終話

「いやぁ、スラムに潜んでいるところまでは分かったんだけどさ」

 パチパチという音をバックに、セナが事情を説明する。

「最後の最後でヘマしてね、調べてることが向こうに気付かれちゃったのよ。」

ふぁるほろなるほど?」

 程よく焼けた肉に噛みつき、筋張ったそれを歯で砕きながら言った。

「それで私が人質として使えるヤツだって印象付けて、人さらいをさせて時間を稼いだってわけか。

 それ、私がさらわれてなかったどうするのさ」

「出入り口は騎士団が固めてたよ。誰も出さないようにしてた」

 食材を指した鉄串を火にかけたセナが言う。

「だから、奴らにゃどうにかして通る方法が必要だったのよね」

 それがルルカ、とセナが鉄串で私を指した。

「正確には、私を人質にとられたセナってわけね。セナを脅して開けさせる魂胆だったわけだ」

 その鉄串に輪切りの人参を突き刺した。


「・・・ってかなんで私たちは真昼間にセナんちの庭で焚き火囲んでるのさ。」


「好きでしょこういうの」

 私の刺した人参の上から肉を指していくセナが言った。

「小さくお皿に盛られるよりもさ」

「そりゃまあ……そうだけど。」

 いい感じに焼けた肉を串ごと取りながら言った。

「“いらんって言っちゃったしお金はいいからなんか奢れ”って言った結果が自宅で焚き火だとは思わないでしょ。かまどまで作ってるし。」

「野宿とおんなじでもつまんないじゃん。」

 けらけらと笑いながら交易商の次女が言った。

「港でかまどの上に二本の棒を寝かせて、その間に掛けるって焼き方を聞いてさ。やってみたかったんだよね。どう?」

「結構おいしい」

 焼けたベーコンの香ばしさと程よく抜けた油の甘みを同時に堪能しながら言った。

「けど、ベーコンじゃない方がいいよねコレ。」

「そういうと思った!」

 つい文句が出た私の前で、セナが待ってましたと言わんばかりに何かを取り出した。

 それは木のプレートに乗っかった、肉だった。

「うちと契約してる狩人が朝取ってきたイノシシ肉!ちょっとだけ頂いたんだ!」

「マジで!?」

 思わず取り出した肉に鼻を近づける。

 鼻を抜ける匂いは間違いなく新鮮なイノシシの肉であることを告げていた。

「マジだ・・・もしかして」

「今から切り分けて」

 そういいながらセナは肉を置くとナイフを抜き放った

「串に刺します!」

「絶対上手いやつだ!」

 思わぬごちそうに思わず体が跳ねる。


「端っこのとこ先に食べさせて!生で!」

「焼かないの!?」


 人狼と人間

 2人だけの食事会は、食材が無くなるまで終わることはなかった。



「あ、玉ねぎと一緒に刺すな!私食べれないの知ってるでしょ!」

「はっはー!これは私のものだ!ルルカには人参付きの上げる」

「わーい、じゃない肉だけの串ちょうだいよ!」

「それやったらすぐにお肉なくなるでしょうが!」


 終わるまで、静まることもなかった

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