第5話
「こちらです。」
シスターメディの案内で開いた扉の先には、どうやら倉庫のような場所だった。
「こちらで保管されていた、儀礼用の飾り剣が盗まれました」
「飾り剣?」
「祭典とかで奉納の舞に使う用の、刃を潰してある銀剣だな。」
セナの疑問にデヴィンが細くした。
「武器としては役に立たないが、材料のほとんどが銀だ。
……鋳潰せば結構な量になる。」
「なるほどね。」
セナは納得したように腕を組んだ。
「銀は銀ってだけで高値が付くもんね。そりゃ盗まれもするか。」
「はい、なのでこの倉庫は普段鍵が掛けられているんですが……」
そう言ったシスターの視線がドアの一か所に落ちる。釣られてみてみれば、パドロックを通すための金具がへし折れていた。
「このありさまで……納めていた箱の鍵も同じように壊されていたんです。」
「コレがその箱ですね。」
ニグヘットが私を引き連れて一つの箱に近づいた。
箱にもパドロックを通す金具が付いていたようだが、箱から剥がされるように壊されて意味がなくなっている。
騎士が箱を押し開けると、剣のような窪みを残した赤い布が敷かれていた。
「最初に見つけたのは誰ですか?」
「鍵当番の方です」
騎士の質問にシスターが答えてる間に箱の中に鼻を近づける。左手の鎖は“相”までは封じれないみたいで、私の鼻は健在だった。
「日に二回、戸締りをするようになっていて……あの、一体何を……?」
「あ、ごめん。ニオイを調べてた」
さすがに目についたのか、シスターさんに訊ねられたので左手の鎖を見せて返した。
「この鎖、私の鼻までは抑えられないみたいだから、盗んだ奴のニオイが残ってたら後を辿れば一発だし。」
「そういうことね」
言いながらセナが近づいてきた。
「それで、何か分かった?」
「なんか煙っぽいニオイがする」
私は率直に返した。
「あれ、アロマ焚いてる家とかで嗅ぐニオイ」
「アロマ、ね……」
デヴィンが他の場所を調べながら言った。
「教会には似合わねぇな。その手の物は禁止してるだろ。」
「じゃあ良い手がかりじゃない?」
セナが機嫌よく言った。
「使う人が限られた特徴的な匂いってことでしょ?」
「確かにな」
「ちょっと待って……」
続けていったニグヘットの言葉を受けて目を閉じて鼻に集中する
そのままもう一度嗅いで、同じニオイを辿るように動く。
ニオイの大本はすぐ近くから見つかった、生き物のニオイもするから間違いない。
「……っ!」
ニオイの大本を向きながら目を開く、そこには
白金髪に赤目のシスター……メディがいた。
「あの……どうしましたか?」
「同じニオイだ……」
困惑するシスターに向けていった。
「シスターさんから箱と同じニオイがする……!」
「は?」
「っ待て!!」
「……へぇ?」
三人が三様の反応でシスターを見る。
「つまり、何だ、シスターさんが盗んだ奴と同じアロマを使ってるってこと?」
一瞬呆気に取られた錬金術師が確認する。
「ありえないだろう!彼女はお前の看病をしていたんだぞ!」
制止をかけた騎士が否定する。
「でも、ずっといたってわけじゃあないんだよねぇ……」
鋭い視線を投げる剣士が剣を抜き始めた。
「え、えっと……あっ!」
急に殺意を向けられたシスターが困惑しながらも言った。
「もしかしたらっ儀式のお香かもしれません!」
「教会では聖句の力を高める為や、より強い聖物……聖句を受けた道具ですね、を作るために、特別なお香を焚いた部屋に籠るんです。先ほど、その作業をしていたので、その時の香りが残っているのだと……」
「ってことは、その作業やってたやつなら同じ匂いってわけか。」
錬金術師の言葉にシスターが頷いたのを見て、彼は続けた。
「んじゃぁ話は早ぇな。盗まれた日に、その作業やってたやつだろ」
「それが……」
デヴィンの言葉に、メディが顔を俯かせる。
「その日、その作業を行う部屋の清掃を行っていて……私たちも身を清めていたので、誰もその香を使っていないはずなんです。」
「……っていうかいまさらなんだけど」
ふと思いついたというようにセナが言った。
「数日前のお香のニオイが、しっかり残ってるっておかしくない?」
「……言われてみれば」
確かにおかしい。と私は続ける。
「しっかり嗅がないといけないくらいかすかに残ってる、ならともかく。一嗅ぎ目に鼻につくのはおかしいかも……?」
「……ということは」
ニグヘットが結論付けた
「このお香のニオイは、誰かが捜査をかく乱するために付けた。偽装工作ということだな。
こちらがルルカ殿を使うことを想定したうえで。」
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