第2話

「……なつかし」

私の始まりが夢に出て、私の目は覚めてしまった。

「ってまだ夜じゃん。」

思わず目に向かった手がまだ狼のそれであったことで、よく見れば視界の色も薄いままだったことに気付いた。

「ルルカ、居る~?」

「あ、は~い。今開けるね」

すっかり目を覚ましてしまって、日の出までどうしようか考えている時に響いた、

コンコンコンというドアのノック音につられて私はドアを開けた。

思えば、この時にもっと考えればよかった。


何でセナが、夜中にやって来たのか


「どうしたのセナ?」



ミツケタ」




セナがそう呟いたと思った途端、腰の剣を抜き放ち突き出してきた。

「っ!?」

思わず両手でガードする。

毛皮で防いだ突きは、その勢いのまま私を壁まで押しこんだ。

「げほっ……ちょっとセナ!どうしたの!」

「あの人が言ってたんだよ……」

突然の衝撃に咳き込む私の抗議に、セナが剣を構えながら答えた

「“狼は殺せ”って!!」

二度目の突きが私を襲う、ギリギリのところで身をそらして避ける。

(ドアはセナの後ろ、狭い室内じゃただでさえ体の大きいじゃセナの剣を避けて抜けれない)

「ックソ!」

悪態をつきながら窓へ飛び込む。

二階から外へ身を投げ出し、空中で姿勢を整え前足から着地。

すぐに前に駆けだせば背中の方から地面を突き刺しながら剣士が落ちてきた。

「ちっ……」

「セナ!あの人って誰のこと!?」

「あの人はあの人だよ!」

舌打ちをするセナに叫ぶがあまり意味もなく、セナが走り出したのを見てすぐに私も駆け出した。


夜であれば私の方が速い。

路地を縫うように駆け抜けて撒こうとする。

街の地図ならセナの方が詳しい。

先回りしようとするのを察知してギリギリで避けていく。


「……っこのニオイは!」

走る路地の先で明かりが見えた。その明かりの主をニオイで判断して、向かっていく。

「デヴィン!」

錬金術に使うであろう色んな薬品のニオイは、デヴィンのもので間違いなかった。

「助けて!セナの様子が……」

デヴィンがランタンを腰に付けたまま銃を私に向けていて。

その銃口を聖句の光が満たしていた。

「ッ!!」

その光に気付いた私が体をひねるのと同時に、バァン!という爆発音とともに私の脇腹に激痛が走る。

「痛゛っ……!デヴィン、どういうこと!?」

「俺は全ての魔族を殺す」

血の流れる脇腹を抑えてデヴィンに叫ぶ。デヴィンはやけに静かな声で答えた。

「まずはお前からだ、狼め」

「ッ!!」

二射目が来る前に建物の影に入り込む。弓と同じような武器なら、視界から消えれば当たらないはず。

(なんでっ?なんでっ!?なんでっ!!)

熱を持つ脇腹を抑えながら走る間も、わたしの頭は整理が出来ていなかった。


何でセナがいきなり襲撃してきたのか

何でデヴィンが有無を言わさず攻撃するのか。

わたしには何一つ分からないまま、がむしゃらに駆け抜けた。


少し大きな通りに出たあたりで。馬車の車輪の音が響いた。

目の前を横切る音は、鉄の装甲で固められた馬車からの音だった。

その馬車から、金属の鎧で武装したニグヘットが現れる。

「騎士さま……」

知人を見つけた安堵の他に、私は少しの不安を抱えていた。

彼も、セナやデヴィンと同じように……


「見つけたぞ、狼!」

剣を構える騎士を見て、その不安が本当であると確信してしまった。

「……ッ!!」

叫びだしそうな喉を押し殺して、私は駆け出した。

騎士さまが突っ込んでくる方へと。


そのまま横薙ぎに振るわれる騎士さまの剣を


飛び越え、馬車を踏み台にして大きく飛び上がった。

「―――ッ!!」

着地と同時に振り向いて、涙声のまま叫ぶ



―――ア゛オ゛ォォォォォ!!―――



恐慌咆哮プレデターロアを叩きつけて動きを止めると。そのまま市街地から走り去った。

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