3ー6

PM 11:40 大通西4丁目


 リリアンヌが中島公園で咎人の大群と戦っている頃、大通公園では、転移者の少年が1人留まっていた。

 彼は退屈しながらも、敵である魔術院の壊滅するのをただ待っていた。本来なら、自分が出れば終わる。そう過信していたが、一向に終わる気配がない。

 少年は、ただ出撃の命令が来るのを待っていたのだ。


(中々、終わりはしねぇな。なんか起きてんのか?)


 少年は、自分が出れないことに不満を感じている。道路の奥には、強力な魔力を感じているのだからだ。

 しかし、『女王』からの命ならば致し方ない。そう思い、彼は持ち場に戻る。

 すると、黒いスーツを着た女性が、風水の側に腰を掛けて煙草を吸っていたのだ。


「あら? ごめんなさいね。ここ、あなたの拠点だったかしら?」


「なんだ? 人の陣地に土足で踏み入りたがって。この世界の魔術師とやらは、行儀の一つもしらねぇのかよ?」


「生憎、そういうのは聞いていないわ。特に、自分の力の過信している馬鹿にはね」


 少年は、女性の言葉に苛立ちを覚える。女性は、煙草の煙を吐き、少年に向けて話を続ける。


「時に坊や、あなた、その力で、何人殺して来たのかしら?」


「殺してきた? 何の事だかな。そりゃ、そいつらが弱かっただけだろう? 俺は、そいつらに対して慈悲をくれてやっただけだぜ?」


「そう、その救いとやらは、私に見せてもらえるのかしら?」


「いいぜ。だが、その前にテメェが死ぬがな!!」


 少年は女性に向けて『能力スキル』を使う。少年の力は、女性が座っていた場所を破壊するが、女性はもうそこにはいなかった。


「なるほどねぇ。確かに強いはねそれ。だけど、その程度では私には通じないわよ?」


「テメェ!! いつからそこにいやがった!!」


 女性は、少年が攻撃する前に、移動したようだ。履いていたヒールが、まるで鈍器のような凶器に変貌したと同時に。

 少年は、女性から発せられる電流を見て驚く。まるで、これから自身を殺すかのように。


「あなたが私の挑発に乗った時からよ? でも、案外大した事はないわね。使用者が単細胞なら、どんなに強くても大した事はない」


「くそ!! でも、まだ本気じゃないぜ!?」


 少年は、女性に対して、連続して殴りかかる。しかし、女性は少年の攻撃を簡単に避ける。


「思いに任せきりで、攻撃があたってないわ。それじゃ、その魔術も、宝の持ち腐れね」


「つくづく腹が立つな!! なら、こいつはどうだ!!」


 少年は、渾身の一撃を加える。しかし、女性はそれを簡単に避け、逆に足で少年にカウンターを決める。

 それを受けた少年は、風水まで飛ばされる。


「どうしたの? もっとお姉さんに力を見せなさいよ」


「ガハッ!! なんだよそれ!? まるで、俺が弄ばれてる見たいじゃなねぇか」


「言ったでしょう? あなたじゃ私には勝てないって。それと、私はセシリアよ。よろしくね、坊や」


 セシリアは、大人の余裕というものを見せる。しかし、少年は頭に来たようで、セシリアに向けて攻撃を続ける。


「ちくしょう!! 気に入らねぇ!! このまま、ぶっ殺してやる!!」


 少年は殴り続けるが、隙を見たセシリアによって、またしてもカウンターを決められる。


「その程度? もう降参するなら、命までは取らないわ?」


「くそが!!」っと少年は、セシリアに向けて『能力スキル』を使う。それを察知したセシリアは、足を駆使して受け止めた。

 そして、勢いはセシリアの方が強く、少年の拳は粉砕される。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! 俺の拳が!!」


「かわいそうに。それじゃ、せっかくのパンチも台無しね」


「冗談じゃね!! なんだよ、その靴は!?」


「せっかくだから、教えてあげるわ。『雷槌 ミョルニル』。あらゆるものを粉砕する事にできる、最強の魔具よ。

 私の魔力を溜め込むことで、放出された時の威力は膨大になる。まぁ、本来はハンマーの魔具だけど、これを私は、靴に改造したわ。

 私、足技には自身があるんですもの」


 少年は、セシリアの靴を見て驚く。彼女の足を見て、強力な電気を発しているのを見たからだ。

 どうやら、自身が攻撃をしている間に電力を貯めていたらしい。

 少年は、まだ動かせれる腕で、セシリアに殴りかかる。すでにひどく負傷している少年の体は、動きが鈍く、容易く回避させる。


「もういいんじゃない? あなたもう、ボロボロよ」


「ふ、ふざけるな!! 俺は、この力があれば、誰にも負けねぇんだ! 負ける訳がねぇ!!」


 少年の攻撃を、セシリアは容易く避ける。そして、彼の足を足払いして体制を崩す。

 しかし、少年は諦めずにセシリアに攻撃を続ける。


「興醒めね」っとセシリアはミョルニルを振りかざす。そして、帯電している電力を解放する。


「『術式展開 三重魔術 上級付与術式『紫電蓄雷』』」


 セシリアの足に紫色の雷が放出される。すると、セシリアの足にルーン文字が浮き出る。

 ストックされた魔力が解放され、彼女の電力として足に纏わり付く。セシリアは、魔力量がB級魔術師相当の量しかない為、ストックする事で、魔力の消費量をセーブすることができるのだ。


 セシリアは魔力を溜めたミョルニルを少年に向けて放つ。少年は、まだ動ける腕で、セシリアを迎え撃つ。

 その刹那、目に留まらぬ速さによって、彼の体は打ち上げられ、さらにはその速さを維持しながら、セシリアは追撃を加えた。

 着地した頃には、彼の体はボロボロになり、再起不能となった。


「『三重魔術 上級展開 『破滅迅雷蹴』』。ミョルニルに溜まった電力の半分を解放することで、高速で連続の足技をお見舞いする。

 これを耐えれるのは、せいぜいあなたのところの大英雄さん位でしょう」


 セシリアは、そう話すが、少年からの返答はない。どうやら、先の『創作魔術』によって死んだのだろう。

 セシリアは、少年の亡骸に近づく。すると、その亡骸の前で一服を始める。


「残念ね。もう少し、骨のある子だと思ったけど。まぁ、自分の力に過信し過ぎただけね。それが、あなたの敗因よ」


 セシリアは、煙草を吸い続ける。執行者を統率している立場の人間なので、彼女が前線に出ることは少ない。

 だが、部下が犠牲となっている場合、彼女自らが出る事は少なくない。彼女にとって、戦いというのは息抜きでしかない。

 それは、友人であるアルトナと戦えることで、紛らわしていくことだ。セシリアにとって、アルトナという『魔女』は、唯一背中を預けられる存在でもあるからだ。


 セシリアは煙草を吸い終えると、すすきのの方に顔を向ける。そして、ミョルニルを再度展開し、リリアンヌの援護に向かう。

 かくして、大通での激戦は、セシリアが制したのだった。

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