第一三話 VSドラゴン・ゾンビ
実装当初からサ終に至るまで、高い価値を維持し続けた、外付けのURパッシブ・スキル。
今回、獲得したいのはそれなんだけど……
「グゥボォアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
今、目前にて吠え散らかしている、厄介な隠しボスを倒さない限り、目的が果たされることはない。
「ッ……!」
「ちょっと……ヤバいかも、しれないわねぇ……!」
ドラゴン・ゾンビを討伐するための必要パラメーターは、およそ40000近い平均値が必要とされている。
それは現在、レオナでもギリギリ届くかどうかという程度。
ノルンはその半分で。
俺に至っては10000程度の平均値しかない。
数字だけを見れば勝ち目など皆無なこの一戦は、しかし。
「経験とビルド次第で、ジャイアント・キリングが可能になる。それがアルカディア・オンラインの良いところなんだよなぁ」
呟きながら、俺は二人に指示を出した。
「奴は行動後に大きな隙が出来る! その瞬間だけを狙って、後は回避優先!」
「応ッ!」
「了解……!」
そして。
「ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
一際強い咆吼と共に、ドラゴン・ゾンビがその巨体を動作させ……
突進。
されど、現段階における奴の行動速度は、実に鈍重である。
食らえば一撃で生命力が吹っ飛ぶほどの威力を秘めちゃいるが、
「当たらなきゃ、どうということはない……!」
俺達は余裕で回避して。
壁面に激突し、動きを止めたドラゴン・ゾンビに肉迫。
その瞬間。
「「「龍斬功ッッ!」」」
三人同時に、《剣聖》のアクティブ・スキルを発動。
斬撃を浴びせたことで、基礎パラメーターにバフが掛かる。
その効果は一〇回までスタックするわけだが……
五回分発動してからすぐ。
「離れろッッ!」
合図と共に、全員が大きくバックステップ。
次の瞬間。
ドラゴン・ゾンビの全身から、紫色のガスが噴射された。
あれを浴びると《病魔退散》の効果を貫通する猛毒に掛かってしまい、その時点で今回はリタイアということになる。
その行動は事前モーションが分かりづらく、ゆえに初見殺し要素の一つとなっているわけだが……
俺は少なくとも一〇〇回以上、こいつを狩りまくっているので、絶対に当たらないという自信がある。
「とりあえず……第一形態は、余裕だな」
実際のところ、マジで簡単な作業だった。
緩慢で単調な攻撃を躱し、龍斬功を叩き込んで自己バフを維持しつつ……
後は、魔剣・グラド=エヴィオスによって付与された猛毒が、奴の生命力を削り切るまで、適当に回避行動を行えばいい。
その末に。
「ゴ、ゲ……ゲガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
咆吼と共に、奴の姿が変異する。
「く、腐った皮膚と肉が、剥がれて……!」
「なんだか、軽くなった感じ、ねぇ……!」
ドラゴン・ゾンビが有する、最大の初見殺し要素。
それは、形態変化である。
この第二形態を含めて、三つのそれを打ち破らねば、こいつを討伐したことにはならない。
厄介なことに形態変化を行うと同時に、奴の生命力は全回復し……
基礎能力の向上だけでなく、モーションさえも変化する。
「こっからは! 攻撃と回避の全てを、こちらの合図通りに実行してくれ! ちょっとでもミスったら終わりだ! 二人とも、気を抜くなよ!」
二人から了承の言葉が返ってきた、次の瞬間。
「ボバァアアアアアアアアアアアアアッ!」
新モーション。
猛毒のブレスを、吐き出してくる。
扇状に広がるそれは、しかし進行速度が極度に速いというわけではないため、落ち着いて横へ走れば回避は容易である。
そして。
「今だッ! 攻撃開始ッ!」
第二形態は全モーションがスピード・アップし、いくつかのモーションが追加されるわけだが、しかし。
「安全策を取り続ければ、何も問題はないッ……!」
ここに至り、魔剣・グラド=エヴィオスの猛毒が活きてくる。
ドラゴン・ゾンビは見るからに毒耐性が高い魔物ではあるが、この魔剣によって付与された猛毒はあらゆる耐性を貫通し……
生命力を参照とする固定ダメージを、秒刻みで与え続けてくれる。
ぶっちゃけた話。
ドラゴン・ゾンビにまともなダメージを与えられるのは今、レオナしか居ない。
俺とノルンの攻撃はカスダメにしかなっておらず、ダメージ・ソースとしては貧弱である。
だが猛毒効果が付与されたことにより、ドラゴン・ゾンビの馬鹿高い生命力はガリガリと削られていき……
「グ、ガ、ガ……グゲガァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
早くも第三形態、つまりは最後の姿へと変わる。
全身の肉が完全に剥がれ落ちて、骨だけの存在となったドラゴン・ゾンビ。
ここからが、真のボス戦だ。
「ノルンッ! 回復と強化! 全力で!」
こちらの断片的な指示を、彼女は十全に理解したらしい。
「エリア・オブ・ホーリー!」
《聖者》のユニーク・アクティブ、その一つを発動。
刹那、ボス部屋全域に魔法陣が展開する。
この範囲内において、俺達は常時、強力なリジェネ効果と状態異常耐性を得ることが出来る。
さらに。
「オーバー・リジェネ!」
先刻発動したユニーク・アクティブによる回復効果と、通常のリジェネ・スキルは、重複する形で効果を発揮することが可能。
そうして防御面を万全なものとしたうえで、さらに。
「エリア・オブ・グローリー!」
魔法陣に上掛けする形で、新たなそれが顕現する。
これによって、俺達は恒常的に強烈なパラメーター・バフを受けることが可能となった。
もちろんこのユニーク・アクティブの効果は全てのバフ能力とは別個の扱いとなっているため、竜斬功のそれは重複して効果を発揮する。
「どっからでも、掛かってこい……!」
果たして。
ドラゴン・ゾンビ、最終形態との戦いは。
なかなかに、熾烈を極めた。
「キィアアアアアアアアアアアッッ!」
巨体のくせして、その動作スピードは桁外れに速い。
後隙もおおよそが潰れていて、だからこそ。
「攻撃するのは俺だけでいいッ! レオナとノルンは回避と防御に専念しろッ!」
「「了解ッ!」」
《テイム》の強みが、ここに来て発揮される。
レオナは元来、ゴリゴリの近接アタッカーだ。
しかし使役物同士によるメイン・スキルの共有により、彼女は今やヒーラーとバッファーの役割をこなすことも可能となっている。
それゆえに。
「オーバー・リジェネ!」
三人の誰かが効果切れとなっても、誰かが掛け直すことによって、常時、バフと回復の効果を維持出来る。
無論、魔力が尽き果てれば、どのスキルも発動出来なくなるわけだが……
しかし、その前に。
「削り切ってやるッ!」
魔剣を携え、俺は果敢に踏み込んだ。
推奨パラメーターと比較したなら、四分の一程度の基礎スペック。
されど。
俺には長年の経験と、それによって培われた高度な動作能力が備わっている。
だからこそ。
「ッ……! す、すごい……!」
「紙一重、どころじゃないわねぇ……!」
自らの経験に自信を持っているからこそ。
俺は臆することなく、全ての動作を完璧にこなすことが出来た。
結果として、相手方のモーションはことごとくが空転し……
逆に、こちらの斬撃はフル・ヒット。
無論、それらは総じてカスダメだったが、しかし。
こちらの目的はアクティブ・スキルによるダメージではなく、猛毒効果の維持にある。
ドラゴン・ゾンビには高い自己回復能力が備わっているため、毒の効果が切れた場合、すぐさま生命力が全快するだろう。
それを阻止すべく、勇気の攻勢を続けたことで……
「ガ、ゴ、ガ……」
ドラゴン・ゾンビの莫大な生命力を、魔剣による猛毒が削り切った、瞬間。
数値上、勝ち目がないはずの一戦は、今。
俺達の勝利という形で、幕引きとなった。
~~~~あとがき~~~~
ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!
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