第一七話 絆レベル
ローグをボコしたところで、御前試合の参加を取りやめるわけではない。
こっちからしてみると、自らの存在を上位者達に強くアピールし、将来の不安を解消するための大きなチャンス、だからな。
もっとも。
だからといって、大会用になんか仕込んでみようとか、そういうつもりは全くない。
我が戦力は既に、原作における中盤程度の状態となっている。
よって御前試合に誰が出場しようとも、遅れを取るようなことはありえないのだ。
そのことを思えば……いま行うべきは、より先の展開に対する準備、ということになるのだけど。
ここがまぁ~、大きな問題となっていた。
「……パラメーターが天井値を迎えた、か」
ダンジョンにて、俺はレオナとノルンのそれを確認しながら、ボソリと呟いた。
ここ数日、パラメーターの向上を目的としてダンジョンに潜っていたのだが……ついに、このときが訪れたか。
レオナとノルンは衛士システムに組み込まれたキャラクターの一部である。
この衛士というのはソロプレイヤーに対する救済措置、という位置づけになってはいるんだけど、実際のところ、まともに運用できるのは中盤まで。
それも、レオナのような最強レベルの衛士でようやく、といった感じ。
なぜならば。
衛士達に設けられたパラメーターの成長上限が、プレイヤーのそれと比較して、半分以下となっているからだ。
「……? どうしたの、ゼクス?」
「そんなふうにジッと見つめられたら……照れちゃうわぁ~」
二人に対して苦笑しつつ、俺は次の言葉を返した。
「いや。なんでもない。……今日はここいらで、引き上げようか」
屋敷へと帰還し、夕餉をとる。
そうしてから浴場にて湯船に浸かり……俺は今後について、思いを馳せた。
「必要なアイテムやスキルをゲットするには、どうにも、戦力不足なんだよなぁ」
推奨パラメーターが現在値の四倍とか五倍とかなら、テクニックと経験則によって、どうとでもなる。
だが一〇倍以上になってくると、もうどうしようもない。
そうした領域へ足を踏み入れたいのなら、パラメーターの向上に努めるしかないのだが。
「俺はまだしも……二人が上限値を迎えた以上、どうしても進行が遅れるよなぁ」
一応、ここに対しては救済策が存在する。
原作においても、《テイム》をメイン・スキルに選んで作成したキャラクターは、パラメータの初期値こそ低めだが、成長力は高く設定されおり、中盤を迎える頃には使役物のパラメーターを大きく超えるよう設計されている。
そこからは少しばかり、成長が停滞するのだけど……
「《テイム》レベルが上がると、かなり便利なユニークパッシブが、手に入るんだよな」
具体的には、使役物のパラメーターがプレイヤー以下だった場合、プレイヤーのそれと同数値に補正する、というもの。
これを獲得した時点で、《テイム》の使い手は大きな成長を遂げることになる。
例えば自分のパラメーターが40000だったとして、ある使役物が20000だったとする。
該当スキルをゲットした場合、その使役物も40000のパラメーターとなり……
その瞬間。
使役物のパラメーターを二割、自らのそれへ加算するという《テイム》スキルの特性が、大きな効果をもたらすのだ。
これまで20000だった使役物のパラメーター値が40000になれば、単純計算して、こちらに加算される値は二倍になる。
そうしたユニークパッシブを取得出来れば、今後の進行は容易なものとなるだろう。
だが、逆に言えば。
「それを獲得するまでは、ここで足踏み――――いや、待てよ」
失念していた要素が、脳裏に浮かび上がってくる。
「あぁ、そうか。うっかりしてたな」
レオナとノルンは、当たり前だけど、人間である。
まぁ正確には亜人種なんだけど、そこはさておいて。
とにもかくにも、彼女達は人であって、魔物ではない。
だからこそ、俺の頭から、一つの要素が抜け落ちていた。
「多分、二人にも設定されてるはずだよな。絆レベルが」
《テイム》スキルを持つ者だけが持つ、隠しパラメーター。
これを向上させられれば……
と、そんなことを思った、次の瞬間。
「ゼ、ゼクス~」
「お邪魔するわよぉ~」
浴場の出入り口にて。
生まれたままの姿をした二人が、声を響かせた――
~~~~あとがき~~~~
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