4ー4

AM 1:00 天神山


 ぶつかり合う剣撃によって、周囲に強い衝撃波が放たれる。フェルグスのカラドボルグと、私のダーインスレイヴが互角にぶつけ合うことで、衝撃波は幾分も強力になる。

 だが、戦況としてはお互い互角に力を競っている状況だ。私の魔術をフェルグスはカラドボルグで防ぐと、フェルグスは魔力を込めた剣圧を放つ。

 すると、私はそれを回避し、先ほど蹂躙した兵士の血を触媒に、血の剣を生成してフェルグスに向けて放つ。


「ほう? 血で作った剣とはな。しかも、この血は同胞の血か」


「これでも受け流すとはな。どんだけ強いんだよ」


「これでも、死地を潜り抜けた数は多いぞ? さて、今度はこちらから参ろうか」


 フェルグスは、剣に力を貯める。すると、魔力を貯めた剣の一閃が私に襲いかかる。私はダーインスレイヴを地面に刺し、グラムを展開しそれを防ぐ。


「なんだ、この力は!? 魔力以上に、保有者の力を感じる!」


「ほう? 防ぎながら、我が剣の能力を見抜くとは。なら、この剣について、少し語ろう」


 フェルグスは、カラドボルグを地面に刺し、話し始める。


「我が愛剣 『虹剣 カラドボルグ』は、担い手の力を魔力に置き換えることで、強力な一振りを振るえるという代物だ。

 俺はこいつ共に、多くの死地を経験し、数多の強者を葬って来た。即ち、この剣は我が体の一対と言っていいだろう」


「なるほどな。要は、持ち主の技量を魔力に変換することで、先の一撃が放てるというわけか」


「いかにも。さて、こちらは手札を見せたぞ? まだそちらも手札があるのだろう? 不平等は好かんぞ?」


 フェルグスの言葉に、私はグラムとティルフィングを展開する。すると、大振りな二つの剣は炎に包まれ、片手で持てる剣が現れる。


「残念だ。お前とはゆっくりと戦いたかったんだがな。そう言われては、致し方ない!」


 私は、グラムとティルフィングを腕に収める。そして、ダーインスレイヴを展開した。


「5分だ。この5分で、終わらせよう」


「面白い。では、最高の5分間と洒落込もうか!!」


 私はグラムとティルフィングを腕に宿したまま、ダーインスレイヴを構える。その影響により、私の両腕の魔力とダーインスレイヴの呪いが拒否反応を起こす。

 その為、私に残された時間はわずか5分しかない。『無色ロストカラー』の魔力と、ダーインスレイヴの強力な呪いが干渉し、そのせいで拒否反応を起こしている。

 そして、5分が経過すると、私の両腕から多量の血が溢れ、魔術回路が滅茶苦茶になり、両腕が機能しなくなるのだ。

 魔術回路がなくなれば、魔術師としては死んだも同然。その為に、この時の私の行動限界時間は「5分」しかないのだ。


「では、始めよう」


 フェルグスが私に向かった攻撃をする。私はそれを、ダーインスレイヴで受け流す。


 ――――――5分。

 フェルグスは、カラドボルグに自身の力を込める。そして、それを剣の一閃として放出する。私は、右手でダーインスレイヴを逆手に持ち、白い炎を放ち、それを防ぐ。

 白い炎の奥からフェルグスが現れ、私に向かってカラドボルグで斬りかかる。私は咄嗟に逆手で持っているダーインスレイヴで、フェルグスの攻撃を防いだ。


 ――――――4分。

 今度は、フェルグスから吸収した魔力を、私の魔術としてフェルグスに向かって放つ。フェルグスは魔術の方向を読んだのか、それを容易く避ける。

 そして、フェルグスもまた私に向かって、突きの構えでカラドボルグに気を貯める。すると、2色の魔力が、螺旋状になって私に向かって放たれる。

 私は、ダーインスレイヴを地面に刺し、両手に纏っている白と黒の魔力を展開する。


「『術式略称』。『出力最大』。『二連三重魔術』 【上級展開・『白炎』】。【上級展開・『黒炎』】」


 白の炎と黒の炎を同時に展開する。そして、螺旋状の斬撃を防ぐ。

 すると、魔力同士の衝突を発生し、爆発を起こす。そして、両者ともに爆炎から姿を見せ、互いの剣同士をぶつけ合う。


 ――――――3分。

 そろそろ限界時間の半分を経とうとしている。正直、ここで片をつけないければ、私の自爆で幕切れになる。

 そんなことをすれば、魔術師としてのメンツが丸潰れになる。そうならない為にも、早いところ終わらせないといけない。

 だが、フェルグスは思った以上に頑丈で、倒れる気配がしない。

 しかし、打開策を考えなければいけない。どうすればいいか、そう考えてると、ある及第点を見つける。

 だが、それをするためには、私の魔力をフルスロットで行かないといけない。

 この状況で、終わらせるにはこれしかない。


 ――――――2分30秒。

 フェルグスの攻撃を受け流しながら、魔力をダーインスレイヴに集中させる。大気中の『魔素マナ』を取り込み、ダーインスレイヴの吸収量を増大させる。

 それが功を指し、徐々にダーインスレイヴの魔力が増大していく。

 だが、フェルグスを倒すにはまだ足りない。フェルグスもまた、私の限界時間を迎えていることに気づく。

 そのせいか、一手一手が早さと苛烈さを増して行った。


 ――――――1分30秒

残された時間はあとわずかになる。フェルグスは攻撃をやめると、カラドボルグを天高く上げる。


「これで終わりとしよう」


 天高くあげたカラドボルグは、7色に輝き出す。そして、それを私に向けて振りかざす。


「行くぞ!!」っとフェルグスはカラドボルグを振りかざす。その虹色の剣は、刻一刻と私に向かっていく。

 私は、目を閉じる。そして、開眼とともに溜めていた魔力の全てを解放する。


 ――――――1分。

 ダーインスレイヴを横に構え、術式を詠唱する。『魔女やつ』の言葉を借り、最速で詠唱する。

 その間にも、フェルグスの大技は私に向かってくる。奥で見ていたメイヴはフェルグスの勝ちを確信する。


 ――――――45秒。

 誰もがフェルグスの勝利を確信する。だが、戦いというものは、最後まで何が起きるかは、誰も予測なんてできない。

 それが今、その時であった。


「『グリモワル真書 第13節 魔創龍波 【三頭龍ギドラ】』!!」


 ダーインスレイヴから、赤と白と黒の炎の龍が現れる。そして、フェルグスのカラドボルグとぶつかり合う。お互い、強力が故に、その威力は計り知れないものになっていた。

 力の膠着状態が続く。すると、先に威力が尽きるのは、フェルグスの方だった。どうやら、抑えきれなくなったようだ。

 そして、炎の龍は、フェルグスを包み込む。やがて、フェルグスに甚大なダメージを与え、龍は消滅する。


「はぁ……。はぁ……。ようやく、片がついた……」


「見事……だったぞ……。まさか……ここまでとはな」  


 フェルグスが大の字で倒れる。

 残りの猶予時間は、わずかに5秒。もう少し遅かったら、私の両腕はパージしていた。だが、ギリギリの戦いではあった。

 それでも肉体が炭になっていないというのはさすがというべきか。


「お嬢さん……。あんた、髪が伸びてるじゃないか」


「あぁ。私は他の魔術師と違って、魔力を感じやすくてね。こうして、魔力を解放すると、髪が異様に伸びるんだ。その都度妹に切ってもらってるくらいだ」


 私の体は、魔力を感じやすい。そのせいで、魔力を全開に発揮すると、髪が異様に伸びるのだ。

 その代わり、魔術がいつも以上に威力が増すというメリットがあるが、髪が鬱陶しくなるので、あまり使いたくなものだ。


「そうか。それは、大変だな」


「もう行くのか?」


「あぁ、ほんのわずかだったが良い、人生だった」


「でも、今度は、安らかに行けるんだろ?」


「そうだな。もうこの世に未練などない。あとは、帰るだけだ」


 フェルグスはそういうと、目を閉じて眠りにつく。

 こうして、この戦いにおいての最大の戦いが、幕を閉じたのだった。

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