3ー7

PM 11:30 駅前通り


 駅前通りのビルの屋上、1人の魔術師が虚数に包まれた札幌の街を見下ろしていた。

 七森明日香は、アルトナ達とは別行動をし、ある転移者を追っていた。

 明日香は、ビルの屋上より、札幌の街並みを眺める。すると、亜空間からライフル銃を召喚し、狙いを定める。

 そして、照準が定まり、明日香はその引き金を弾く。スコープ越しに、標的に被弾したことを確認した明日香。だが、標的はそこにはいなかった。

 すると、その標的は、明日香に後ろを強襲する。だが、明日香は素早く拳銃を用意し、反撃する。


「見事」


「へぇ〜。あの距離からの狙撃を回避して、ここまで来るなんてね」


 明日香は、転移者とのぶつかり合いにより、後ろに後退する。転移者もまた、その衝撃で後退する。

 お互いの攻撃がぶつかり合い、その度に衝撃波が走る。明日香は、転移者の下に潜り込むと、死角から弾丸を撃ちこむ。

 しかし、転移者は明日香の放つ弾丸を剣で振り払う。

 そして、転移者は剣であすかに向けて降りかかるが、明日香は咄嗟に避けた。


「なるほど。これが君の『能力スキル』って訳か」


「ほう? 我が『能力スキル』を見抜くとは。我が『能力スキル』、『軍神ゲームメイカー』は全ての攻撃予測を把握することが可能。

 従って、貴様の攻撃は我には通らんよ」


「そうかい。でも、久々に楽しめそうだ!」


 明日香は、亜空間から二振りの剣を召喚する。赤と青の炎を纏った剣を持ち、明日香は転移者に攻撃を開始する。

 転移者もまた、大振りの剣を持ち、明日香を迎え撃つ。

 赤と青の炎を纏い、双剣も持って連続的な攻撃を加えるが、転移者には通じない。いや、違う。彼女はそうしているのだ。


―――――――――――――――――――――― 


 それも全てはリリムの提案である。彼女は明日香に彼を追わせ、彼の持つ『能力スキル』を探らせるためだ。

 彼女は、『女王』の最終兵器として、件の転移者をマークしていた。その仕事を明日香の任せたのだ。


「それで? 私をあいつの邸に帰さないでいたのはそのため?」


「そうだ。奴も『女王』のことで手一杯だからな。奴には許可を取っている。『褒美に好きなだけ食わせろ』っだそうだ」


「やれやれ、それなら仕方ないね。で? 任せたいことって何?」


 リリムは、ある写真を見せる。その写真は、彼女が独自に入手したものだ。


「こいつを始末してほしい。件の集団の中でも、群を抜いて強いようだ。こいつを放置していると、魔術院側あちらが不利になるぞ。

 まぁ、お前にとってはどうでもいいことだがな」


「私は魔術院に属してる魔術師ではないしね。それを私に始末させろってこと? あの餓鬼か、あの女の依頼かい?」


「『仮面の魔女』だ。魔術院向こうと関係のないお前に、排除してほしいとの依頼だ。

 報酬を高くつけるそうだ」


 リリムの言葉に、明日香はソファーから起き上がる。それと同時に、ウィズもまた背もたれから明日香の近くにより始める。


「気に食わないけど、受けるしかないか。あれでも、約束は守る女だし」


「そうしてくれ。私はここで、傍観させてもらう」


 リリムは明日香を見送り、明日香はその場を去る。

 そして、明日香はすすきのの街に向かうのだった。


 ――――――――――――――――――――――



 そして今に至る。明日香は、標的の転移者を見つけ、戦闘を開始している最中である。

 明日香の攻撃は、彼の能力スキルによって、ことごとく弾かれてしまったようだ。

 だが、彼女はそれを見越した上で、わざとそうしたようだ。明日香は、彼の能力スキルを欠点を見抜き、それの準備のために剣を納め、銃を召喚する。


「銃か。だが、我が能力スキルの前では、それも効かんぞ?」


「どうかな? その余裕が保てる内は、そうかもね」


 明日香は、転移者の前に向けてガンプレイを披露する。女性が持つにしては大きすぎるハンドガンを、明日香は平然とガンプレイを決める。


「16発。デザートイーグルの弾数は一丁あたり8発だ。この16発の間に、君に1発でも当たったら、私の勝ち。16発全て避けたら、君の勝ちだ。

 どう? 私と決闘ゲームをする気はあるかい?」


「いいだろう。では、我が力を持って、その申し出は引き受けよう」


 転移者は、明日香に向けて攻撃をする。しかし、明日香はそれを軽々しく避けると、ハンドガンを彼に向けて放つ。

 だが、転移者は予測したのか、咄嗟にそれを剣で防いだ。

 明日香は、続けて2発ほど転生者に向けて放つ。転生者は悠々と避けるが、明日香は彼が避ける位置を予測し、その方向に向けて狙撃する。

 残る弾数は13発。現状では、転生者に軍配が上がっているが、明日香は依然として余裕である。


「ふん。これしきのこと、我が能力スキルの前では無意味だ」


「まだ13発だよ。それとも、もう勝ち気でいたのかい?」


 明日香は、彼に向けて手招きをする。転移者は再び斬りかかるが、明日香はそれをまた避けた。


「そろそろ本気を出そうか」


 明日香は目を閉じ、開眼するように瞼を開ける。彼女の視界には、半透明の亜空間の門が浮かび上がっている。

 明日香は、その亜空間の穴に向けて、引き金を引いた。


「ほう? 自ら、勝ち目がないと悟り、無駄撃ちをするとはな。これで、残るは7発か」


「さぁね。試してみないとわからんよ」


 転生者は、さらに攻撃を続けるが明日香は、それを避ける。すると、明日香は3発ずつ転移者に向けて狙撃する。

 残りは1発。だが、その隙を物理的に作るのは不可能の状況の中、明日香はそれができるのをただ待っている。

 すると、明日香はその機会を自身で作ることにしたのだ。


「降参だよ。もう私には撃つ手がないよ」


「そうか。では、我自らが止めを指してやろう」


 転移者は、明日香の銃を拾う。そして、その銃口を明日香に向ける。

 そして、明日香の銃を放つ。


 ――――――――その時だった。


「何!?」


 転移者は、驚きを隠せなかった。なんと、その銃には、弾がのだ。そして、明日香は転移者に向けて、また銃を撃つ。

 今度は転移者に銃弾があたり、彼の左膝を突き向けた。


「馬鹿な!! 我の能力スキルでは、この銃に最後の銃弾があったはずだ!!」


「残念だよ。最後まで、私のハッタリに気付かなかったとはね」


「何故だ!! 能力スキルの情報では、これには銃弾があったはずだ」


 明日香は、転移者が持っていた銃を、自らの銃を拾う。


「確かに、この銃には弾があった。でも、この銃は特殊でね。所有者の魔力を弾丸に変換することで、ようやく撃つことができるんだ。

 でも、所有者ではない奴が持っても撃つことすらできないんだ。どんなに強くてもね。

 弾は普通の銃とは変わらないが、この弾は普通の銃弾に見えるが、この中は空洞になっていて、所有者の銃を介してようやく放たれるんだ」


「そ、そんなのはったりだ!! 我が能力スキルでは、弾が入っていると決まっている!!」


「それは君が言えたことじゃないだろ? これは戦争だ。卑怯もクソもないのは、当然のことでしょう?」


 明日香は銃を回しながら、転移者に詰め寄る。


「それに、君たちは誰の住む街に土足で踏み入れたか、その身で知るといい。

 それはある種の戦争行為として、認識してもいいだろう。君らが別の世界から来たかは知らんが、軽い気持ちで、転移先の人間を平然と殺すような真似は、看過できないね。

 それに、この末路は君の自業自得だ。自分の能力スキルに過信して、想定外の事態に備えないのが悪いのさ」


「おのれ! 能力スキルの持たない奴が、生意気を!!」


 転移者は怒りに任せ、明日香に接近する。しかし、それは罠だ。明日香は、銃を彼に向ける。

 亜空間に向けて、放たれた銃弾は消滅する。すると、転移者の後ろに亜空間だ現れる。


「『亜空に踊り狂う銃弾の舞バレット・ダンス』!!」


 明日香の術式によって、無数の亜空間が召喚される。すると、先ほど撃った弾丸も含めて、連鎖的に銃弾が撃ち流れる。

 非情とも思える銃弾の連射に、転移者も耐えきれず倒れ込む。


「ガハッ!! こ、ここまでとは……」


「もう終わりだね。その身じゃ、回復は間に合わないだろう」


 明日香は、転移者が息を引き取るのを見届ける。明日香が転移者が息絶えるのを見届けると、彼女の影から、黒猫が現れる。


『終わったの?』


「うん。厄介な相手だったけど、カラクリがわかれば、たいした事のない奴だったよ」


『まぁ、そうだね。それより、まだやる事があるよ』


「そうだね。んじゃ、ラスティアの所に行こう」


 黒猫のウィズは、体を大きくし、明日香はその背中に乗る。そして、明日香は駅前通りを後にし、ラスティアがいる西11丁目に向かう。

 こうして、駅前通りの戦いは、魔術院側の勝利で、幕を閉じたのだった。

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