第3話
(魔族違いなんですけど・・・)
目隠しをされて、両手両足を縛られて座らされてる私が最初に思ったのがそれだった。
魔族、神の恩寵と世界の法則に対する適性を持つ人間と違い、魔への適性と特異な相を持つ存在。
人間の知る世界の法則では起こしえない現象を引き起こす者たちこのことだ。
狼男、つまり人狼もこの魔族の一つ、獣の相を持つ魔獣に分類されている。
けど、今目の前にいるのは。
(“精神”の相の魔族、妖魔)
正確にはその妖魔の一種。『眠り』という概念への適性が高い者だ。
妖魔は見つめた相手に自身の相を叩き込む。それによって眠らされたのだろう。
「連れてきちゃって良かったの?」
軽薄そうな少女の声がする。
「もう傭兵ギルドに感づかれてるんでしょ。情報網に絶対引っかかる。売ったら即バレだよ」
「売るんじゃねえよ」
今度は若い男の声
「ギルドの傭兵どもへの交渉材料だ。どうもオレらを追ってるやつのトモダチみたいだからな。」
「なるほどな」
今度は野太い男の声
「俺らを追うならこいつを殺す、とでも言うのか。だが、そんな人質がうまく行くのか?」
「行かねえならじゃあねえさ」
若い男が言う
「引んむいてぶっ殺して逃げるだけさ。いつもみてえにな」
「あ、じゃあ私吸いたい!」
少女の声、おそらく彼女が妖魔だ。
「また長旅になるんでしょ、なら満タンにしときたいわ!」
「おう、いんじゃね、精神ぶっ壊せば剥ぐのもラクだろ!」
げらげらという若い男の笑い声、三人しかいないのかな。
「つか、もうやっちまうか。」
「お前ら・・・」
こちらに来る二つの足音に野太い声が呆れている
「足が着くだろうが・・・ったく」
「ほい、ごかいちょ~」
若い声が楽しそうに言いながら私目隠しを外す。
天井の隙間からくる光と、テーブルの上のランプに照らされた、下卑たな瞳が不機嫌そうに歪む。
「んだよ、つまんねえなもうちょい怯えろよ」
「ねえねえ、もういい?」
隣にいた年端もいかない少女が待ちきれなさそうに急かした、丸い瞳の中を瞳孔が縦に切り裂いている。間違いない、彼女が妖魔だ。
「もう待ちきれないんですけど」
「下手な抵抗はするなよ」
野太い声がする、大柄な熊のような男だ
「ここは地下だ、叫んでも届きはしない。」
「そういうこと!」
男の声にかぶせるように少女の幼い顔がドアップで入ってきた。
「今からあなたの事、お人形にしちゃうわね!」
「お人形?」
「うん!」
思わず聞き返した私の頭を少女が両手で固定する。
「何も考えられない、考える力を丸ごと私に吸い取られた、私のお人形!」
「そいつは妖魔だ」
若い男が嗤いながら言った。
「あんたの精神を根こそぎ食い尽くしてやるっつってんだよ。すぐに喋れなくなるぜ、何か言いたいことはあるか?」
「そうだなぁ・・・」
下卑た嗤いを流して、身体からくる疼きを感じながら答えた。
「『絶対に奢らす』」
「・・・ぷっあっはははははは!!」
「・・・フフッアハハハッハハ!!」
私がそういうと、少しの間の後、少女と若い男が大笑いしだした
「状況分かってんのかてめぇ!」
ひとしきり大笑いした男は態度を急変して掴みかかってきた
「てめえは、今からぶっ殺されんだヨ!!なんでそんな奴に奢るなんざ「アンタらじゃなくて」・・・あぁ!?」
男の怒声に割り込んで制する。
そうしているうちに、天井・・・ってか一階の床から抜けてきた光が無くなっていく。
それに合わせるように、私の身体に異変が起きる。
「こんな役回りをさせたあのバカに、絶対に奢らせてやるってこと」
大きくなる体格に全身を縛っていたロープが耐えきれずに引きちぎれる。
全身の筋肉が肥大し、さらに毛皮が全身を覆う
手足も大きく、そして指が細く伸び、その先に鋭い爪が生える。
マズルが伸び、そして視界の色が薄くなる。
私の姿が、直立した狼のごときそれになる。
「え・・・?」
困惑する妖魔に親指を握りこんだ拳を叩き込む。たった一発で少女ごと意識を吹き飛ばす。
「まさかお前!」
動揺する若い男の胸倉をつかんで投げる。テーブルを巻き込んでハデに転がった。
「ははっ、狼の皮被ってた俺らがバカみてぇだ」
素早くランプの灯を消した男が言う。
そのまま足音を立てずに移動してきた男が突き立てた剣を歯で噛んで止める
「なっ・・・!」
暗闇での奇襲、本人的には必殺だったそれを受け止められた驚愕で、動きを止めた瞬間にラリアットを仕掛け、そのまま角度を変えて地面に叩きつける。男の意識を叩き伏せるのに十分な勢いだった。
(狼は目じゃなくて、鼻を重視する。ランプを消して暗闇を作っても、臭いが移動してるなら関係ない。)
狼男・・・否、人狼騙りの人攫いたちは、
本物の人狼に制圧された。
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