4ー5

AM 1:45 天神山


 フェルグスとの激しい戦いを終え、その反動で髪が非常に伸びた私は、血だらけの体を歩かせながらメイヴに近づく。

 最大の部下であり、転生前からの愛人であるフェルグスを殺されたことで、動揺を隠せていないようだ。


「な、何よ!? フェルグス、起きなさい!! フェルグス!!」


「もう起きないぞ? 死んでるんだ。お前がどう言おうと、その事実は変わらん」


 メイヴは、私の事を睨みながら私を見る。先程までの余裕はもう無く、ただ死を待つのみであった。

 それもそうだ、彼女が用意した咎人の群れは壊滅し、転移者の少年たちも、フェルグスとフェルディアと言った勇敢な戦士の転生者もいない。

 残るは自分だけ。それも、転生前よりも屈辱的な状況下だ。


「お前の敗因はただ一つだ。それは単純、お前は。確かに、お前が生きた時代では、あのような物量で敵陣を落とせただろう。だが、この時代じゃそれだけでは勝てるはずがない。

 どんな大軍が来ようと、この時代の人間は距離が離れようとも連携が取れるんだ。それも迅速にな。

 当然なことだ。自分に過信した結果、お前は時代に沿わない戦い方をした。それがお前の敗因だ」


「ふざけないで!! 私は何をしても完璧なのよ!! 時代が変わろうと、生まれ変わろうとその事実は変わらない!!」


「愚かだな。この状況でもわからんのか。お前の手札はもう尽きてたんだ。それでもまだ抗おうと言うなら容赦はしない。

 ここで貴様の首を取れば、それで済む話だ」


 メイヴは睨みつける。それも、プライドをめちゃくちゃにされた哀れな悪女のようだった。


「許さない! ここまでプライドをめちゃくちゃにされたのはあんたが初めてよ! クー・フーリンの時でさえ、こんなに感じたことなんてないわよ!!」


 メイヴが罵詈雑言をあげる中、私は異様に伸びた前髪によって視界が半分伏せがれながら、冷ややかな目でメイヴを見る。

 彼女にはもう、戦える為の戦力と、威厳はもうない。それでも抵抗する彼女を見て、私は哀れみを感じる他にないのだ。

 メイヴは、部下の持っていた剣を持ち、私に斬りかかる。メイヴが私を剣で刺そうとした。


「――――――――え?」


 その時だった。メイヴの胸に、真紅の刃が突き刺さす。彼女は、突然のことに驚き、自身の胸を見る。


「これは……ゲイボルグ?」


「まさか、美生か?」


 後ろから、黒いスーツを身に纏った白髪の魔術師が現れる。その正体は、美生だった。いや、正確には人格は『クー・フーリン』その人と言うべきか。

 どうやら、メイヴが私を刺そうとしたタイミングで、ゲイボルグを投げたそうだ。


「もう終わりよ、メイヴ。あんたはやりすぎたのよ」


「クー・フーリン……なの? どうして、ここに?」


「当然よ。あんたとの『未練』を断つ為よ。2000年近く、あんたとの戦いに未練があった。

 でも、もう充分よ。今となっては、深い哀れみを感じるだけよ」


 美生の言葉に、メイヴは激しく動揺する。


「どうして!? どうして、あなたは私の物になろうとしないの!? どうして!?」


「あんたが嫌なだけなのよ。私は、オイフェとは子を孕んだけど、あんたとは馬が合いそうにない。それに、我が強すぎるあんたじゃ、転生したところで、元の人格を奪ってまで転生したんでしょう?」


「そうよ! 私は、私は女王であり続けるのなら、どんな手でも使う! その為なら、元に肉体の自我なんて、知りもしないわ!」


 メイヴは醜く叫ぶが、私たちは哀れに思いそれをい届ける。すると、メイヴの体に異変が起きる


「ガハッ!! なに……これ……。何かに……蝕まれていく……!」


「ゲイボルグの呪いね。心臓を突き刺されると、絶対に死ぬ呪いが付与されるのよ」


 メイヴが徐々に生気を失っていく。ゲイボルグの呪いによる物だろう。


「絶対に……許さない……。恨んでやる……!」


「死が近いと言うのに、まだ抗おうとするとはな」


 メイヴは、睨みつけながらもがき苦しむ。そして、最期の言葉を放つ。


「あぁ……。これなら……チーズの角っこに当たって……死んだ方が良かったな……」


 そう呟き、彼女は死んでいった。どうやら、ゲイボルグの呪いが全身にまで及んだらしい。

 それを見届けた美生は、メイヴの遺体を死体袋に納め、担いでいく。


「その、ありがとう。あんたのおかげで、私の未練が晴れたわ」


「いや、私はなにもしていないよ。ただ、この街で好き勝手されるのが見てられなかった。ただそれだけさ」


 美生は、死体袋を担ぎながら、天神山を降りていく。


「後で、いつもの橋に来てよ。改めて礼をさせて貰うわ」


「わかった。後始末が終わってからいくよ」


 私は、美生と約束し、下山していく。彼女は先に降り姿を消し、私1人で下山する。

 駐車場まで降りると、車があった。


「姉さん、お疲れ様。って、また魔力を全開に使ったの?」


「あぁ。相当な強敵だったよ。おかげでここまで伸びてしまったよ」


「帰ったら、また切らないとね。邪魔くさいでしょう?」


「鬱陶しくて嫌になるよ。視界も隠されて見ずらいし」


 ラスティアが来るまで向かいに来たので、私は車で邸に帰る。

 こうして、『コノートの戦士』による問題は、これにて終焉となったのであった。



 ――――――――――――――――――


 AM 2:00 すすきの


『コノートの戦士』と魔術院との激戦が繰り広げていく中、少女はただ1人すすきのの街を彷徨っていた。


「2人ともどこ行ったのよ? スマホも繋がらないし、何やってるのよ」


 少女は、少年2人が来ないことに苛ついている。その2人が、もうすでに死んでいることも知らずに。


「ごきげんよう」っと亜空間から黒いドレスを身に纏い、仮面で素顔を隠した女性が、少女の前に現れる。


「残念なお知らせですわ。あなたのご友人2人は、先ほど死んでしまったそうよ」


「はぁ!? 何を言っているのよ!? 私たちは、『能力スキル』を持っているのよ!? 負けるはずないじゃない!?」


「そうね。でも、死んだことを事実よ? だって、魔力を感じないじゃない?」


『仮面の魔女』の言葉に、少女は驚愕する。


「う、嘘よ!! そんなの、ありえないわ!!」


「まぁ、あなたが知る由はないわ。貴方もう、死ぬんだから」


『仮面の魔女』は、ヒールの後を響かせながら、少女に近づく。そして、少女の体を捕まえ、着けていた仮面を取る。


「いい体ね。死なせるには惜しいわ」


「な、何をするの 誰か、助け――――――」


『仮面の魔女』は、少女に仮面をつける。すると、彼女の体から魔力が発し、少女は絶叫する。


「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


 少女の体は次第に人としての原型をなくしていく。そして、体から顔と髪が消え、人の形をした人形へと姿を変えた。


「あら? もう終わったの?」


「遅かったじゃない、『優越の魔女マリー』。もう終わったわ」


「残念ねぇ。貴方のそれ、見たかったのに」


『仮面の魔女』は、肉人形から仮面を取り、それを自身の顔につける。すると、先ほどまでの少女の姿に変身をする。


「いい感触ね。でも、『能力スキル』とやらが使えないのが残念だわ」


「悪趣味ねぇ、『仮面の魔女ジャンヌ』。それでは聖女のメンツも丸潰れじゃない」


「もう聖女じゃないわ。『優越の魔女マリー』、そっちはどうなの?」


「『コノートの戦士あの組織』に関与した魔術師の資産を全て凍結したわ。これで末代まで地獄を味わうことでしょう」


『仮面の魔女』は、肉人形から身ぐるみを剥ぎながら、『優越の魔女』の話を聞く。どうやら、関与した魔術師の資産を全て凍結させたようだ。


「そう、もう勝手ができないわね。それ相応のことをしたんだから」


「そうね。まぁでも、見れたものは見たから、私は帰るわ」


「えぇ、ではまた会いましょう。『優越の魔女マリー』」


『優越の魔女』は、その場を去る。それと同時に、『虚数空間』が解除される。

 かくして、『仮面の魔女』は亜空間で、すすきのの街を去るのだった。

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