第一〇話 状態異常特化型のボスってさ、対策したら雑魚になりがちだよね


 なぜ動けるのかという疑問よりも。

 動いたこと、それ自体への怒気を優先する。

 ずいぶんと、、と。俺はそんなふうに考えながら、


「グイン・ノルヴァトーレ。お前は結局のところ、初見殺しの域を出ない」


「あぁッ!?」


「確かにお前の力は脅威そのものだが……それは、なんの対策もしていなかった場合の話だ」


 必中効果を付与された状態異常スキル。


 麻痺は問答無用でこちらの動作を数秒間停止させ、毒はガリガリと生命力を削る。

 そこからさらに、魔剣の猛毒と、奴の切り札であるユニーク・アクティブを加えたなら……対策ナシでは倒せないクソボスの完成だ。


 実際、俺も初見においては手も足も出ずにやられたんだよな。


 しかしながら。

 シヴィラタウンのダンジョンで得た外付けのパッシブ、《病魔退散》などの状態異常対策をしっかりと行えば。


「――お前みたいな雑魚に、負けるわけがない」


 こちらの結論を挑発として受け取ったグインは、額に青筋を浮かばせ、


「実験台にすると言ったが、前言を撤回しよう。……てめぇは、ここで地獄へ堕ちろッ! このゲロカスがぁあああああああああああああッッ!」


 とまぁ、ブチギレながら麻痺を付与してくるのだけど。

《病魔退散》の力により、その効果はとてつもなく弱体化している。


 対策ナシだった場合は、数秒間の動作停止を強いるグインの麻痺スキルだが……

 現在、その効力は敏捷値の一〇%ダウンへと弱体化。


 さらに言えば、《病魔退散》は状態異常の効果時間を九〇%カットしてくれるため、バッド・ステータスは一秒にすら満たぬ間に消失。


 そうしてから俺は、レオナへ向かって、


「万が一のために援護はさせてもらう。だから……思う存分、斬り刻んでやれ」


「えぇ……! 感謝するわ、ゼクス……!」


 応えるや否や。

 レオナは長剣を携え、グインへと踏み込む。


「くッ! パラライズ・オーバー!」


 奴が発動したのは、麻痺スキルの上位版、だが。


「それがどうしたぁッ!」


「ぐぁああああああああああああああッッ!?」


 多少の動作不良が発生するというだけで、レオナを止めることは出来ない。

 そして。


「楽に死ねるとは……思わないことねッ!」


 いかなる状態異常を用いても、彼女の技能は鈍ることなく……

 宣言した通り、グインはじわじわと嬲り殺されることとなった。


「ぎぃッ!?」


 耳と鼻を削がれ。


「がぁッ!?」


 指を一本一本、切断され。


「ぐぎぃッ!?」


 全身の皮膚と肉を、秒刻みで薄切りにされる。


 見るも無惨な処刑法であるが、奴がこれまでやってきたことを思えば「ざまぁ」としか思わない。


 そして、結局のところ。


「ま、待てッ! わ、私の話を――」


「命乞いした、あたしの家族をッ! あんたは目の前で殺しやがったわよねぇッ!」


 ズタズタに斬り刻まれた結果。

 グインは絶命へと至る――――直前。


「デス・ポイズンッ……!」


 それは、最後の悪あがき、というよりかは。

 最後の嫌がらせと、呼ぶべき行動だった。

 果たして奴の毒スキルを浴びたのは、我々ではなく。


「うっ……!?」


 ノルン。

 一切の状態異常対策をしていない彼女が、毒の餌食となった。


「は、はは。ざまぁみ――」


「こ、のぉおおおおおおおおおおおおッッ!」


 激昂したレオナの手によって、グインは縦一文字に両断され、絶命。

 そんな結末を確認した後。



『メインスキル、《テイム》のレベルが上昇しました』


『使役物の限界数が、二に上昇しました』



 ……まさに、不幸中の幸いというやつか。

 俺はノルンのもとへ駆け寄り、その様子を目にする。


「くっ……うぅ……」


 唇が紫色に染まり、吐き出す息にも毒々し色が付いている。

 このままでは三分ともたず死んでしまうだろう。


「ノ、ノルン姉さんっ!」


 レオナもまた彼女へ駆け寄って、


「ゼ、ゼクスっ! 姉さんを、助けてっ!」


 俺は彼女の懇願に首肯を返しながら、


「ノルン。君を救うには……こちらが発動する隷属の魔法を、受け入れてもらうしかない」


 現時点において、彼女のパラメーター値は全てが20000を超えている。

 つまりノルンは、俺よりも遙か格上であるということだ。


 ゆえに現時点においては使役不可能の状態。

 それを覆すには、隷属の魔法で以て奴隷にするしかない、わけだけど。


「俺のことを信用出来ないのはわかる。だが、ここは」


「いい、え……あなたを、信じる、わ……」


 彼女は美貌を苦悶に歪めつつも、こちらの頬をそっと撫でてきて、


「レオナ、が……信頼、しているん、ですもの……わたし、だって……」


 よし。

 だったら。


「互いの同意を以て、ノルンを我が奴隷とする……!」


 魔法発動の文言を口にした、その瞬間。

 彼女の首元に、隷属魔法が刻まれた証である、首輪型のアザが生じた。

 それから。


「ノルンを使役する!」


 言葉を紡ぐと同時に、メッセージウインドウが目前に現れ、


『対象:ノルンの使役に成功しました』


『使役物のパラメーターが一部、プレイヤーに加算されます』


 力が漲ってくる。

 その感覚を味わうと同時に……


 ノルンに刻まれた隷属の証が消失し、そして、付与された毒もまた、完全に消え去った。


「……す、すごい、わねぇ。あんなに、つらかったのに。今じゃ、もう」


 目をパチクリさせながら呟くノルン。

 そんな彼女へ、レオナが抱きついて。


「うわぁあああああああああああんっ! よかったぁ! よかったよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 わんわんと、泣き喚く。


「ふふ。しょうがない子ねぇ、レオナは」


 微笑しながら彼女をあやすノルン。

 しばらくは、二人の世界に浸らせてやろう。

 そう考えつつ、俺は自らのパラメーターを確認する。



 生命力:13605 (5600UP!)

 魔力:13005 (6000UP!)

 筋力:14005 (4000UP!)

 敏捷:13605 (4000UP!)

 魔攻:10202 (6200UP!)

 魔防:14602 (7600UP!)



 よし!

 ノルンを使役したことで、全パラメーターが10000を突破した!


 そこに加え……

 スキル詳細を確認。



《メイン・スキル》

 テイム Lv2(1UP!)

 剣聖 Lv5

 聖者 Lv5 New!


《パッシブ・スキル》

 病魔退散

 剣威向上

 斬魔向上

 再生力向上 New!

 免疫付与 New!


《アクティブ・スキル》

 虎狼牙

 龍斬功

 ヒール New!

 メガ・ヒール New!

 リジェネ New!

 オーバー・リジェネ New!


《ユニーク・パッシブ》

 剣聖ノ威光

 聖者ノ加護 New


《ユニーク・アクティブ》

 奥義・壱ノ型「天魔滅生斬」

 奥義・弐ノ型「斬天明王-別無尽」

 エリア・オブ・ホーリー New!

 エリア・オブ・グローリー New!



 ノルンのメイン・スキル、《聖者》が持つ力をも獲得。

 しかもしかも。

《テイム》によって使役されている存在同士は、力を共有し合うことが出来る。


 つまり。

 レオナはノルンの《聖者》スキルを使用できるし、逆に、ノルンはレオナの《剣聖》スキルを使用できるということだ。


「そっからさらに……」


 グインの死体から、魔剣・グラド=エヴィオスを回収し、インベントリへと送る。

 俺が目指すビルドを思えば、残念ながら最強と断言することは出来ないが……

 しかし、中継ぎの一振りとしては最高レベルだろう。


「うわぁあああああああああああんっ!」


「よぉ~しよぉ~し」


 未だに泣き喚くレオナと、困ったように笑いながらあやすノルン。

 二人の存在を目にしつつ、俺は今後に思いを馳せた。


「……グインとの戦いは終わったけど、との戦いは、今この瞬間に、始まったんだよな」


 今回クリアしたサブクエは、あるメインシナリオに繋がっている。


 そこへ到達した際に特殊条件を満たす形でクリアすれば、より効率的にパワーアップすることが出来るだろう。


 よってそれを目指すべく……俺は、次の目的を立てた。



「ヒーラー兼バッファーのノルンが加わったことだし……次は、を取りに行くか」

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