ロマン砲ビルドとは


 そもそもにおいて、ロマン砲ビルドとはなんぞや?

 簡単に説明すると、《エンドレス・ソウル》において、派手さと火力だけが取り柄の扱い辛いスキルを使いこなして全てを薙ぎ倒す最強の戦法である。俺を除いた全プレイヤーからは『使えねぇ!』と酷評されたが、それは連中のプレイヤースキルが足りないだけだから無視していい。

 今世においても、俺はロマン砲ビルドを極める……それこそが、俺が一番強くなる方法だと確信しているからな。


(ていうか、他のビルドを全然使ってこなかったから、立ち回り方に自信が無い)


《エンドレス・ソウル》で使ってこなかったスキルやビルドに関する知識はある。しかしそれはあくまで単なる知識としてであって、自分で使ったことはないのだ。

 何せ初見プレイの時も最初から最後まで派手さ重視を追い求めてたからな……最初の方こそスキル不足が理由で地味な戦い方をしてたけど、それでも中盤に差し掛かる前にはロマン砲ビルドの原型が出来上がっていた。

 結論、付け焼刃のように他のビルドをこの世界で再現しても上手くいく気がしない。


(もちろん、俺自身がロマン砲ビルド以外を追い求める気がしないんだけど)


 快感で脳汁が噴き出る感覚は、麻薬にも似ていると思う。ロマン砲スキルで派手に戦い、敵をぶちのめした時の快感が、転生しても引き継がれる中毒となってしまっているのだ。

 何だったら禁断症状も出始めている。あの快感をもう一度味わえるなら、地味で堅実な戦い方などクソくらえだ。何としても、ロマン砲ビルドを完成させるしかない。


(そのビルドを完成させるには、必須となるスキルがいくつもあるが……)


 まずはどれを手に入れるべきか……俺はアレイスター領の地図と睨めっこしながら慎重に吟味する。

《エンドレス・ソウル》の本編から七百年経ち、町や村など原作にはなかったものが数多く存在するが、その中でほとんど原作知識と差異がないものがある。

 それは地形であり、そして人の生活圏から外れた場所にあるダンジョンだ。


(確かこの世界のダンジョンは、原理不明の不思議空間っていう扱いだったな)


 ゲームだと『そういうもの』として扱われていたけど、実際この世界の人間たちが持っているダンジョンへの認識は、なぜか突然現れ、無尽蔵にモンスターが湧き、宝箱が見つかるといった、本当にゲームそのものって感じの、理屈じゃ説明できない場所だ。

 この世界における伝承では、世界を滅ぼそうとしている邪神が人間を襲わせるためのモンスターを生み出すための場所だとか、人間が凶悪なモンスターに立ち向かうために創造神が用意した試練の場だとか、色んな説が囁かれているけど……前田さんの事を考えると、そういうのも嘘じゃないのかもしれない。


(しかし理屈はどうあれ、ダンジョンには訓練相手であるモンスター、強くなるためのスキルに装備が手に入る、絶好の修行場であることに違いはない)


 そして俺が真っ先に攻略するべきダンジョンも決まった。まずは通常攻撃手段を確保することも兼ねたロマン砲スキル……【竜腕】を手に入れることが出来るダンジョン、《地底土竜の縦穴》を攻略する。

 通常攻撃手段を確保する為なのに、武器を取りに行くんじゃなくて、ロマン砲スキルを取りに行くってどういう事やねん……そう思うかもしれないけど、ロマン砲ビルドで通常攻撃を行うには絶対必要な事なのだ。


(俺はずっと思っていた……通常攻撃って、基本どれも地味だと)


 バトル系のゲームをやっていると、一番頻度の多い攻撃手段が通常攻撃になるのが必然なんだけど、俺はそれが我慢できなかった。ただ武器を振り回すなんて絵面が地味すぎる……最低でも、轟音をかき鳴らしながら空気を裂き、地鳴りと共に地面を叩き割るくらい豪快なものでなければならないと。


(そしてそれを可能とするのが、【竜腕】のスキルだ)


 このスキルは、武器を手に持っていない時のみという限定的な条件の下に発動できる、自身の両腕を身の丈を超えるほど大きな竜の腕に変化させるというものだ。

【竜腕】の発動によって得られるパワーは尋常ではなく高いが、腕がデカくなりすぎて障害物に引っ掛かる、どうしても攻撃が大振りになる、消費MPが高すぎる、そして何よりも前半の条件が厳しすぎると散々酷評されたのだが……敢えて言おう。それは単に使いこなせていないだけであると。


(何しろ【竜腕】こそが《エンドレス・ソウル》における最強の武器にして最強のスキルだからな)


 よく『《エンドレス・ソウル》で一番強い武器はどれ?』って感じの話になると、やれこの剣が一番強いだとか、あの槍が一番強いだとか、見当違いな事ばかり言ってる奴らが多くて失笑ものだったが、最強武器は装備品の類ではなく【竜腕】というスキルそのもの。

 消費MPがバカ高いスキルが、どうして使用頻度の高い通常攻撃になるんだと思うかもしれないが、それにもちゃんと理由があるのだ。


(厳密に言うと、【竜腕】は攻撃系のスキルではなく、付与系のスキルだからな)


 付与系というのは、武器に炎とか雷とかを纏わせたりする、通常攻撃を強化するタイプのスキルだ。

【竜腕】もそれに分類されるんだけど、《エンドレス・ソウル》における付与系スキルは一度発動してしまえば解除するまで半永続的に発動し続ける。

 その分、他のゲームとかと比べると強化倍率は控えめになっているんだけど、【竜腕】だけは例外で、扱い易さを引き換えにした分、破格の攻撃力を引き出せるのだ。

 具体的には、【アルカトルムの戦槌】という物理最強の攻撃力を持つ武器があるんだけど、【竜腕】を使えばそれの二倍以上のダメージを叩き出せる。


(もちろん、ただ【竜腕】を使うだけじゃ単なるロマン砲スキルに過ぎない。【竜腕】を活かすための汎用的なスキルも必要だ)


 そうやってロマン砲スキルを実用段階まで昇華させ、勝利する……その時に得られる快感こそが、ロマン砲ビルドの醍醐味だ。

 他にも【竜腕】には隠された強みがたくさんあるんだが……それに関しては、実際に手に入れてからにしよう。


(まずは《地底土竜の縦穴》を攻略しないとな)


 そう改めて決意した俺は、地図上に表記されている《地底土竜の縦穴》……俺が今いる館からほど近いその場所に指をさす。

 ロマン砲ビルドに最も必須なスキルがあるダンジョンが生家から近い場所にあるのは僥倖だ。……いや、もしかしたら、前田さんがその辺りも配慮してくれたのかもしれない。あの人、俺の細かいプロフィールを把握してたみたいだし。


(普通に考えて十歳がダンジョン攻略なんて早すぎるが……恐らく問題ない。その為には、買い物から始めないと)


 俺は床に敷いてあったカーペットを捲り、そこに隠されていた大きな床下収納を開ける。そこには大量の金貨が収められていた。

 実はこの金、かつては祖父の私的財産だった物で、今は俺が相続した物だ。これもルールセン執政官を呼んだのと同様、生前の祖父と交渉して俺に相続してもらうよう手配してもらった。


(父はこの金を当てにして散財してたみたいだけど、後になって相続するつもりだった金が無いって聞いてメッチャ焦ってたな)


 その時の父の動揺っぷりを陰から見ていたけど、チェルシーやディアドルと一緒に慌てふためいていてメッチャ笑えた。期待していた金を俺が相続したって聞いたらどんな顔をするのか、今から楽しみだ。

 ちなみに、父たちが帰ってくる前に相続した遺産を使って、俺の部屋の扉と窓、床下収納は俺以外の人間には開けられない魔法を掛けてもらったので、荒らされる心配もないしな。


「よし……それじゃあ、早速行くか!」


 俺は必要な分の金貨を取り出し、町へ繰り出した。


   ――――――――――

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