3ー5
PM 11:35 大通西11丁目
『女王』の命令により、転移者の少年は西11丁目で陣を引いている。リリアンヌが張った『虚数空間』により、辺りが虚数に包まれる。
しかし、彼は余裕な表情を見せる。何故なら、彼には勝てる自信しかないのだ。
(これは中々、広範囲な結界だね。でも、術者を殺せばいいだけの話か)
彼は閉ざしている目でニヤけながら、行動を始める。以前、アルトナとの戦いによって、『虚数空間』の特性を把握済みであり、展開した人物を排除すればいいので、彼はリリアンヌがいる中島公園へと向かう。
(まぁ、こいつらはただの駒だし、雑に扱えばいいか。僕が術者を殺せば万事解決って感じ)
彼が自身の兵と共に、中島公園へと向かう。すると、後ろから魔力を感じ、彼は感じた方に振り向く。
振り向いた先には、白い刀を携えた女が、その妖艶さを台無しにするほどの血を浴びた状態で現れた。
「どこへ行かれるんです?」
冷気を放つ刀を携えたキサラギ・ラスティアが、転移者の少年の前に現れる。
ここに至るまでに、彼女は『コノートの戦士』の一員達を殺して来たようだ。だが、それは正当防衛であるが故、当然の摂理なのだ。
彼女も魔術師である為、多少の殺人は許容の範疇である。しかし、それを平然とやる者を許せれないのだ。
「驚いたな。まさか、あの『魔女』だけじゃないなんてね」
「姉さんだけじゃありません。この世の中には、強い魔術師は多くいるのです」
「へぇ〜。でも、君は弱そうだ。そんな刀で僕に挑むなんて、馬鹿げてるよ」
ラスティアは、少年の挑発をしているにも関わらず、彼を斬りにかかる。
「冷気の魔術かな? でも、冷気には炎が有利っていうしね!!」
少年は、炎の剣を2振り用意し、ラスティアに襲いかかる。しかし、ラスティアは彼の攻撃を冷静に受け流した。
「弱い剣ですね。『
「その言い方、やめてくれないかな? 僕、カッチーンっと来そうだよ」
少年とラスティアとの剣撃のぶつかり合いは激しくなっていく。炎が圧倒する筈であるが、なぜかラスティアの冷気が優勢となっていく。
いや、違う。今の西11丁目は、ラスティアの
少年がそれに気づくには、少々遅かったのだ。
「なんだ、この感じ! まさか、この辺一帯が、冷気に包まれている!?」
「ようやく気づきましたか。
『三重魔術 領域支配術式 冰界領域【アイシクルゾーン】』。私自身の体温を極低温に変換することで、極低温の
これによって、あなたは私を倒さない限り、体が徐々に凍り付くでしょう」
「なるほど。なら、それを上回る熱気を作ればいいだけのことだね!」
彼は、炎の剣の出力を高める。そして、ラスティアの魔術を強引に突破しようとする。
「ヒャハハハ!! これぐらいの炎じゃ、君は何もできないだろう!!」
少年は、ラスティアに対して怒涛の連続攻撃を繰り出す。しかし、ラスティアはそれらを冷静に対処していく。
それを見た少年は、焦りが激しくなっていく。
「なんでだよ!! なんで、焦ったりしないんだよ!!」
「言った筈です。あなたが弱いんだと。それに、一ヶ所に暖を取ろうとしてると、危ないですよ?」
「ふ、ふざけんな!! そう言って、挑発を――――――」
少年は、ふと自分の手を見る。すると、腕の辺りが、黒く変色していった。
「な、なんだよこれ!!」
「凍傷です。体が強い冷気によって知らないうちに損傷している状態です。
無理に治すのは、お勧めしません。この世の地獄のような痛みが、あなたを襲いますよ」
「く、クソが!! なんでだよ!! 僕が負けるわけないのに!!」
「あなたは自身の能力によって、力を蓄えることを怠った。それがあなたの敗因です」
ラスティアは、少年に向けて刀を振るう。しかし、彼もまた最後の抵抗を見せる。
「こんなんで、負けるわけには行かないんだよ!!」
少年は、一心不乱に剣を振り回す。だが、魔力を消耗しすぎたあまり、炎の剣は威力を失いつつあった。
そして、次第に炎を勢いを失っていく。
「いくら炎だとしても、強い冷気の前じゃ意味がない。次第に、弱くなっていくばかりです」
少年の動きが、徐々に弱くなっていく。そして、ラスティアは攻撃の構えを取る。
「行きます!」
刀を前へと向けて構え、少年に向けて斬りかかる。すると、ラスティアは刀の刀身を撫でる。
そして、少年に斬りかかると、刀は消えていった。
「へ、へへへ。なんだ、これで終わりかよ! ヒヤヒヤさせやがってよ!」
少年は、ラスティアに斬り掛かる。少年の凶刃が、ラスティアに降り掛かろうとした。
その時だった。
「――――――え?」
彼の体から、血が溢れていく。無数の切り傷が、彼の体に現れる。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
少年はあまりの痛みによって、もがき出す。ラスティアは刃のない刀を鞘に収める。
「『氷花 居合弐の方 『雪霰』』。氷花の刀身を粒子状の氷に変え、鞘に収めた瞬間に粒子状の氷があなたに襲いかかる。これが、私の得意とする術式です。
それと、私の魔具をお見せしましょう」
ラスティアは、鞘から刀を剥く。その刃は、白く輝いていた。
「私の魔具『氷花』は、鉄で出来てはいません。この刃は、微粒子の氷の集合体。つまり、私の魔力を込めれば、簡単に氷の粒子に変えられる事だってできる。
そして、微粒子の氷の結晶体は、鉄と同等の強度を誇るのです。要するに、強い冷気を浴びるほど、この刃は強くなるのです」
ラスティアが説明していると、少年の言葉は消え、そして、少年は体が固まった。
凍死したのだ。彼の傷口から、ラスティアの放っている冷気が流れ込み、内側から彼を冷やしていき、やがて体内の組織が凍っていったのだ。
ラスティアは、少年の死を確認すると、領域を解除する。すると、彼女は体力を使い切り、その場に膝をついたのだ。
「はぁ……はぁ……『呪い』が、でも、耐えなきゃ……」
彼女の体に、刻印が刻まれる。その呪いは、彼女の体を蝕む代わりに、強い冷気を放つのだ。
強い魔力を持たない人間を無差別に凍り付くす『呪い』は、氷花の担い手であるラスティアにとって、切っても切れない縁なのだから。
ラスティアが休んでいると、身に覚えのある人物が来る。
「お疲れ。大丈夫かい?」
「明日香さん……。どこ行ってたんですか?」
「ちょいと野暮用でね。それより、あいつはどこ?」
「姉さんは、天神山の方に行きましたよ。『女王』と片を漬けるために」
「そう。やっぱりおいしいとこは持っていくんだね」
明日香はアルトアが1人で天神山の方に行った事に妬みを含んだことを言う。どうやら、彼女もこれから天神山の方に行くつもりだったらしい。
でも、アルトナがいない状態ではラスティアが危ないので、ラスティアのそばにいることにしたそうだ。
「これからどうする?」
「少しだけ……休んだら、リリィちゃんの援護に行きます。『
「了解。なら、その間の雑魚狩りは私が引き受けるよ」
明日香は銃器を召喚し、ラスティアの前に立つ。その間に、ラスティアは休息を取る。
こうして、西11丁目での攻勢は、魔術院側の勝利に終わったのだった。
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