第6話

「騎士さん」

 犯人の工作を知ったデヴィンが聞いた。

「今日ルルカさんを連れてくるのを知ってるやつは?」

「……ルルカ殿を連れていく都合、騎士団には申請をしている。」

 ニグヘットが言う。

「あとは、お前らとギルドの依頼書周り、教会の者の一部か……」

「教会は、今日の朝には全員知っていました……」

 騎士の呟きにメディが返した。

「朝にルルカさんが来ると皆さんに連絡があってから、私以外人が来ないようになっています。……なので、朝からは誰も来ていないはずです。」

「では仕掛けたのは昨日の夜までの間か。」

「シスターちゃん、これ?」

 騎士が呟くのとほぼ同時にそういってセナが焦げた欠片を拾い上げる。欠片から、先ほども嗅いだ匂いがした。

「そうですね……お香の燃えかすです。」

 セナが摘まんだものを見たメディが言った。

「部屋の中で炊いたのでしょうか……」

「盗まれた物に下から浴びせる形でね。」

 そういって欠片……お香の燃えかすを見つけた棚を叩く。ちょうど私の前、銀の剣が入っていた箱の下だった。

「つまり確信犯、お香が儀式に使う特別な物なら、やったのは教会関係者で決まりじゃない?」

 そういって首を傾げるセナがメディを見る。

 信じたくないというように目を潤ませたメディが、小さく頷いた。

「……辛いでしょうね」

 そのまま泣き出しそうになるシスターの背中を騎士が撫でる。私たちと話す時とは違う、優しい口調で言った。

「出来れば、シスターひとりひとりにアリバイを聞きたいですが……」

「あんまり意味はないかもね」

 剣士が割り切ったような声で割り込んだ。

「“知らなかった”って言って終わりでしょ。」

「……そうだろうな。」

 騎士は否定できなかった。

「やはり捕らえるなら現行犯か」

「昨日の夜に、此処に見張りは立ててたのか?」

 錬金術師が言った。

「立ててたなら、そいつから話を聞きたい。どのタイミングで誰が仕掛けたのかわかるかもしれない。」

「立っていたはいたのですが……」

 メディは気まずそうに目をそらしながら言った


「シスターアリサと縁がある方だったので……」

「……つまり、過激派ということですね?」

 メディが上げた名前に、騎士が反応する。

魔族ルルカ殿の助けとなるような調査には協力しない可能性があると」


「……はい」

「めぇんどくさぁいなぁ!!」

 申し訳なさそうに首を振るシスターと、その裏にある教会の事情にセナの怒りがついに噴出した。

「どいつもこいつも事件にかこつけて自分のことばっかり!調査が進まないでしょうが!!」

「どぅどぅ」

「結局、疑いを晴らすにゃぁ現行犯か、決定的な証拠が必要か」

 セナをなだめている隣で、デヴィンが言った。

「一番簡単なのは張り込みか?もう一回入るのを見計らって……」

「もう一度入るものでもないだろう」

 その提案をニグヘットが否定する

「我々がこうやって調査に入ったことは知られているだろうし、盗人が同じ場所に入るとは思えんぞ。」

。」

 デヴィンが返した。

「金目当てなら、そもそも騎士が常駐するうえ、自分がいる教会になんざ入らない。教会は夜には内外閉鎖、その状態で容疑に上がるのは関係者になるからな。

そうじゃなくても銀の剣だけじゃなくて、別の棚の装身具も持ち出すだろう。そこらへんも銀製で、小さくて多くて分かりづらいからな。」

 そういってデヴィンがさっきまで調べてた棚を指さした。

「にもかかわらず、そこらへんには手を付けられていなかった。一式揃ってたよ。


つまり、これは“置き場所を知ってるやつ”が、“分かりやすくインパクトのある道具”を紛失させることが目的に行った犯行だ。」


「何でそんなことを……」

「……私に罪を着せるため、とか?」

 呟くシスターの声に、私が答えた

「手負いとはいえ魔族が教会に居るときに盗みが起きれば、その魔族が疑われるよね。」

「なぁるほどね、騎士様の判断が正解だったてこと。」

 セナが、結論を言った。

「そんで、また魔族が入った日に盗みがあったなんて言ったら、穏健派も穏やかじゃいられなくなるかもってわけね。」

「そういうこと」

 デヴィンが続けた。

「だからこそ今夜、待ち伏せてとっ捕まえる。もしできなくても……」

 そこまで行ってから、デヴィンが私を見た。

「ルルカさんの鼻があれば、上手く行くかもしれん策も思いついた。


 ……また一緒に火山に登ってくれよ?今度はルルカさんも一緒に。」

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