第六話 次にすべきことは――
アホのローグをブン殴った後。
レオナと共に自らの屋敷へと帰り……
それから、すぐ。
俺は彼女へ、次の問いを投げた。
「そろそろ夕食時だけど、なんか食べたいものとかある?」
「えっ? ……た、食べさせてもらえるなら、なんでもいい、です」
「はは。遠慮は要らないよ。大概の食事は作ってもらえるから」
「じゃ、じゃあ……デッカいステーキ、とか?」
「いいね。俺もちょうど、肉をガッツリ食いたい気分だったんだ」
厨房に行ってコック達へオーダーを伝える。
そうしてからしばらくすると、食堂に人が集まってきて。
「……皆と一緒に、食べるの?」
「あぁ。ここじゃいつも、そんな感じかな」
「そう、なんだ」
レオナは俺のことを器のデカい男、みたいに勘違いしたようだけど。
実際はただ、使用人達にナメられてるだけなんだよなぁ……。
まぁ、賑やかな食事は望むところではあるので、問題はないんだけどね。
「おっ、来たぞレオナ。特大のステーキだ」
「わっ……! す、すっごぉ……!」
目をキラキラと輝かせる彼女の姿は、年相応に愛らしくて。
だからこそ……
細い肩に背負っているそれを、早く取り払ってやりたいと思う。
「うん。配膳も済んだようだし、いただくとするか」
「待ってましたっ!」
言うや否や、ずいぶんとワイルドな方法で食事をし始めるレオナ。
マナーという言葉を彼方へと放り捨てたかのような食事法であるが、俺は気にしない。
使用人の一部は眉を顰めたけれど、何もしてこないのであれば、対応する必要もないだろう。
「んみゃ~い♪」
「はは。それはよかった。……俺のやつ、半分食べるか?」
「えぇっ!? いいのっ!?」
「あぁ。君が食べてる姿は、見ていて気持ちが良いからな」
「~~~~っ! あ、あんたってば、最高のご主人様ねっ!」
ふむ。
強い欲求に突き動かされているからか。
彼女は今、完全に芝居を忘れているな。
まぁ、素のレオナが一番可愛いので、こっちとしてはありがたいぐらいだけど。
「ん~~~~♪ おいちぃ~~~~♪」
しばし舌鼓を打ち続けるレオナ。
しかしふと、彼女は周りを見回して。
「ねぇ、ご主人様」
「なにかな?」
「ご主人様の家族は、どこに居るの?」
おぉう。
ゼクス本人が聞いたら、複雑な顔をするような質問だな。
けど俺はゼクスにしてゼクスではないので、なんにも気にすることなく、次の言葉を返した。
「父は別邸に住んでるから、食事を共にすることはない。で、母については一〇年ぐらい前に病気で死んでるから、ここには使用人しかいないんだよ」
「あっ……そ、そう、だったのね…………なんか、ごめんなさい」
「気にしなくてもいいよ。家族に対しては、特別な感慨とか抱いちゃいないから」
「それは、なんというか……悲しい話ね」
家族思いのレオナからすると、特にそう感じるんだろうな。
ともあれ。
湿っぽいムードを晴らすように、レオナは食事に没頭し始めた。
俺もそれに倣って夕餉を楽しみ――
「ごちそうさま」
食事を終えてからすぐ、浴場へと向かう。
さすがに風呂まで使用人と共用ってワケじゃない。
主人専用の一室が、屋敷には設けられている。
無駄に広々とした空間にて、俺は湯船に浸かりつつ、唸るように息を吐くと。
「ふぅぅぅぅ……これからもう一汗流すわけだけど、そうかといって、ダンジョン探索の汚れは落としときたい、よなぁ……」
今宵、俺はレオナを伴ってある場所へと向かう予定だ。
そこで彼女に関連したサブクエストをこなし……
作中でも最強クラスの一振りとして知られる魔剣を、手に入れる。
「せっかく、一度はやってみたいと思ってた《テイム》スキルで、スタートしたわけだし……この世界でも、最強ビルドを構築したいよなぁ~。ゲーマー的に考えて」
独りごちた後。
体を洗うべく、湯船から出て、壁面へ。
そこには魔導仕掛けのシャワーヘッドと石鹸、そしてスポンジに似た洗体道具が、取り付けられてあった。
それらを手に取って、体を洗おうとした……直前。
「お、お邪魔するわよっ♥ ご主人様っ♥」
精一杯って感じの猫撫で声を響かせながら。
レオナが、浴場に入ってきた。
しかも……
生まれたままの、状態で。
「っ……!」
やばい。
すぐに目を背けたからよかったけど……
あと三秒遅かったら、体の一部が見苦しいことになるところだった。
「な、何をしに、来たのかな?」
「そ、そんなのぉ~♥ き、決まってるじゃなぁ~い♥」
彼女もかなり、恥ずかしいのだろう。
その顔を確認することは出来ないが……きっと、熟れたリンゴの如く真っ赤っかに違いない。
そんなレオナは、次の瞬間。
こちらの背後に忍び寄ると……
まず、俺が持っていた石鹸を奪い取って。
「ん、しょ……ん、しょ……」
何やら作業に及んだ後。
「じゃ、じゃあ、あたしの、体で……ご主人様のお体を、洗っちゃいまぁ~す♥」
半ばやけくそ気味に放たれた台詞。
その直後。
むにゅりとした感触が、背中の一部から伝わってくる。
こ、これは、まさか。
「んっ、しょ……んっ、しょ……」
ぐみゅん、ぐみゅん。
もにゅん、もにゅん。
大きく、そして柔らかい、二つの何かが、背中一面をズリズリと移動する。
そこには当初、ただ心地のいい柔軟性のみがあったのだけど……
あるときを境に、突起物めいた感触が、混ざるようになって。
「んんっ……♥」
レオナの甘やかな吐息が、耳元をくすぐってくる。
ヤバい。
ほんっとに、ヤバい。
このまま続行したなら、俺は色んな意味で最低な男になってしまう。
だからこそ。
「ご、ご主人様ぁ~♥ こ、ここからは前の方を、入念に洗わせて――」
「色仕掛けなんか、する必要はないよ」
必死こいて理性を働かせながら、俺は言葉を積み重ねた。
「レオナ。君にかけられた隷属と洗脳の魔法は……既に、解除されてるよな?」
「っ……!」
やおら、我が身から離れていくレオナ。
そんな彼女を目にすることなく、俺は言葉を紡ぎ続けた。
「《テイム》で使役した存在は、その時点でマイナスの効果が全て消失する。となれば必然的に、君を縛り付ける隷属の魔法と、君の人格をねじ曲げている洗脳の魔法も、使役した瞬間に効果を失うんだよな」
ゆえに。
使役が完了して以降の彼女が、性的なアピールをしてきたのは、全て。
「ある目的に協力させるための、色仕掛け。そうだろ? レオナ」
彼女は簡単に股を開くような、軽い女じゃない。
そんなレオナが、こちらに体を売ってまで達成したい目的というのは――
「村の皆と……家族。その仇を、討ちたいんだよな?」
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