第4話

「皆さ~ん、こちらで~す。」

 私たちを乗せた馬車が教会にたどり着いた時、手を大きく振って出迎えてくれたのは白金髪に赤目のシスターだった。

「すいません、こちらの事情でお手を煩わせてしまい……」

「貴方が悪いわけではないでしょう!」

 ニグヘットが右手を振りながら否定する。

「それに、貴女の問題を解決するのが私の役目ですから!」

「“帝都の教会貴女がたの”で、“教会騎士団私たちの”でしょ」

「すごい個人的だったな」

「うっうるさい!」

「ふふふ……あ、そうでした。」

 セナとデヴィンの茶化しに顔を赤くしたニグヘットの様子に笑ったシスター……メディは、思い出したように懐から小さな鎖のようなものを取り出して言った。

「ルルカさん、こちらをお付けさせてください、魔獣用の“魔”を封印する道具です。一時的にですが、狼の“魔”を押さえつけます。何の用意もなく、健康な魔族が教会に入るのは問題になりますので……」

 そういって鎖を縄の巻かれていない私の左手に巻き付ける。金具のパチリという音と共にほんの少し息苦しくなったような気がした。

「あの、ど、どうでしょうか?」

「どうって言われても……」

 おどおどと確かめるように見るシスターに、感覚的にはそこまで変わらないことを伝えつつ。確かめるために大きく息を吸った


「あぉおおおおん!

 ……うん、しっかり働いてるみたい」

 試しに“狼”を籠めて叫ぼうとしたら全然籠めることが出来なかった



「うん、街中で恐慌咆哮プレデターロア使おうとすんな」

「心臓飛び出るからやめてホントに」

「擁護できなくなるだろうが」

 何時の間にか耳を塞いでしゃがんでいた三人に三者三様に怒られた





「あら?なんでこんなところに咎人がいるんです?」

 教会前で騒いでいると、教会の方からそんな声がやって来た。

 声の主は、地下牢であった茶髪のシスターだった。

「もしかして罪をお認めに?」

「現場検証だ。」

 声を鋭くした騎士さまが向き合って返した。

「容疑者の情報の元、現場を確認する。前から行っていることだ。責任者から許可も得ている。」

「そのようなことをしているから魔族を取り逃がすのではなくて?」

 シスターは鼻を鳴らした。

「仲間まで呼ばせるなんて失態ではないかしら。」

「……仲間って私たちのこと?」

「心外だな」

 目線で刺されたセナとデヴィンが言った。

「俺達はギルドからの正式な依頼を受けている。」

「そうそ、だからさ……」

 全員の視線がお互いに向いた中で、ゆっくりと騎士さまから逃げるように距離を取る。


 瞬間、反転したソードマンが一歩で詰め寄り私の首筋に剣をあてがった

「コレ仕事だからさ、感情抜きでやるよ。」

 始めて感じる本気の殺気に、思わず息を呑む。

「動かないでね。このまま首チョンパされたくなかったら」

「今のお前なら」

 その後ろから突き刺すような視線でガンナーが銃を構える、引き金に指がかかっていた。

「頭にぶちこみゃ殺せんだろ。」

 二種類の殺気を同時に当てられて動けない私の右腕に巻かれた縄を教会騎士が強引に引き上げる。

「むやみに動くな、人狼。」

「……ハイ」

 引き上げられた右手と同じ高さに左手を上げてうなだれる。

 それを見ていた茶髪のシスターが、信じられないというように顔を青くして、それでもいい気味と言わんばかりのせせら笑いを無理に浮かべて去っていった。



「……んじゃあ調査しよっか」

 その姿が見えなくなったのを確認したセナが、剣と殺気を引っ込めて歩き出した。

「あの様子じゃジャマはしてこねぇだろ」

 同じく引き金の指と視線を外したデヴィンが言う。

「……生きた心地がしなかった。」

 騎士が歩き出すのに合わせる私の顔はさっきから、たぶん今も青ざめっぱなしだ。

「デヴィンがあんな殺気で突き刺してくるなんて……かざんで何があったの?」

「お前俺のことどう思ってんだ。」

「~~、~、~~♪」

 私の発言をセナは下手な口笛で誤魔化した


(あ、これボコボコにしたな。)

 言ったら私がボコボコにされそうだから心の中に留め置いた。

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