第4話 

「ルルカ空気読め!」

「えっ?」

戦闘中からずっと思ってたことを投げかけると、急にセナが怒り出した。

「いや、話終わったみたいだからいいかなって」

「ちょっとは考える時間あげなって言ってるの」

セナは続けた。

「頭んなかで折り合いつけてるところだったでしょ今。」

「いや、いい」

セナの声に答えたのは少年だった。

「もう、大丈夫だ。

……あんたの言う通りだよ、動かない的なら何度も撃ったことあるけど、動いてるのは一度もない。」

「……そっか」

セナは優しく笑った。

「じゃあ“教区じゃ指折りの錬金術師”って、法則研究についての事だったの?」

「あんた……あ~セナ、さんも言ったろ。教区には錬金術師がいないんだよ。」

教区出身の錬金術師が言った。

「教区全体でも十人いるかいないか……指折りってか指折って数えられるくらいしかいないんだよ。」

“教区で錬金術師は珍しい”

道中でセナが言ったことは思ったより顕著だったようだ。

「人が少ないなら設備は整わない。練習場所が無かったから練習できなかった、か」

私は続けた。

「そんな状態で教会依頼無茶ぶり行こうとしてたの。」

「うるせぇな……」

ばつが悪そうに少年が言った。

「あいつらを、見返したかったんだよ。」

「あいつら?」

「教区のやつらだよ。」

私が聞いたら、少年がすぐに答えた。

「あいつら、”魔を滅するのには神の恩寵があれば十分”とか言ってんだよ。」

「教会のお膝元故の神様至上主義か〜」

隣で聞いていたセナが言った。

「恩寵と錬金術って全くの別物なのにね。」

「そうなの?」

その言葉に尋ねたのは私の方だった。

「てっきり同じようなものだと思ってた。」

私達魔族にとって”魔”と”相”はほとんど同じものだ。

自分の内側にあって、自分自身に作用する”相”

それを体外に放出し、自分以外に適応させたのが”魔”

どちらも大本は、私たちの中にある”人間とは違う何か”だ。

だから人間も同じようなものだと思ってた。

「神の恩寵は、文字通り神様が”魔”を祓うために渡す力」

私の質問に、セナが答えた。

「錬金術は神とは関係なしに、この世界の様々な要素や法則を調べて利用する術なの。」

「そうなんだ」

「生返事!」

イマイチわからないまま相槌を打ったら見透かされた。

「さてはそこまで理解できてないな〜!」

「だから、魔族と戦うのに錬金術はいらないなんてぬかしやがる!」

抗議するように肩を揺らされた私をよそに、少年が拳を握りしめた。

「親父から教わった錬金術を役に立たないゴミだって!許せねぇ!」

「落ち着いて。」

怒気を荒げる少年の肩にセナが手を置いた。

「君の事は良く分かった。

……だから、見返したいんだね。錬金術はゴミじゃないって。」

「……あぁ。」

息を整えて錬金術師が言った。

「教区が出した依頼を一人で片付ければ、あいつらの耳に届く。

……そうすりゃ、あいつらも俺のことを見直すだろ。」

なるほど、確かにそうかもしれない。

ギルドは、依頼の結果を依頼者に報告する役目がある。

それは教会の物でも同じだから、デヴィンの理屈はあってる、かもしれない。


……けど。

「それって、今、教会の依頼じゃなくてもよくない?」

「・・・は?」

私の声に、デヴィン君は驚いた顔をした。

「人の話って、結構遠くまで届くんだよ。」

その顔を見ながら私は続けた

「だから、いろんな依頼こなして、こっちで有名になれば、そのうち教区にも届くんじゃない?」

だよね?とセナに顔を向けると、頷きながらセナが言った。

「そうだねぇ」

セナが続けた。

「魔族退治の依頼なんて教会じゃなくても時々来るし、教会のやつが出来るころには、十分有名になってるだろうしね。

……少なくとも、焦って勝てない相手に挑むべきじゃないと思うよ。」


「……そんなもんなのか?」

「そんなもんでしょ」

迷いの残る少年に少女が返す。

「……そんなもんなのか……」


「それじゃとりあえず今の話をしようか」

同じ言葉を繰り返す少年にセナが言った。

「まだ目標深度まで言ってないから、探索は再開するよ。

まずは夜を待って再突入、私とルルカで進めるから、デヴィン君は後ろからついてきて。

余裕があったら攻撃に参加してもいいけど、まずは戦闘の空気に慣れていこっか。」

「ちょっとまて!」

今夜の計画を話す少女に青年が待ったをかけた。

「俺に関してはそれでいい。いや良くないけど……ルルカ、さんは大丈夫なのか?思いっきり血吐いてたけど……」

「大丈夫でしょ」

敵である魔族にもそんな心配が出来るなんて優しい子だな、と感心する私をよそに

セナが言い切った。

「魔族と戦いたいなら知っとくといいよ。獣の“相”を持つ魔族の身体の強さと再生力を。」


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