第一九話 王都にて


「ていうかさ。あたし達、ずっとこの姿のままなのかな?」


「カッコいいのは間違いないのだけど、少し目立ち過ぎるというかぁ~……」


 ここについては、問題ない。

 プレイヤー権限にアバター機能が追加されているからな。

 これを利用すれば、非戦闘時は進化前の状態を維持するといった設定も可能だ。


 まぁ、それはさておいて。


 レオナとノルンが第一進化を迎えたことにより、俺達の戦力は飛躍的に向上した。

 しかしながら……


 目的とするダンジョンに挑むには、まだまだ足りてないんだよな。


 だから俺達はひらすらダンジョンを探索し、パラメーターアップに努めた。

 結果として、目的の場所へ挑むことが出来る程度には強くなったのだけど……

 それはもう少し先のお楽しみということになる。


 まずは、そう。

 直近のビッグ・イベント。

 御前試合での優勝が、最優先事項だ。


「荷物は、まぁ……忘れ物があっても、ファスト・トラベルすればいいか」


 屋敷前にて。

 そう呟きつつ、俺はレオナ、ノルンと共に馬車へと乗り込んだ。


 王都に設けられた大闘技場。

 御前試合の舞台はそこであるため、我々は王都へ足を運ぶ必要がある。


 ファスト・トラベルを使えば一瞬で終わる話だけど……それだと、風情がない。

 たまには不合理に身を委ね、ゲーム内の世界観に浸りたいと思うときがある。


 オープンワールド系の作品をやっていると、そういう瞬間って、けっこうあるんじゃなかろうか。


 そういうわけで。

 俺はあえて、ファスト・トラベルではなく、馬車旅を選んだわけだけど。


「ねぇ、ゼクス……♥」


「退屈な旅には、娯楽が必要よねぇ~……♥」


 長きに渡る虚無時間。

 狭い密室。

 タガが外れた美少女二人。

 何も起きないはずもなく……


 この馬車旅にて、俺は外の風景だけでなく。

 車内の風景もまた、楽しみ尽くしたのだった。


 ――そんな時間を経て。


 我々は王都へ到着。

 時刻は昼過ぎとなっており、御前試合の開幕は翌日である。


「とりあえず、宿を取るか」


「……もちろん、相部屋よね?」


「わたし達はゼクス君のモノなんだからぁ~。別部屋なんて、ありえないわぁ~」


 ……今晩も、かなり頑張ることになりそうだな。

 そんなことを思いつつ、馬車から降りた、そのとき。


「あら。奇遇ですわね、ゼクス様」


 すぐ隣の馬車から、ソニアが顔を覗かせていた。


「ふふ。どうやらわたくし達は、運命の赤い糸で結ばれているようですわね」


 頬を赤らめながら、彼女はこちらへと近付いてきて、


「件の大会には、わたくしも参加する予定ですの。もしぶつかったなら、そのときは……わたくしのことを、全力でねじ伏せてくださいまし」


 まるで恋する乙女のような顔をしながら、こんなことを言う。

 きっとソニアは、ある種の変態なのだろう。

 そんな彼女にやや引きながらも、俺は小さく頷いて。


「お互い、ベストを尽くしましょう」


 無難なことを言って、さっさと別れようとしたのだが。


「まだ宿は取っておられませんわよね?」


「え、えぇ。そうですね」


「でしたら……我が家の別邸をご利用するというのは、いかがでしょうか?」


 言葉だけを見れば、かなり下手に出たような内容だけど。


 実際のところ。

 圧が、エグい。


 こんな鋭い眼光に射貫かれたら、もう「イエス」か「はい」以外に答えようがないだろう。


「……ソニア様の、ご随意に」


「うふふふふ」


 かくして。

 俺達は公爵家の別邸へと向かうことになった。

 その道すがら、不意にソニアが次の言葉を送ってくる。


「そうそう、ゼクス様」


「はい、なんでしょう?」


「今後、わたくしに対する敬語は不要ですわ。いえむしろ、使わないでくださいませ」


「……いや、家柄の都合上、さすがにそのようなことは」


「まぁ! いけませんわ、ゼクス様! 貴方様は歴史に名を残すであろう大人物! 家柄など無視なさいませ! 貴方様はそのような領域からは外れた場所におられるのですから!」


 なんか、めっちゃ持ち上げてくるんだけど。

 ここまで来たらむしろ、怖いんだけど、マジで。


「えぇっと……わかった。これからは極力、敬語は使わないようにするよ。君のことも、呼び捨てにすべき、かな?」


「もちろんですわ、ゼクス様。なにせわたくしは、貴方様の妻なのだから」


 とまぁ、こんな感じのやり取りを、すぐ隣で聞いていたレオナとノルンが、そのとき。


「……ノルン姉さん」


「……えぇ、そうね、レオナ」


 彼女等がどのような思惑を抱いていたのか。

 それは、公爵家の別邸についた後に、判明した。


「本音を申し上げれば……ゼクス様と同衾したくて仕方がありません。しかしながら、父様からの厳命でして。自分が見定めるまで、早まったことはするな、と」


 そういうわけで。

 俺とレオナ、ノルンの三人が相部屋となり……

 夜半。


「ねぇ、ゼクス。あんたが誰と婚約したって構わないけれど」


「ゼクス君の弱点を誰よりもよく知ってるのは……わたし達、よねぇ~?」


 俺とソニアが会話する姿を、仲睦まじい夫婦のように見受けたのだろう。

 だから彼女達は、こう思ったのかもしれない。


 ソニアと婚約したなら、自分達は捨てられるかも、と。


 いやまぁ、そこまでのことは考えてないにしても。

 こちらの心を掴んでおきたいと、そんなふうに感じたのは間違いないだろう。


 だからこそ。



「――昨夜は、ずいぶんとお楽しみだったようですわね? ゼクス様」



 朝方。

 対面して早々、ソニアが凄まじい冷気をぶつけてきた。


 それも無理からぬことだろう。

 昨晩のアレはもう、本当に凄かった。

 きっと屋敷中に声が響き渡っていたに違いない。


 そうだからこそ……

 人様の家でなにヤっとんねん、と。

 ソニアがそんなふうにブチ切れても、おかしくはなかった。


「……御前試合が終わったなら、きっと父様もゼクス様をお認めになられるでしょう」


「う、うん」


「そうなった暁には」


 ここで、ソニアがこちらの肩をガッシリと掴んできて。


「彼女等へしたように……わたくしにも一晩中、種付けをしてくださいましね?」


 ノーと言ったら殺される。

 そんな圧力を感じ誰がために。


「は、はい」


 俺は、こう答えるしかなかった。



 ……そんな朝のやり取りを終えて。



 昼に差し掛かった頃。

 俺達は大闘技場へと向かい……



 御前大会の開幕を、迎えるのだった。






 ~~~~あとがき~~~~


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雑魚ボスの悪役貴族(テイマー)に転生した俺、ゴミみたいなステータスのせいで何もテイム出来ない……と思いきや、奴隷なら誰でもテイム可能だと気付く~美少女達を使役してガンガン強くなり、最強へと成り上がる~ 下等妙人 @katou555

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