第7話
それは、再突入の前、デヴィンが海水を採ってほしいと言ってからのこと。
「……あれ、何その鍋」
「セナさんの荷物に入ってたぞ」
「出先で煮込み料理でも作ろうとしてたの?相変わらずだなぁセナは」
水袋に海水を採って上がると、休憩小屋の横でデヴィンが焚き火を起こしていた。
その傍らに置いてあった小さな鍋に海水を流し込む。
「これでいい?」
「……もうちょっと欲しい。」
水袋の中身をすべて入れた鍋をデヴィンに手渡すと、焚き火に照らされたソレを見ていった。
「分かった」
短く行ってまた崖下に降りる。誰が作ったのか、崖に沿うように作られた坂道を下って波にさらされた岩場へたどり着く。
内側まで塩塗れになってしまい買い直しが決定した水袋を海水でパンパンにして、坂道を上がる。
少年が鍋を焚き火にかけて海水を煮込んでいた。
「持ってきたよ。」
木匙で海水をかき回す少年に話しかける。
「それで塩が出来るの?」
「あぁ、錬金術じゃぁ塩ってのは海水を煮詰めて作るもんだからな」
水袋を受け取った少年はそういった。
「ちょっと話しかけないでくれ、作ってる時から聖句を与えて長時間持つようにする。」
そう言って何かーーたぶん聖句ーーを呟きだした少年を横目に、周囲の警戒を始めた。
(“聖句を受けやすい材料ってのがある。例えば銀)
落ちる月を眺めながら、デヴィンが言っていたことを思い出す。
(だから教会の退魔部隊が使う武器には銀の装飾がされている。その銀で聖句を受けて武器そのものに浸透させるために。
……その受けやすい材料の中に塩がある。だから、その塩を作ってに聖句を与えて魔族特攻の道具にする”
……か。
“教区じゃ聖句を一つは覚えさせられる”だっけ。
錬金術と聖句を両方知ってる、デヴィンならではの攻略法だ。)
「ルルカ!デヴィン君!大丈夫だっ……
殴り倒してるぅ!!?」
ガチャガチャという鎧の音と同時に戻って来たセナが、その光景を見て叫ぶ。
まぁ、それもそうだろう。
ギルドに情報を伝えてすぐに、教会の騎士とシスターを連れて戻ってきたら、残してきた二人が再度水道に突入してて。
道中に残ったネズミの死体を追いながら追いついたら、
その二人が件の吸血鬼を文字通り
「セナ、お帰り。相と
「勝てたって……聖別された武器もないのにどうやって……」
「これ。」
私が話しかけても混乱しっぱなしのセナに袋を掲げて見せる。
「水袋に石つめて振り回した。時々やる手だよね。」
「確かにやるけど……それにしたってコイツは……」
その袋をまじまじと見たセナが、それに気づいた。
「ルルカ、なにこれ……なんかまぶしてある?」
「教区出身錬金術師御謹製聖句付きの塩」
「塩ぉっ!?」
「では、休憩所前の惨状は塩の生成跡ということだな。」
鎧音が錬金術師に話しかけた。
「焚き火の始末もせず、ひどい有様になっていたが。」
「あんたは、騎士か」
錬金術師が答えた。
「わりぃ……時間ねぇと思って、出来てすぐに何も片付けしねえで突っ込んじまった。」
「最低でも火の始末程度はした方がいいぞ、少年。」
鎧音……狼男騒ぎの時の勘違い暴走教会騎士が呆れた顔で言った。
「吸血鬼はこちらで引き取ろう。そちらの方……ルルカといったか、貴女もよろしいか……ルルカ?」
「あ、はい、人狼のルルカ。お久しぶりです。狼男の件ではどうも。」
言いながら民証を首から引っ張り出す。
「吸血鬼の身柄も大丈夫です。持ってっちゃってください。」
「あ、あぁ……」
夜の私しか知らない騎士さまが、動揺しながらも吸血鬼を拘束した。
「とりあえず……こいつの計画を洗いざらい吐き出してもらうところからだな。」
「すいません、確認だけさせてください。」
控え目にやって来たシスターに民証を渡して確認してもらうと、シスターが続けていった。
「この部屋が、吸血鬼の根城、ですか?」
「たぶん」
私が吸血鬼を指さして言った。
「部屋の前でやりあったから、資料とか道具とか、コイツが捨ててなければ全部残ってるはず。」
「んじゃあちゃちゃっと漁りますか。」
すっかり緊張を解したセナが言った。
「ルルカ。ネズミ狩りお願い」
「何で私だけっ!?」
「だってルルカ居てもわかんないじゃん。」
セナの唐突な仲間外れについつい反対すると、向こうからカウンター気味に抉ってきた。
「だったらその間に吸血鬼の影響下だったネズミをつぶしててほしいなって。
それとも、魔族の共通文字とかあったら読める?」
「
「そういうこと、それじゃあお願い!」
「ハァ……デヴィン。ランタンの火貸して、松明つけるから。」
「お、おう……」
その後めちゃくちゃネズミ駆除した。
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