第3話

数日後、私は騎士団の馬車(逃亡防止用の改造を施した連行用らしい)に揺られて、ギルドへと向かった。

「あ、帰って来た」

ニグヘットに背中を押される形で店に入れば、有無を言わさず引っ張られていったのを見ていた受付のお姉さんが出迎えた。


「騎士様もおそろいで、蜜月ですか?」


誰かが口笛を吹いた音がした。


「いや連行」


誰かが飲み物を吹いた音がした。


「すまないが、奥の個室を使いたい。」

苦笑いを隠してニグヘットが受付に伝えた。

「それと、セナ・ニングトラード殿が戻っていれば、個室に来るように伝えてくれ。」

「わかりました」

私が羽織った外套マントの下で両手をずっと前に持ってきていたので察してはいたのか、受付はすぐにカウンターの下から鍵を出した。

「こちら、個室の鍵です。セナさんも戻ってきてるので、すぐにお呼びしますね。」



便利屋ギルドには、密談用の個室が存在している。

中にテーブルと椅子、それと光源用のランプしかない小さな部屋は、部屋の外に音が漏れ聞こえないよう、錬金術で細工を施しているらしい。

その一室に入ったニグヘットは、ランプに火を入れて私を椅子に座らせ、自身はドアの前に仁王立ちしている。

「……座らなくていいんですか?」

テーブルの上に置いた両手……正確にはその手首を纏めるを見ていった。

「あと、これってまだ外してもらえませんか?」

「どちらもできない」

騎士は申し訳なさそうに言った。

「『拘留中の人間を移動させるときは両手を縛るか、片手を締めた縄尻を騎士が握る』、『部屋で待たせるときはその出入口を騎士がふさぐ』。そういう規則なんだ、移動の隙に逃げ出すやつが多くてな。」

「出さなければいいのでは……」

「そうもいってられない事情があるのだ……っと」

自分のことを棚に上げて言っていると。ドアが4回ノックされた。

「セナです。受付さんに呼ばれてきたんですけど」

騎士さんがドアを開けると、そこから覗く親友の顔が喜色満面の笑顔になって突っ込んできた。

「ってルルカ~~っ!心配したんだよ!?騎士に連れてかれたっていうからさ~何かあったんじゃないかって!」

「まぁ何かはあったよ。」

勢いのまま抱き着いてきた親友を抱きしめ返せないのをもどかしく思いながらも、今の身分を伝えた。

「いまは騎士団のところで寝泊まりしてる、地下牢だけど。」

「騎士団の地下牢ってことは、なんかの事件の犯人ってことっすよね」

続いて入ってきた錬金術が言った。

「なにやらかしたんですかそいつ」

「それについての話があるんだ。」

ニグヘットが言った。

「貴方たちに事件の調査と彼女の護衛を頼みたい。」



「騎士さん、馬車裏に回せってクレーム来てたから御者さんに伝えといたよ」

「あぁ、すまん。搬送用馬車は物々しすぎていかんな」

「いえいえ、それにしても教会の中で盗難騒ぎね」

全員分の飲み物を貰って来たセナが、先ほどまで聞いていた話に納得がいかないと唸る。

「『その時に教会に居た』ってだけでルルカを処刑しろ殺せって言ってくるのはひどくない?」

「過激派の連中ならやるだろうけどな。」

教会の事情を良く知る少年が言った。

魔族は積極的に排除しろ殺せが基本な奴らだ。民証あの札を見せても止まらないと思うぞ。」

「そのための依頼だ。……っと来たか」

ニグヘットの言葉と共にノックされた扉を彼が開く。

その先に居た騎士――馬車の御者役が持ってきた羊皮紙を受け取ると、扉番を交代してテーブルにそれを広げた。

「正式に依頼にしてもらった。現場検証時の警護および容疑者の逃走や反抗の鎮圧。という名目でのルルカ殿の護衛だ。」

「どれどれ……」

そういって二人がテーブルに身を乗り出して覗き込む。私も同じように内容を見てみた。

「……報酬、多くないか?」

「相場より5割高いね。」

デヴィンの言葉にセナが答える。

「しかも一人当たりの額だ、二人だと大体三人分になるね?」

「まぁ、そういうことだ。」

セナが二ヤリと笑うと、騎士さまが肩を竦めていった。

「それで、受けてくれるのか。」


「「もちろん」」

私の友人たちはすぐに答えてくれた。

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