(いかん……! 俺にこんな危険な側面があるなんて知らなかった……!)
【竜腕】でさえこれほどなのだ。もっと派手なスキルで敵を倒せば、どれだけの快感を得られるだろう……俺はロマン砲ビルドを組み上げるためのモチベーションが急上昇していくのを止められなかった。
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