第2話

 地下水道。

 帝都の地下を張り巡らされた、石造りの遺跡だ。

 元は帝都建立以前の文明を知る遺跡群らしいが、そこに山の湧き水が通るように溝を掘って作って帝都中に水を回している。

 かつての文明を冒涜するような所業は、それを意識できない程人間が危機に瀕していたことの証明、と取る人もいるらしい。

「とはいえ、基本的には道が広いだけの下水道、何か面白いものがあるわけじゃないから来る人も少ない。」

「結果、どこからか入り込んだ獣が住み着きやすい。だから定期的な探索が必要になる。」

「近場で、半分洞窟みたいなもんだから、初心者ニュービーの鍛錬や、新しいパーティの試運転に持って来い!」

 私、デヴィン、セナの順番で言っていく。

 突然に始まった連携がうまく行ったのがそんなにうれしかったのか、ふむん!と満足げなセナが進みだした。

「行くよ!」

「おい待てよ!」

 そんなセナを慌てて追っていった錬金術師に続くように歩き出した。


「なぁ、今更だけどよ」

 と水が流れる脇を歩いていると、片手にランタンを持った少年が話し出した。

「入ったやつを駆除するんじゃなくて、そもそも入んないようにした方がいいんじゃねえのか?見張りとか立てて。」

「それ、意味ないらしいんだよね~。」

 先頭を歩くセナが剣を片手に答えた。

「設備、というか遺跡が大きすぎて、全貌が把握できてないらしいんだよ。水道としての基幹部分は後付けだから上層部うえが全部押さえてるらしいんだけど。」

「たぶん、見つかってない入り口とかあるよね。」

 最後尾の私は周囲を警戒しながら言った。

「時々賊とか入って来てるし。」

「あるだろうね~」

「良いのかソレ・・・」

 けらけらと笑うセナにデヴィンが呆れるように言った。

「っくそ、照明もねえのかよ、見づれぇ」

「そこも鍛錬ってことじゃない?実際の洞窟にも明かりなんてないだろうし。」

「じゃあ、こっちも着けよっか」

 通路の設備に不満を漏らすデヴィンの声を聞いて、セナが背負い袋から松明を取り出して火を着けた。

「これならちょっとは見やすいでしょ。」

「それだと剣振りづらくない?」

「そん時は投げつけるよ、地面に落ちてもちょっとは燃えたまんまだし。」

 原始的な方法もこういう時使えるよね~っと松明を持ったまま剣士が先行する。

 それを追って前に意識を向けた時、闇の中から獣臭が漂ってきた。

「居る」

「居るね」

 短く前に伝えれば、セナは立ち止まり剣を構え直していた。

「い、居るって?」

「しっ、静かに」

 急に立ち止まった私たちに驚いたように声を上げかけたデヴィンを制して続ける。

「前に巨大ネズミ、臭いの位置的に4体」

「りょーかい。」

 私の言葉を聞いたセナが簡単に指示を出す。

「私たちで抑えるから、デヴィン君は一体ずつ落としてくれない?」

「お、おう・・・」

 言いながらデヴィンが腰から銃を抜いて構える。

 その両手が震えているように見えた。

「大丈夫?」

 その両手を同じく見たのだろうセナが声を掛けた。

「何なら、下がって見ててもいいよ?」

「なっ・・・」

 その言葉に、デヴィンは怒ったように声を上げた


「ふざけんなっ!子ども扱いしてんじゃねえ!!」


 反響するほどの大声が遺跡内に響き渡り、私たちは目を丸くする。

 セナには(もちろん私にも)、子ども扱いするようなニュアンスは無かったはずだ。

「……!まずいっ!」

 けど、それ以上に対処しなきゃいけないことが起きていた。

「今の声で気付かれた!さっきより数が増えてる!」

「やっば!」

 それを聞いたセナがすぐに松明を前に投げ落とした

「何匹増えた!?」

「2増えて6!!」

 前に出てセナの言葉に即応する、けどこれは・・・

「奥にもいる!!そっちは多すぎて分からない!!」

「それがなんだっ!」

 無理やり気丈にふるまうかのように、腰の銃と手のランタンを交換したデヴィンが言う。

「たかがネズミの6匹……!」

「っバカッ!下がれシューター!」

 そのまま勇み足に前に出たデヴィンにセナが叫ぶ。


 松明が照らした先には、確かに6匹のネズミがいた。


 ただし、直立すれば人間の子供はありそうな大きさのネズミだ。

「でけぇっ……!」

 驚きながらもデヴィンが銃を操作すると、バンッ!!っという何かが爆発したような音と共に何かが前に放たれた。

 それは正面にいたネズミ……の後ろにいたネズミに命中し、その頭部から血を吹き出させた。

「当たった……!」

「当たったじゃない!下がって次!」

 セナが、その光景にガッツポーズをする少年の上着を引っ張って投げるように下がらせた。

 合わせるように突っ込んできた一体を蹴り飛ばす。

「ってぇ、なにすんだ「いいからっ!早く!」」

 礫の如く向かってくるネズミにコンパクトに拳を叩き込み迎撃する。

(セナの慌てようを見るに、銃は接近戦に不得手な長弓のようなもの、だったら一体も通せない!)

 だから倒すより退ける、通さないように殴り飛ばす。

 一瞬目をやれば、セナも同じように剣を細かく振り抜いて突破を防いでいた。

(後ろの方までは確認できないけど、撃ちやすいように視界を取れば・・・!)

 立ち位置を調整、真ん中に空間を開けて狙いやすくする。空間のフォローはセナがしてくれた。

 それから数瞬、バンッ!!という銃の音と共に


 正拳突きを構えた私の右腕を、何かがかすめて飛んでいった。

「痛゛っ!!?」

「セナッ!?」

 切り裂いたような痛みに思わず叫ぶ。

 痛みの元である右腕に手を当てると、側面から切り傷のようなものが血を溢れさせていた。

 すぐにセナが前に出てフォローしてくれる。

(右腕が動かしにくい……!)

 痛む右腕に注意を割かれながらも迎撃に参加。少しでも意識を目の前に向けて、右腕の動きを減らして蹴りを多用する。

(手数が足りない……!)

 腕に比べて振り回しにくい足を多用してから、少しずつ均衡が崩れていくのが分かる。

 大量のネズミを捌き切れない。

(仕方がないか……!)「下がって!!」

 鋭く叫んでから大きく息を吸う。

 セナが後ろに大きく下がったのを確認して、


 私の“狼”を込めて叫んだ。

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