第2話
「はい、納品受理しました。お疲れさまでした!」
昼頃、私はギルドに戻ってきた。
依頼品を納品して報酬を貰うと、そのまま市場に繰り出した。
帝都は周囲を山と海に囲まれている。
時にそれは自然の要塞となり、時に大いなる恵みをもたらす基盤となる。
何が言いたいかと言えば、この帝都では肉も魚も新鮮に食べられるのだ。
そんな場所の昼時の露店通りなんて、美味しい物を食べたい人たちでごった返して当たり前である。
「狼男がまた出たらしい――」
「若い女性が標的に――」
「今夜教会と傭兵ギルドで――」
通りで少し遅めのご飯の食べながら、町中の会話に耳を傾ける。
どうやら最近の話題は例の狼男らしい。
「ルールカッ!」
「んむ、
市場近くの教会に続く階段に座って、屋台で買った黒パンを頬張っていると、石タイルをブーツで鳴らしながらセナが大声で話しかけてきた。
「帰って来てたんだ!」
「んくっ・・・うん、ついさっきね」
隣に座ってきたソードマンに、口の中のパンを飲み込んでから答える。
「聞いたよ、今夜大捕り物なんでしょ」
「そうなの、もう大忙し!昨日もあんま寝れてなくてさぁ」
噂話について聞くと、待ってましたと言わんばかりに愚痴が飛び出した。
「いろいろ調べてようやく尻尾を掴んだところでね、スラムの方に隠れてるらしいってとこまで調べたの!」
「スラムかぁ」
そんなことこんなとこで言ってもいいのかと思いながらもセナの愚痴に付き合っていると、愚痴を吐いていた人が目の前を歩いていく人を見ながら言った。
「そういえば、ルルカって今どこ泊ってるの?」
「え?」
やたら大きな声で言ったソードマンは、こちらの言葉も無視していった。
「あ、スラムの外縁の宿?あ~じゃあ今日は早めに帰って部屋から出ない方がいいね」
「ちょっ!?」
「んじゃ、私これから忙しいから」
大きな声で大法螺ついた友人がその場を立ち去った。
引き留められなかった私は項垂れそうなところを必死に抑え込む。
まるで他の誰かに伝えたいようなやたら大きな声
情報の共有・・・それによる『知ってるぞ』という威嚇
友人の宿を知る・・・という体の、分かりやすい標的の創出
(後で絶対奢らすからね)
無理やり囮に仕立てられた私は、アホセナの望み通りスラムへと足を進めた。
帝都の中心部に敷き詰められた石タイルも、その外れになると土の面があらわになる。
帝都の外れ、貧しさや諸々の事情によってはじき出された人たちが集まる一角。それが、貧民街スラムと呼ばれる場所だ。
中心部からほんの少し外れたところにあるここは、私が以前住んでいたところでもある。
(この辺りは変わらないかな?)
軽く周囲を見渡す。ちょっとした時間じゃ、このあたりは変わらない。
ボロボロの小屋
廃墟を守ろうとする瞳
お構いなしに通り過ぎてスる子供。
私が来る前と、何も変わらない無法地帯だった。
(たぶん、セナは私の事を『最近やってきた人間』って風に見せたいんだよね・・・無理がない?)
セナと私は結構前から仲が良くて、たまに一緒にご飯とか食べたりするし、時々二人で依頼をこなしたりもする。ギルド周りの人からちょっとした名コンビとして扱われてるくらいだ。
だから、『セナの知人の田舎者』という構図は、私には成り立たない。
(ていうか、帝都産のそれなりの服を着た田舎者がどこに居るのさ・・・そっか、だから仕事帰りに来たのか。)
数日の薬草採取で、私の身体は泥だらけ。
身体を洗ったのも水浴び程度で、服の洗濯なんてまともに出来てない。
だからこそ、長旅をしてきた田舎者って設定の違和感が少なくなる。
(帝都の友達を頼ってはるばるやってきた、ってことはつまり、この街にはまだ知人が少ないということ。
“そいつら”からはきっと、知人は話しかけて来た小娘一人しかいないかもしれない・・・そういう風に見える。
女の一人旅で、知人も少なく、スラムの宿を取っている。
そんな女性、狼男・・・いや、
人攫いにしたら
格好の標的)
そんなことを考えながら裏路地に入ってしばらくすると、建物の中から上から複数の影が落ちてきた。
それは、ぱっと見狼男と言っても差し支えない。
狼の頭と、狼の腕に人の脚を持った人間、それが3人も現れた。
(狼男・・・じゃない!狼の毛皮をかぶった人間!)
そう認識して、素早く拳を構えた
その瞬間、狼男の一人の目から紫色の光が迸り
私の意識が無くなった。
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