第7話

「……ずっと気ぃ張ってんの疲れるね」

「静かにしろ」

 静寂に耐えられなくて飛び出した言葉をデヴィン君が封殺した。

 月が頂天に達するころ、私たちは昼間来た教会の倉庫……の隣にある部屋に潜んでいる。

「足音を聞き逃したらアウトだぞ。」

「ハイハイ、ルルカに顔向けできないようなことはしないよ。」

 そういって意識を耳に向ける。


 ……そうはいっても、暇なのは変わらないようで、

「……なぁ、セナさんはなんでルルカさんと仲良いんだ?」

 しびれを切らしたのは、デヴィン君の方だった。

「静かにしないとダメなんじゃないの?」

 私がそう言ってからかうと、少年はバツがわるそうにそっぽを向く。

「まぁ、いいか。聞き逃さない程度の声なら。


 ……簡単に言えば、私があの子を見つけたからだよ。」


 私はなつかしさに目を閉じる。

「私、交易商の娘だって話はしたよね。私、上にきょうだいが三人いるの。おかげで私の立場ってけっこうちゅうぶらりんでさ。

家は上の兄が継ぐし、下の兄は交渉の達人で家をさらに大きくしてる。姉は成人してすぐ結婚して家出てっちゃったし。」

「成人してすぐ!?」

 デヴィン君が驚きの声を上げて、すぐに声を潜めた。

「早くね……?」

「そんなもんだよ。家がでかいと」

 私は続ける。

「まぁ、私はそれがいやだったんだけど。

……昔っから自由が欲しくてさ、家の娘としてふさわしくない人間になれば、お父様も結婚話なんて持ってこないと思ったの。習い事ほっぽり出して遊びまわったよ。

で、その時に、手負いの人狼の子供を見つけたんだ。」

「……それが、ルルカさんか。」

「そ。秘密基地に匿って、薬草とか食料とかかき集めて、話をしたり聞いたりして。いつの間にか親友って呼べる間柄になっちゃって、一緒に便利屋ギルドに入っちゃって。」

「何で、匿おうって思ったんだ?人狼ってすぐに分かったんなら夜のことだろ。」

「そりゃぁ……キレイな」

           コッ コッ コッ コッ

 規則的な革靴の音に私たちの意識は引き戻された。

「来たかっ!」

「待って……」

 すぐに構えるデヴィン君に答えるように静かにドアを少し開けて覗く。

 手にランプを持っているのだろう人影が隣の部屋のドアに入っていった。

「入った!」

「よし」

 すぐに隣のドアの前まで移動する。足音がしないように慎重に。

 しばらくして、ドアが開かれて目の前に迫ってくる。


 その手にランタンに照らされたネックレスが握られているを確認して。


「確保っ!」

 私は持ってたを投げつけた。

 人影は私たちに驚いて固まり、その間に袋が体にぶつかって破けて中身の粉を散らす。

 後ろのデヴィン君の追加投擲が足にぶつかり、たまらず人影が逃げ出した。

 それを見てすぐに走り出す。人影が持つランタンの明りを頼りに追いかけるが、建物を出たあたりでその姿を見失った。

「くっそ、どこ行った!」

「こっちが明りで追いかけてたのに気づいてランタン消したな?」

 周囲を見渡しても闇しかない状態で、私たちはそれぞれに吐き捨てる。

「まぁ、次善策は成功したし、後はルルカにお任せかな。」

「上手く行くかは賭けだけどな」


 作戦の成功を親友に託しながら、私たちはうっすらと明るくなり始めた空を眺めていた。

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