3ー3

数時間前 魔術院 日本支部


 秋空が照らされている議長室に、投げ出された資料と、冷めた紅茶がデスクにある。

 リリアンヌは、例の組織『コノートの戦士』についての資料を読み漁っていた。だが、これは属する魔術師からの情報ではない。

 無論、彼女は全員を信用しているわけではない。彼女に反して、『コノートの戦士』に就いた者がいたからだ。

 当然、現議長としては由々しき事態だが、彼女はこれを利用させてもらっている。そのほうが、自身に楯突く邪魔者を一斉に排除できるのだ。


「なるほどね。奴らはいつ攻勢を仕掛けても良い状態って訳か」


「そうね。彼女にはあなたに動くよう手筈しているわ。まぁ、私としてはあなたは静観を選ぶでしょうけど」


「どうかな? 僕としては、動くつもりでいるけどね。それで? 君の要件は?」


 リリアンヌは、ある人物に要件を言う。彼女にとって、この人物はビジネスパートナーとも言うべき存在なのだ。


「珍しいわ。あなたが前向きに動いてくれるなんて。明日には星が終わりそうね」


「それは大袈裟だよ。僕は、動く時には動く人間さ。もちろん、気に入らない奴に対してだけど」


 リリアンヌの声に、彼女は仮面で覆われていない口に笑みを浮かべる。そして、リリアンヌにもう一つ提案をする。


「それはよかったわ。なら、咎人の大群はどうにか出来そうね。それと、これも頼むわ。今回はあなたと彼女の割り勘で」


「大した金額だね。いいよ、後で支払いをしておくから」


「えぇ、よろしくね。では私は失礼させてもらうわ。リリアンヌ、せいぜい、その生涯を重んじることね」


「余計なお世話だよ。またね『仮面の魔女』。腹の底が読めないけど、またよろしく」


『仮面の魔女』は、亜空間を作り出し、その場を後にする。リリアンヌは、然るべき時間まで、『仮面の魔女』から提供された資料を良い漁るのだった。


 数時間が経ち、リリアンヌの元に客人が入る。リリアンヌは、美羽とイロハを護衛に着かせ、客人の対応にあたった。


「へぇ〜。あなたが、魔術院の議長さんなのね。思ってたより、小さいわね」


「まぁ、そう言われますがね。ところで、今回はどの要件で?」


 リリアンヌは、紅茶を飲みながら、客人に要件を問う。


「意外と生意気ね。あなた、私が誰だかわかっているのかしら?」


「えぇ、知ってますとも、『女王メイヴ』様。あいにく、人には興味がない人間でね。早急に、要件を言ってもらえると助かるんだけども?」


 リリアンヌの言葉に、『女王』の後ろの護衛が、彼女に向かって剣を構える。

 それを見た、美羽もまたレーヴァテインを構え、臨戦態勢をとる。


「よせ、フェルディア。それに、そこのお嬢さんも、中々の強さと見る」


「お褒めにかけて、光栄です。ですが、今は交渉の場。私としても、この場に血を流すのは気が引けます故」


 フェルグスの言葉に、2人は剣を収める。


「ごめんなさいな。彼、血の気が激しい者なもので」


「まぁ、いいさ。で、要件は?」


「単純よ。ここから出てってもううかしら? 大人しく、出てったら、何もしないわよ」


『女王』の発言に、リリアンヌは静かな怒りを見せる。この女、生意気だなと感じたのだろう。

 

「それで? 要件はそれだけ?」


「何よ。余裕そうね」


「どうかな? 君が僕を見下している事を踏まえたら、譲る気は無いよ」


「面白いじゃない? あんた、ここで殺しておいてもいいのよ?」


『女王』の脅迫を、リリアンヌは簡単に跳ね除ける。そして、逆に脅迫を仕掛ける。


「別に、構いはしないさ。その場合は、君が呼んだ転移者とそこの転生者諸共、皆殺しにさせてもらうよ」


「出来るのかしら? あなたみたいな、お子様に?」


 リリアンヌは、『女王』に対して話し出す。その声によって、美羽達や部屋にいた魔術師達は、冷やせを垂らし出す。


に出来ないとでも?」


 その言葉を聞いた『女王』は、リリアンヌからかなりの重圧を感じたようだ。重圧を感じてしまった『女王』は、悔しさを感じ、歯軋りをする。


「驚いた……。まさか、この時代にあんたみたいなのがいたなんて……」


「私にとって、君らがどうしようかはどうでもいい。ただ、君らの蛮行を許すなんてことはできやしないさ」


「……悔しいけど、ここは引かせてもらうわ。では、次は戦場で会いましょう」


「別に、戦争をする気はないよ。さっさとこの街から出て行けと言ってるんだよ。まぁ、そっちが仕掛けるなら、こっちもそうさせてもらうよ。

 私の目の黒い内には、ね」


 リリアンヌは、『女王』達を座ったまま見送る。そして、彼らがいなくなった事を確認し、背もたれに寄りかかる。


「はぁ〜。とんだ我が儘女だったよ」


「あれが『女王メイヴ』。思ったより、傲慢な女だったね」


「それにしても、久々に見たわね。リリィがあんな感じに怒るところを」


「全く、僕を怒らせるなんて、『元老院ジジィども』以外じゃ初めてかもね」


「『元老院』には、色々と借りがある訳だしね。それで、アルトナさんの所には行くの?」


「もう行くつもりさ。『コノートの戦士あれ』には少し、お香を添えないとね」


 リリアンヌは、立ち上がるとイロハはコートを用意する。美羽はそれを羽織らせると、リリアンヌは、自身の魔具と魔術書を持ち、アルトナの事務所に向かう。

『仮面の魔女』の情報の通り、アルトナが持つ提案に乗ることにする。

 かくして、リリアンヌはアルトナの事務所に向かうのだった。



――――――――――――――――――


PM 11:00 中島公園 【アルトナ視点】


 夜になり、皆が集まる。ラスティアが地図を広げてそれぞれの配置を確認する。

 状況を説明する。


 リリィが中島公園で陣を構え、大量の咎人と愚者グール達を1人で相手に取る。リリィがこぼした咎人達をイロハとアリスが迎撃する。


 地下鉄を経由して、美羽とセシリアとラスティアはそれぞれが相手に取る転移者と転生者の元に向かう。

 そして、各個撃破後に、リリィの露払いを行う。


 そして、私は彼らの本拠地としている天神山へ、単身で向かう。彼らは総力戦を仕掛ける為、本陣は手薄になる可能性は高い。

 私が指揮官なら、そうするであろう。しかし、問題はあの『フェルグス・マック・ロイ』だ。

 彼が仮に天神山にいなくても、私以外の人物が、到底相手にはならないだろう。


 最終的には、『女王』を捕縛ならびに殺害をすれば、魔術院側の勝利となる。

 しかし、フェルグスが本陣にいなければ、私達の敗北条件となる。それだけで戦況が変わってしまう程、彼の実力は危険なのだ。


 ともあれ、私達は行動を起こす。だが、1人足りない人物がいる。まさかと思うが、彼女はまた出てこないのだろうか。


「明日香はどうした?」


「わからない。朝からいなかったみたいだし」


「彼女はブレないな。保険で私と同行を頼もうと思ったんだけど」


「明日香さんは、気まぐれな人だからね。姉さん、そろそろ行こう」


 私達は各々準備を開始する。そして、ドラウプニルを展開し、『幻馬スレイプニル』を召喚した。


「では、こっちは任せたぞ」


「えぇ、こっちもなんとかするわ。でも、『フェルグス・マック・ロイ』の動向だけは気をつけるわ」


「姉さん、気をつけて」


 私は、みんなに見送られる形で、中島公園を出発する。目指すは『コノートの戦士』の根城となっている天神山だ。

 これ以上、転移者を呼ばれるわけに行かない。

 こうして、私は『幻馬スレイプニル』に跨り、独り天神山へと向かうのだった。

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