第一一話 次へ進む前に、事後処理をキチンとやっておこう


 次の目的を定めてから、すぐのことだった。


「ゼクスっ!」


 ようやっと落ち着いたか、レオナがこちらへと小走りでやってきて。


「ありがとうっ!」


 飛び付くような形で、ハグをしてくる。


 その結果、たわわなおっぱいが「むにゅう~」っと、こちらの胸板に押し付けられ……


 すごく、よかったです(小並感)。


「あんたのおかげで……! 姉さん、だけでも……! 救う、ことが……!」


 またもや涙ぐみ始めた彼女の頭を、俺は優しく撫でながら、


「まぁ、そうだな。ただ一人ではあるけれど……ゼロよりかは、ずっといい」


「うん……! うん……!」


 小さく、コクコクと頷いた後、レオナはこちらから離れて、


「……この場で、誓いを立てさせてもらうわ」


 と、真剣な面持ちになりながら。

 彼女は床に寝そべって。


「あたしはゼクスに心を開き……決して裏切らないことを、誓う」


 うん。

 表情はね、マジでシリアスな感じ、なんだけど……


 やってることが完全に、一八禁的なアレを誘ってるようなポージング、なんだよなぁ。


 彼女が獣だったなら、服従の仕草ということで済むのだけど。

 でも実際は、ドエロい体をした獣人族の美少女である。


 そんな彼女が寝そべり、股を開きながら、腹を見せ付けてきたら……

 感じるのは誠意ではなく、性欲なんだな、コレが。


 ……とまぁ、そんな考えを、俺はおくびにも出すことなく、


「獣人族に伝わる、親愛の情を伝える儀礼、だよな。それ」


「うん。よく知ってるわね」


 にっこりと微笑みながら立ち上がると、レオナは再び、こちらの体を抱き締め、


「さっきのはね、友情を誓い合うための儀礼って意味が強いんだけど……それと同時に、って意味も、兼ねてるのよね」


 そう耳元で囁いてから。

 レオナは「ちゅっ」とこちらの頬にキスをして。


「えへへ……! これから改めて、よろしくねっ! ゼクス!」


 頬を赤らめながら、照れたように笑うレオナ。

 さすがは、人気ランキング上位のキャラクター、だな。

 危うくハートキャッチされるところだったぜ……!


「じゃあ次はぁ~、わたしの番ねぇ~」


 おっとりとした声を響かせながら、ノルンがハグをしてくる。

 それは軽いものではあったのだが、しかし。


 ちょっと触れ合う程度のハグであっても、彼女の凄まじい爆乳は、その存在感を力強くアピールしており……


 マジやばい(猿並感)。


「んん~~~~」


 デッカいおっぱいの柔らかな感触と温かさを味わう、その最中。

 ノルンは左右の頬を、こちらの頬へと擦り合わせ、


「はい! エルフ流の親愛を誓う儀式、かんりょ~!」


 こちらから離れた後。

 ノルンは華やかな笑みを見せながら、次の言葉を紡ぎ出した。


「レオナ共々……よろしく、ね?」


 台詞だけを見れば、なんの変哲もないものに感じられるだろう。

 しかしノルンの表情はまるで、一目惚れした相手を見つめる乙女のように見受けられ、声音もどこか、熱っぽい調子だったような……


 いや。

 ここはアレだ。

 勘違いってことにしておこう。


 この子、俺のこと好きなんじゃね? みたいな考えはある種の死亡フラグだ。

 そのせいで学生時代、酷い目を見たことがある。


 確かに今の俺はゼクス・アルトリオンであり、顔面の造形はそれなりの美形だが……

 調子に乗ってはいけない(戒め)。


 ……とにもかくにも。


「じゃ、屋敷に戻って……今夜はゆっくりと、休んでくれ」


 とまぁ、こんな感じで締めくくった後。



 翌日。



 ノルンを加えての朝を楽しんでから。

 俺は、父・ヴィクターの屋敷へと向かい、彼の執務室へと足を運ぶ。

 どうやら室内には先客が居たようで。


「ッ……! て、てめぇ、何しに来やがったッ!」


 こちらを見るなり、腰元に提げた剣へと手を伸ばす。

 そうしながら……

 先客であるアホのローグは、父に言葉を投げた。


「見ていてください、父上! オレは――――ぼべぇッ!?」


 なんか知らんが。

 剣を抜く気満々って感じだったので。

 そうするよりも前に接近し、腹パンを食らわせてやった。


「ッ……!」


 目を見開く父。

 その一方で。


「うっ……! おげぇえええええええええ……!」


 両膝をついてゲロゲロし始めるアホを尻目に、俺は父へと言葉を放った。


「ノルヴァトーレ商会のグイン・ノルヴァトーレ。父上もご存じですね?」


「あ、あぁ。それがどうした?」


「彼は貴方にとって数少ない商売敵の一人であり、その存在が消えたなら……実に、痛快なことでしょう」


「…………なにが言いたい?」


 父・ヴィクターは、普段通りの居丈高な調子を取り戻しつつあったが、しかし。



「昨夜、彼を暗殺しました」



 と、そう述べた瞬間。


「…………はぁ?」


 呆然とした様子で、口を開く。

 そんな彼へ、俺は矢継ぎ早に言葉を繰り出した。


「無論、彼を消すに値するだけの証拠は握っております。たとえば――」


 原作の知識を披露する形で、俺はヴィクターの悪事と、その証拠品の場所を話す。

 そこに加えて。

 言葉だけでは、説得力が足りないだろうから。


「――こちらの違法薬物、などは、彼の罪を証す最たるものでしょう」


 ポケットから薬液入りの小瓶を取り出して、父へと見せ付ける。

 その瞬間。


「~~~~~~~ッッ!?」


 目玉が飛び出んばかりの吃驚。


 それも無理からぬことだ。

 この原魔の雫は例外なく、単純所持がバレた時点で一族郎党皆殺しにされてしまうほどの、違法薬物である。


 ゆえに父は脂汗を流しながら、


「し、しまえッ! さっさとしまわんかッ! この馬鹿者がぁッッ!」


 怒声を放つ彼に従って、俺は原魔の雫をポケットに戻しつつ、


「こちらは秘密裏に処分いたしますので、ご安心を」


 そうしてから。

 俺は会話の締めへと入った。


「グイン・ノルヴァトーレの死に関しましては、そちら側で良きように処理をしてください」


 俺を英雄のように立てるも良し。

 自分の手柄として総取りするも良し。

 上手い感じに仕上げろと、そう言い付けた後。


「……あぁ、それともう一つ」


 俺は父へ、釘を刺した。


「こちらを邪魔に思うのは結構ですが……思うだけに留まることを、お薦めしておきますよ」


 お前の心理は何もかもお見通しだと、そう言外に述べてから。


「では、失礼いたします」


 未だにゲロゲロやってるアホの横を通り過ぎて、俺は室内を後にする。

 その直後。


「――この、クソ馬鹿たれがぁあああああああああああああッッ!」


 父の怒声が轟いてからすぐ、ローグの無様な悲鳴が耳に入る。


 はてさて。

 ヴィクターがアホのローグをブン殴ったのは、八つ当たりか。

 あるいは別の理由か。


 まぁ、なんにせよ。

 父は確実に、こちらへの悪だくみを企てているのだろうけど。

 でも、俺からしてみれば。



「――――好きにすりゃいいさ。全部、無駄骨になるだろうけど、な」

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