『地下水道の探査依頼』
第1話
「なんでだよっ!」
便利屋ギルドの1階酒場にて、次の依頼をどうするか考えていた私とセナの耳に、大きな怒声が響き渡った。
「なんで受理してくれないんだよ!」
「ですから、こちらは一定以上の評価が必要になるんですよ」
怒鳴っているのは、帝都に多い黒い髪の少年だった。長いコートに身を包み、何を獲物にしているかわからない。
「話聞かない若者だ……よぉし!」
「私たちと年あんま変わんないでしょ。ってちょっと」
あんだけ詰められても対応変えない受付さんもすごいな、と眺めていると、隣の金髪が火中へと歩み寄った。
「へい少年!お姉さん達と一緒に行かない?」
「新手のナンパだよそれじゃ……ごめんね急に、」
ためらいなく声を掛けたセナに続く形で近づく。
「でも、
「ってことで受付さん!」
少年に有無を言わさずセナが確認する
「この三人ならどう?その依頼、受けられない?」
「えっと……」
受付さんは苦笑しながら、依頼書――おそらく彼が受けたいと言っていたもの――を差し出した。
「とりあえず、こちらをご確認ください。」
促されるまま二人でその依頼書を確認する。
『魔族の王が一体、吸血皇の討伐』
あ、コレ教会からの無茶ぶり依頼だ。
「受付さん、地下水道の害獣駆除依頼ある?」
自分たちでも無理な依頼だと分かった瞬間、ソードマンはすぐに切り替えた
「そっちあったら受けるよ」
「なんで俺がこんな奴らと……」
地下水道への侵入口に向かう間、少年はぐちぐちとぼやいていた。
「しかも下水道のネズミ駆除とか……銃の火薬が湿気ちまう……」
「銃ってことはさ」
その愚痴を逃さずに前を歩いていたセナが言った。
「キミは錬金術師なんだね?」
錬金術師。
人間が神の恩寵と共に持つ適性、世界の法則への理解を元にした技術を操る術師。
銃はその錬金術師が用いる遠距離武器、専用の弾を利用する武器のはずだ。
(まぁ、錬金術の理屈についてはいまいち理解できてないんだけど。)
魔族には良く分からない話だと考えていると、少年は腕を組んで名乗った。
「そうだ!俺はデヴィン、教区でも指折りの錬金術師だ!」
「教区からか、遠路はるばるだね!
私はセナ、剣士をやらせてもらってるよ、よろしく。」
「ルルカ、体術士だよ。」
そういって少年、デヴィンへと手を向ける。
「今回だけだからな。」
デヴィンは鼻を鳴らしながら握手を握り返してきた。
(にしても教区の人か……少し離れよ)
「教区出身の錬金術師って珍しいね?」
手を離して横にズレた私と入れ替わるように、デヴィンの横に滑り込んだセナが聞いた。
「あそこって神官の方が多いでしょ?」
教区は、帝都にもある教会の総本山。
土地こそ狭いが、そのすべてが教会の敷地と言ってもいいという場所だ。
その地域柄、教区で生まれ育った人物は、教会に入る者が一般的だ。そこから冒険者になるなら必然神官ということになる。
「よく言われるよ」
そんな場所の錬金術師がふてくされたように言った。
「でも、俺にはこっちの方が性に合ってたんだ。……だから俺はこれで……」
そこで一度区切った少年は、腰から長い筒状の道具、銃を取り出した。
「これで、魔族の奴らをぶっ殺してやるんだ。」
「ふ~ん、そっかそっか」
なんてこともないような顔をしながら、セナは言った。
「そういうところは教区の人なんだね。」
教会の教えでは、魔族は悪とされている、らしい。
原因ははるか昔の人魔戦争、今は事実上終戦したそれを元に、教会は『魔族は人を脅かす化け物である』と教えているそうだ。
(だから、教会の人間は魔族に対して厳しい人が多いんだよね。民証だって教会の首輪みたいなもんだし。)
「でも、ネズミでもキチンと撃ってよね?」
私の考え事をよそに、目の前を歩くセナが隣に行った。
「パーティを組む以上、私たちは『あなたの援護がある』ってこと前提で動くんだから。」
「分かってるよ。」
銃を仕舞いながら少年が言った。
「ネズミだろうと外しはしねえよ」
その手が、少し震えてる気がした。
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