第8話
「……ここですね、此処で何回か足踏みしてます。」
「分かった」
次の日、鼻につくニオイを辿って、教会の敷地内に生えていた一本の木に誘導する。
騎士さまは持っていた縄に輪を作って腕に引っかけて両手を開けると、その木の下を掘り始めた。
「あった、これか」
「なぜこんなところに居るのです!」
騎士の言葉を消し去るような叫び声と共に茶色髪のシスターがやって来た。
「まさか教会騎士ともあろう方が魔族とグルだったなんて!」
「昨日も言った通りだ」
騎士さまが反論した。
「彼女は捜査の協力をしているのみ、共謀の事実はない!」
「ではその箱は!?」
シスターがヒステリックに叫ぶ
「その箱を、人狼が掘り出していたではありませんか」
「私は掘ってないよ」
その言葉には私が反論する。
「いいえ!掘り出しました!」
その言葉を遮るようにシスターが叫ぶ。
「すぐに他の騎士を呼んで」
その時、都合よく風が吹いて私の外套をはためかせ、
背中で組んだ状態で縛られた私の腕をさらけ出した。
「シスターさん、教えてよ」
驚愕するシスターに追撃するように質問した。
「どうやったら、後ろ手に縛られながら、地面に埋まった箱を掘り出せるの?」
「こいつは厳重注意の勾留者に行う縛り、かなり特殊なものでな。」
騎士が取り出した箱を持ちながら私の肩を叩く
「ちょっとやそっとじゃほどけない。その代わり少し時間がかかるから、牢から出す前に施すんだ。……当然、『掘り出してから縛った』は通じない」
「で……では、何故場所が分かったのです。」
シスターが反撃する。
「そのネックレスが埋まっている場所が分かるのは、埋めた者だけでしょう!」
「つまりアンタは知ってるんだな?」
騎士はその言葉を逃さなかった。
「この箱の中身がネックレスだって、アンタは知ってるんだな?」
「っ!?」
「腐卵石っつってな」
しまった、という顔をするシスターを囲むように、錬金術師が物陰から表れた。
「火山でとれる火薬の材料なんだが、名前の通り腐卵臭……つまり腐った卵みたいな匂いがする。
昨日倉庫に入った盗人に投げつけておいた。俺たち人間には感じないような量のニオイでも。ルルカさんの鼻なら分かるんだよ。」
「なるほどねぇ」
包囲の穴を埋めるように、剣士が参加する。
「夜の教会は内外に通行できない閉鎖状態。だから盗んだ物を隠す場所が必要だったんだ。どの木の根元に埋めたかで覚えてたんだね。
……銀剣の方も、現物も鋳潰して作った大量の銀も市場に出てないみたいだし、そこらへんの木の下にまだ埋まってるのかな?」
「そんなこと……私はただ……」
「じゃあなんでこんなとこ来たの?」
シスターの言葉を剣士が封殺する。
「ここ、朝の習慣のコースから外れてるってメディちゃんに聞いたけど?」
「そ、そんなの私の勝手でしょう!」
「……ねえ、ちょっといい?」
遠めに人が増えてきたのを見て、私は気になっていたことをぶっこんだ
「何で貴女のブーツからふらん臭がするの?」
「っ!?」
シスターアリサが体をこわばらせる
「何かの間違いではなくて?」
「いや……」
私は地面に膝をつくと、ブーツに鼻を近づけた。
「間違いない、さっきまで地面からしてたニオイが靴からしてる。」
「みっともないことするな」
騎士さまに縄を引っ張り上げられて、うぁわ、って変な音を喉から出しながら立ち上がる。
「服は着替えられたが、靴はスペアが無かったか。」
「そうですわね、服は三着、靴は一つ。申請が無ければそれだけです。」
そういって会話に入ってきたのは、黒い髪を長く伸ばしたシスターだった。
「話は聞かせてもらいました。……シスターアリサ。人を陥れるために罪を犯し、擦り付けるなど。何を考えているのかしら?」
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