第四話 まずは一発、ブン殴ってやった
我が身にまつわる大きな問題は、もはや完全に解決したと言っていい。
そうなってくると、心に余裕が出来るもので……
俺は今後の方針を決めることにした。
ローグやらルブルスやらをボコすのは確定事項。
さりとて、それはこっちが能動的に動かなくても達成出来ることだ。
きっと相手の方から絡んでくるだろうしな。
そうなったときに思う存分ブチのめしてやればいい。
よって現在、能動的にこなすべきは……
この世界を徹底的に遊び尽くすこと。
これであろう。
せっかくアルカディア・オンラインの世界に転生出来たんだ。
最高の人生を、最後の最後まで謳歌したい。
その一環としては、まず……
「ど、どうしたの、ご主人様。も、もしかしてぇ~……やっと、その気になったとか?」
レオナ。
ゲームの中では何度となく親密になった彼女だが、現実においては当然、そのような経験はない。
やはり男たるもの、美少女に好かれ、取り囲まれるような人生を歩みたいものだ。
……前世はもう、ほんっと悲惨だったからね。
今回の人生においては、前世で出来なかった不純異性交遊も楽しみたい所存。
そういうわけで。
まずは彼女が抱えている問題を解決するのだが、さしあたっての目標となる。
そのためには……
あるダンジョンに存在する隠しボスを倒して、SSRのパッシブ・スキルを獲得するのが、現状の最適解となろう。
「カネは払ったわけだし……勝手に居なくなっても、文句を言われることはないよな」
「えっ?」
呆けた様子のレオナへ目を向けつつ、俺は次の言葉を口にした。
「武具を揃えて、ダンジョンに潜りたいんだけど……いいかな?」
「……うん。ご主人様が、それを望んでいるのなら」
彼女の同意を得た後。
俺はレオナと共にファスト・トラベルを行い、シヴィラタウンへと転移した。
ここは大型アップデートの第五弾が実装された後に追加された拠点で、武具屋にて取り扱っている品が、現行バージョンにおいては最高ランクの内容となっている。
そこで俺は自分とレオナ、二人分の長剣を購入して、装備。
パラメーターが一〇〇〇倍ほど上がったことにより、今の俺はどんな武具でも扱えるようになっている。
ちなみに防具に関しては、あえて購入しない。
アルカディア・オンラインの防具は鍛冶コンテンツで製造したものを装備するのが基本。
店売りのそれはあまりにも性能が低く、なおかつ動きづらくなってしまうため、初心者以外は装備する価値がないのだ。
その後。
シヴィラタウンの冒険者ギルドへ足を運び、情報登録を行うことでFランク冒険者としての立場を得る。
そうすることでダンジョンへの入場許可が下りたため、俺はレオナを伴って、この街にあるダンジョンへと移動した。
薄暗く、肌寒い、石造りの空間。
そんなダンジョンの出入り口には、虚空に浮かぶ大型のクリスタルがある。
これを用いることで各階層への転移が可能になるわけだけど……
どうやら前世におけるクリア状況が、そのまま引き継がれてるらしいな。
全四〇階層を踏破した状態となっていたため、今すぐに最終層まで向かうことが可能であった。
「よし。そんじゃ、目的の場所まで一気に突き進むか」
レオナと共に四〇階層と三九階層の境目へと転移して、探索をスタート。
目的の場所は定まっているため、そこに至るための最短ルートを行く。
その最中。
「っ……! 敵が来たわよ、ご主人様!」
「リザードマン・タイプの上位系か。準備運動にはちょうどいいな」
この階層は確か、推奨パラメーターが14000平均として設定されてたっけな。
けどそれは、動作テクニックを省いた場合の話。
アルカディア・オンラインはアクション系のVRゲームだ。
ゆえに優れた動作感覚と、敵方の知識さえあれば。
推奨パラメーターにまったく届いていなくても、そのマイナス分を踏み倒すことが出来る。
「レオナ。今回は手出ししないでくれ」
返事を待つことなく、俺は地面を蹴った。
さすがに最上位まで育てたキャラと比べれば、かなり動作が重い。
けど、問題はないな。
「――
剣聖が習得する第一のアクティブ・スキル。
リザードマンに肉迫すると同時にそれを発動し……直撃。
低い体勢から繰り出された切り上げの太刀筋が、見事に敵方の胴を捉えた。
このアクティブは命中と同時に腕力と敏捷の値に少量のバフを付与してくれる。
それを感じ取りながら……すぐさまバックステップ。
「ギゲェッ!」
リザードマンがその手に持つ大剣を振るうが、既に俺の姿はそこになく。
「わかりやすいモーションだな……!」
側面に回り込み、再びの虎狼牙。
このアクティブによって得られるバフ効果は、一〇回までスタックする。
もっとも。
七回目を叩き込んだ瞬間、リザードマンが絶命へと至ったため、最大スタックの維持などは考えずに済んだ。
「ふぅ……まぁ、ざっとこんなもんか」
全ステータスの平均が5だった頃とはもう、何もかもが違う。
この分なら隠しボスも余裕だな。
「……やるわね、あんた」
レオナの瞳には、こちらに対する敬意が宿っていた。
それを軽く受け流しつつ、進行を再開し……ある場所で停止。
ここの壁面を、一定の間隔で七回叩く、と。
「っ……! か、壁が、開いた……?」
「あぁ。隠しルートってやつさ」
ここからは一本道が続き、敵は出現しない。
果たして俺達が辿り着いたのは、開けた一室で。
その中央には、巨大なラフレシアって感じの隠しボスが鎮座していた。
「レオナ。俺が今、と言ったら脊髄反射で動いてくれ。いいな?」
「えぇ。問題ないわ」
敵方を脅威と認定したらしい。
だからこそレオナは、楽しげな様子で笑っていた。
そして――
「キィィイイイイイイァアアアアアアアアアアアアアアッ!」
甲高い雄叫びが放たれた、その瞬間。
ボス戦が、開幕する。
「とりあえずッ! 適当にブッた斬ればいいのよねッ!?」
「あぁッ! それでいいッ!」
無数の触手を繰り出して、こちらを狙う隠しボス。
躱しざまに触手を斬りつけながら、俺とレオナは同時に踏み込んで、
「「
剣聖のアクティブ・スキル、虎狼牙の上位互換たるそれを、敵方の胴体へとブチ込む。
直後。
虎狼牙に倍するパラメーター・バフの付与を感じつつ、俺とレオナはまったく同じタイミングで後退し……触手の乱打を、回避する。
よし。
今の一合で、十分に理解出来た。
俺とレオナのコンビなら、やはりこいつは余裕で倒せる。
警戒すべきは麻痺を付与する粘液の放射、だが。
「――今ッ!」
およそ三秒ほどの準備モーションがあるため、見てから反応するまでに十分な余裕がある。
合図を行いつつ大きくバックステップするこちらを倣うように、レオナもまた背後へと跳躍。
そして粘液の放射が終わったなら、
「ボーナス・タイムだッ! 攻めるぞ、レオナッ!」
「応ッッ!」
くたびれたように動作を停止させる隠しボス。
その胴体へと接近し――
龍斬功を五連発。
そして。
「キメるぞッッ!」
「了解ッッ!」
詳細を言わずとも、こちらが発した気迫から、次の技を感じ取ったらしい。
果たして、俺とレオナが同時に繰り出したのは。
メイン・スキル、《剣聖》を有する者のみが扱える、ユニーク・アクティブ。
即ち、必殺技である。
「「奥義・壱ノ型――――
刹那。
刀身が激烈な煌めきを放ち、そして。
巨大な光の剣となった俺達の得物が、敵方へ交差状の斬痕を刻み込んだ。
「ギ、ゲェエエエエエエエエエエエエエエエッッ!」
隠しボスが放ったのは、まさに断末魔の叫び。
完全な絶命を悟った俺は、敵方の亡骸へと手を伸ばし……
次の瞬間。
植物のバケモノといった巨体が輝く粒子へと変換され、形を変えていく。
「っ……!」
この世界の住人からしてみれば、見慣れない光景であろう。
死体が粒子状となって……アイテムに変わる。
それはプレイヤー権限を持つ俺にのみ付与された、特権であった。
「な、なに、今の?」
「俺は良くも悪くも特別でね。気にしないでもらえると助かる」
説明が面倒だからね。しょうがないね。
まぁとにかく。
俺は隠しボスが残したアイテム……スキル・ブックを開いた。
中身にはなんか、変な模様じみたものがびっしりと描かれていて。
それを目にした瞬間。
スキルブックが闇色の球体に変異し、我が身へと入り込む。
そして――
『パッシブ・スキル、《病魔退散》を獲得しました』
『メイン・スキル、《テイム》の効果により、使役物が同パッシブを獲得しました』
アルカディア・オンラインにおいては、メイン・スキルを育てることで獲得可能なアクティブやパッシブの他に、特定の条件を満たすことで入手可能な、外付けのスキルが無数に存在する。
それらにはR、SR、SSR、URといった、四種のレアリティーがあり、今回獲得した《病魔退散》はSSRに該当するものだ。
その効力は――状態異常に対する強力な免疫と、状態異常発生時の効果時間を九〇%カットするというもの。
レオナのサブクエストを現在のステータスのまま攻略するには、このパッシブが必要不可欠。
そうだからこそ、俺はこのダンジョンに足を運んだってわけだ。
「さて。用件は済んだし……家に帰るか」
ボス討伐後、その部屋ではファスト・トラベルが使用出来るようになる。
それを利用して、俺は実家が治める街へと転移し、屋敷へと帰還。
時刻は夕暮れ前ってところか。
馬鹿ほど広い敷地をレオナと共に歩き、自らの住処へ向かう――
その道中。
「あぁ? なんだお前、見かけないと思ったら、奴隷なんか買ってたのか」
不快な声が耳に入る。
そちらへ目を向けると……予想通り、アホのローグが立っていた、わけだけど。
その隣には、麗しい少女が一人、立ち並んでいて。
思わず、見とれてしまった。
「……おい。うす汚ぇ目で見てんじゃねぇよ。目玉くり抜かれてぇのか?」
凄んでみせるローグ、だが。
少女はそんな彼を諫めるように。
「ただ目にしただけで、そのようなお言葉を投げられるのは……乱暴が過ぎますわよ」
流麗な美声。
それを口にした彼女は……公爵家の御令嬢様にして、ローグの婚約者。
ソニア・ツヴェルクであった。
「いやいや。オレの発言は君のフィアンセとして当然のことだよ。こんなクソ雑魚野郎の視線を浴びたなら、君まで弱くなってしまうからね」
ローグはソニアにべた惚れだった。
そうだからこそ……いつも以上に攻撃的な調子で、こちらへ接してくる。
「にしても、お前、ついに奴隷なんぞに手を出すようになったか」
下卑た笑みを浮かべながら、ローグはレオナの体を舐めるように見回すと、
「ハッ! 穢らわしい亜人種とはいえ、なるほど確かに、男好きする体ではあるな」
おいおい。
隣にフィアンセが居るってのに、肉欲を別の女に向けていいのかよ。
こういうとこ、原作でもホンット気持ち悪かったんだよな、こいつ。
「見たところ……まだ味見もしてないようだな?」
つかつかと近付いてきて、無遠慮な調子で、レオナへと手を伸ばす。
真正面から彼女の爆乳を揉みしだくつもりなんだろうけど――
させるわけがないんだよなぁ。
「うす汚ぇ手で、触れんじゃねぇよ」
先刻の意趣返しとばかりに、その一言を口にした、次の瞬間。
俺はローグへと瞬時に踏み込んで。
握り固めた拳を、顔面のド真ん中へと叩き込んでやった。
「ぼべぇッ!?」
無様な悲鳴を上げながら、派手に吹っ飛ぶ。
そうして地面へ倒れ込んだローグは、ピクリとも動かない。
そんな彼へと近付き、様子を検めると――
「ははっ、男前になったな、ローグさんよ」
顔面の中心部が陥没し、ずいぶんと愉快な顔になっていた。
スマホがあったら写真撮ってるとこだわ。
「…………」
どうやら完全に失神してるらしいな。
ローグはなんの反応も示さない。
「ま、三パーセントぐらいは、溜飲が下がったかな」
勿論、これで終わりなわけがない。
今後、何度かに分けて、キッチリとお返しをさせてもらう。
だからとりあえず、今は。
「ソニア様。そこのクソ雑魚ナメクジへの伝言を、お願いできますか?」
「は、はい」
当惑しきった調子のソニアへ、俺は次の言葉を放った。
自らの満面に、笑みを浮かべながら。
「――今日からはお前が、ストレス解消用の玩具だ、と。そのようにお伝えください」
~~~~あとがき~~~~
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