第9話

「……皆さん、おはようございます。」

「あ、シスターさん。おはよう、彼女は?」

「彼女はシスターシエラ」

 黒髪のシスターに遅れて私たちにに近寄って来たメディに挨拶ついでに質問すると、彼女はすぐに答えてくれた。

「シスターたちのとりまとめ役をしている方です。私たちの上官にのような方ですね。」

「確かに、神の聖句は魔族に特攻を持ちえます」

 シスターシエラが腕を組んだまま説教する。

「ですがそれは、魔族を陥れてよい理由にはなりません!かつて我々と領土を争いあったとしてもです。貴女の持つ聖典には、そう書いてあったのですか!」

「……られた」

「聞いているんですかシスターアリサ!っ!?」

 俯いていたアリサがゆっくりと顔を上げる、


 と思えばすぐに服のスリットから何かを引き抜いて私に突き出してきた


「っ!早っ……」

 反射的に顔をそらして躱す。

 突き出されたのは杭にも似た先端を持った棒のような剣だった。

(あ、まずっ……!)

 一瞬行った観察の間に、シスターが剣を引き戻して再度構えに入っていた。

 刃先の向きがさっきより低い、おそらく胴狙い。

 距離が近すぎて、さっきと同じ速度で飛んでくると回避が間に合わない。

 両手は後ろ手で縛られてるから、殴って逸らすのもできない。

 蹴りなら逸らせるけど、足を戻してる間に次が来る。

 避けれないっ

 つまり、

(詰んだっ……)

「危ないっ!」

 一瞬諦めかけた命を白金色の髪が押し倒した。

「あうっ……怪我はありませんか?」

「大丈夫……シスターさん背中から血がっ!」

「アハハ……掠っちゃいました……」

 黒い服を自分の血で朱く汚しながら彼女は笑う。

 その苦しそうな目と額の汗が、掠った程度の傷じゃない事を物語っている。

「メディさん!」

「おらぁ!」

 デヴィン君が駆け寄ってくるのと同時に放たれた三撃目を、セナが鞘付きの剣で思いっきり切り上げた

刺突剣エストックなんてものあんなスピードで連打できるの、神兵くらいしかいないでしょ!」

 続く四撃目を撃ち落し、そのまま手首を強かに打ち付けて取り落とさせた

「教会の武力集団が、教会内で武器振り回していいの?」

「主はおっしゃられました」

 シスターアリサがやたら素早い動きで自身の獲物を確保して構えた。


「仇なすものを討てとおっしゃられました狼を殺せとおっしゃられました私にしかできないとおっしゃられました騎士を使えとおっしゃられました法を使えとおっしゃられました武器を使えとおっしゃられました命を使えとおっしゃられました立場を使えとおっしゃられました名誉を使えとおっしゃられましたつかいはたせとおっしゃられましたわがあるじはおっしゃられました」


「なんだ今の動き……」

 デヴィンがメディの傷を治療しながら叫んだ。

「はやく止めたほうが良い!そいつの目、イってやがる!」

「アンタの主がおっしゃってるの?」

 刺突剣をいなして鍔迫り合いに持ち込んだセナが言った。

「ほんとに、神様がそんなこといってるわけ!?」

「わがあるじはおっしゃられましたわがあるじはおっしゃられました」

 正気を無くしたシスターが叫んだ。


「わがあるじがおっしゃられました!!!!」



「あぁ、ハイハイ“御狐様”ね」

 その言葉を聞いたセナが、鞘に入ったままをシスターの頭に向かって横薙ぎに切り払った。

「めんどくさい魔族が出ちゃったよ。」

 殴り飛ばされたシスターがピクピクと痙攣した後、糸が切れたかのように気絶した。

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