3ー4

PM 11:30 中島公園


 アルトア達は、それぞれの相手との戦いに向かい、中島公園を後にする。リリアンヌは、彼女達を見送り、イロハとアリスと3人で中島公園に留まる。

 2人は、咎人達が何処に来るかを予想しながら、中島公園の三方の通りを見渡す。

 しかし、リリアンヌだけは中島公園の真ん前で、独り酒を飲んでいた。


「議長、いつ敵が来るかわからないのに、酒を飲まないでくださいよ」


「ん? 大丈夫だよ。これ、僕の魔具だし」


「そういえば、忘れてましたね。『魔酒 ネクタル』、飲酒者の魔力を上昇させる効果を持つんでしたっけ?」


「そうだよ。僕は普段はあんまり使わないけど、ここぞとばかりの時はこれを飲むようにしてるんだ」


 少量のネクタルを飲んだリリアンヌは、立ち上がり手を合わせる。すると、札幌の街波から人の姿は消え、街全域が『虚数空間』になった。

 アリスとイロハは、それを見て驚きを隠せないでいた。


「すご……。さすが、これだけの『虚数空間』を張れるなんて」


「これで、一般人への被害は無くなりましたね」


 2人はリリアンヌが展開した『虚数空間』を見て驚愕する。

 すると、右の方から大量の魔力を感じ、3人は感じた方向に振り向く。


「お出ましだね」


「これだけの大群を……。それだけ転移者を呼び寄せたんですか?」


「そうだろうね。まぁ、僕としては反対派の連中を一気に排除することができて楽だよ」


「流石にこれじゃ、議長でもキツイでしょう。って、何処行かれるんですか!?」


 アリスの静止に、リリアンヌは無視し咎人の群れに向かう。

 そして、魔術本を開き、魔術を唱える。


「僕はね。アルやみんなみたいに器用に魔術を扱えれないんだ。アルのように多様に魔術を扱えれないし、セシリアみたいに格闘術を絡んで魔術を扱うことも出来やしない。

 でも、僕は誰よりも強力な魔術を扱うことが出来る。それは、自然にちなんだ魔術だ。

 教えてあげるよ。自然ぼくに逆らったら、どうなるかをね」


 リリアンヌは術式を唱える。すると、彼女の体が地上より少し浮き、魔方陣も床下に展開される。


「『星よ 母なる星よ 我が声に応じよ

  我は星の祝福を受け継ぎ者 我が怒りは星の怒り

  星よ その怒りをもって 異星を呼び寄せよ』」


 リリアンヌの詠唱に、2人は上空を見上げる。すると、巨大な隕石のようなものが、中島公園の近くまで接近する。


「『裁きの時来たえり 星よ 怒りをもって 星を汚せし者を 破壊せん

  愚かなるものよ 星の怒りをその身に受けるがいい』」


 隕石は、徐々に中島公園に迫って行く。理性のある咎人や、『コノートの戦士』の兵と彼らの属する魔術師達は空を見上げ、逃げ始める。


「『四重魔術 特級展開【赤】『隕石』』!」


 隕石が、中島公園の道路にまで接近する。その熱風によって、次々と敵を灰にさせていく。

 そして、隕石が衝突し、周囲の咎人達は粉砕されていった。

 アリスは魔具を展開し、リリアンヌの魔術の爆風を防ぐ。イロハもまたアリスの後ろに入り、爆風を防ぐ。


「議長! やりすぎですよ!!」


「ごめんごめん。アル以上に加減ができないんだ」

 

「見て! 向こうにも、奴らが!!」


 豊平川沿いの大群だけではなかった。なんと、咎人の大群は、山鼻側からも押し寄せてきたのだ。

 どうやら、四方から大群を配置しているらしい。

 これでは、リリアンヌだけでは到底抑えるには無理があるようだ。


「僕は少しインターバルに入る。アリス、イロハ、少しの間任せたよ」


「任せてください!」「了解ですよ!」っと各々返事をし、リリアンヌの代わりに相手に取る。

 イロハは首飾りを撫でる。その間に、アリスは盾を展開する。


「咲き誇れ 『ブリーシンガメン』!」


 チョーカーが変貌し、黄金の媚飾りに変貌する。すると、宝石の色が赤に揃い、黄金の剣へと変形する。

 そして、彼女が剣を振うと、炎の花が咲き乱れる。

 地面に生えた炎の花は、無惨にも咎人達を燃やしていく。そして、燃えた花は心なしか綺麗に見えたのだ。


「さすがだね。昔と変わらないね」


「いえ。しばらく前線に出ていなかったので、衰えますよ」


「そうかな? でも、後輩には負けていられないね」


 続いて、アリスは盾を展開する。すると、磁力に吸われる形で、咎人達は車に貼り付いてしまう。

 すると、別の方向から車が引き寄られいていき、咎人達を押しつぶす。

 そして、磁力を反転させ、今度は地上にいた咎人達に向けて車を降らせる。

 咎人達は、降りしきる車によって、潰されてしまった。


「さすが、アリスさん! 相変わらずやることがえげつないですね」


「そんなことないよ。でも、そろそろ議長の方が準備できてるよ」


 アリスがそういうと、黄色の魔方陣を展開したリリアンヌが、術式の準備を完了させた。


「『星よ 母なる星よ 我が声に応じよ

  我は星の祝福を受け継ぎ者 我が裁きは星の裁き

  星よ その裁きをもって 外敵を排除せよ』」


 リリアンヌの呼び声に、黒い雲が出現する。その雲は、徐々に広域に広がっていく。


「『裁きの時来たえり 星よ 雷をもって 星を汚せし者を 殲滅せよ

  愚かなるものよ 星の裁きをその身に受けるがいい』」


 徐々に黒き雲から雷が降り始める。そして、より強い雷雲が、『コノートの戦士』も上空に展開されていく。


「『四重魔術 特級展開【黄】『雷霆』』!」


 周囲に、強力な雷が落ちる。その雷は絶大で、咎人達を一瞬で黒焦げにさせた。

 それに伴い、山鼻側の大群を一掃することができた。


「はぁ〜。これで殲滅できたかな?」


「多分、これで全部だと思う。それにしても、よくこんなに集めたよね。それだけ、議長に恨みがあるってことかな?」


「僕に恨みがあるなら、こんなことしなくてもいいのに、ほんと、周りくどいんだから」


「でも、議長ったら満足そう。一掃できたんだから、よかったじゃないですか?」


「そうだね。それに、僕は疲れたから休ませてもらうよ」


 リリアンヌは、その場に倒れ込む。それを見た2人は、その場に座り込み、警戒を怠らないでいる。

 時刻は日が変わった午前0時。リリアンヌの二発の魔術を唱えたとしても、開戦してまだ30分しか経っていない。

 セシリア達は、まだ終わっていないのだろうかと思いながら、体を休ませている。

 かくして、中島公園での銭湯は終わりを告げ、リリアンヌ達は魔力を回復させながら、セシリア達の戦況を待つのだった。

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