1ー4

AM 11:30 札幌市北区近辺


 今朝早くから、事務所の電話に着信が入る。相手は道警の下川さんだ。どうやら、今回も私に依頼があるらしい。

 私は、迎えが来るのを待ちながら、支度をした。

 それから数時間が経ち、パトカーが事務所の前に到着する。私は留守をラスティア達に任せ、そのままパトカーに乗った。

 現場に到着する。すると、無惨に朽ち果てた遺体が、散見された。


「なんて酷い……。これほどの猟奇のものは見たことない……」


 下川さんがドン引きをしている。それほどまでに、遺体が無惨に損傷しているのだ。その状況は、私も変わらない。

 それ以前に、セシリアからもらった資料と、現場の遺体の損傷具合が一致していたのだ。


「酷く潰されている……。こっちは、凍りついているみたいだ」


「それだけじゃありません。2体に傷には、殺し合った後が見受けられます。何かの薬を飲まされたのでしょうか?」 


 下川さんはそういう。一般的に、そう考えても仕方がないのだ。だが、魔術師である私は、別の方法での殺人を考える。

 セシリアからもらった資料によると、三つの魔術が使用されたと記されている。


 一つは、力を増強する魔術。この魔術を術者の肉体を一時的に増強させるものだ。しかし、その影響により術者に肉体的疲労が生じる。

 熟練の術者ならば、少量の魔力を使うだけで済むのだ。


 二つ目は、対象を洗脳させる魔術。対象と術者の目を合わせることで、対象を意のままに操れる魔術だ。これによって、術者が魔術を解かない限り洗脳状態が続く禁術だ。これによって、術者の気が済むまで殺し合いをさせることも可能だ。


 三つ目は、『色素エレメント』を意のままにする術式だ。それによって、臨機応変に対処することが可能だ。だが、その影響は酷く、下手に使えば咎人化すらありえる術式の為に、リリィが禁術に指定されているのだ。


 警察の実況見分が終わり、私はパトカーに乗る。下川さんのまとめたレポートを眺める。


「これが、今日までの分をまとめた報告書になります」


「ありがとうございます。しかし、いつ頃からこのような事件が?」


「ここ数日、日本中で起きている猟奇殺人事件です。一件目は横浜で、暴力団組合員が惨殺された状態で発見されたのです。

 二件目は大阪。無断で住み着いている外国人が惨殺された状態で発見。三件目は広島で、これについては、先の二件より酷く、民間人を狙った無差別殺人です。

 そして、今日の事件で四件目。それも、広島の県と同様、無差別殺人になるのです」


 下川さんは、顔色を悪くしながらそういう。どれもこれも、酷い事件だ。おそらくは例の組織の仕業に違いない。

 それも、力試しと言って良いだろう。その上咎人化をしていないのなら、術者は転移者であろう。

 だが、たかが力試しだとしても、やって良いことと悪いことがある。軽い気持ちでやっても、人を多く殺したことには変わりないのだ。


 私は、レポートを閉じると、それを下川さんに返す。下川さんは、現場の捜査官に手を振り、車でその場を去る。


「これから、現場の遺体を司法解剖を行いますが、どうでしょうか?」


「いえ、この後用事がありますので、この辺で」


「そうですか。なら、事務所までお送りしましょうか?」


「それも大丈夫です。麻生で降ろしてもらえると」


 下川さんは、残念そうな顔をして車を動かす。しばらくして、私を乗せたパトカーは、麻生駅に着いた。


「それでは、何かあればご連絡いたします。キサラギさんも、お気をつけて」


「ありがとうございます。下川さんこそ、お気をつけて」


 私を降ろすと、下川さんはその場を去る。私は、そのまま地下に降り、改札に入り地下鉄に乗る。

 この駅は南北線の端の為、真駒内の方に向かう電車しかない。その為か、通勤ラッシュの時間帯ではない限り、車内が混むことはない。

 そうして、私は地下鉄に乗った。すると、若い三人衆が、駆け込む形で乗ってきた。

 彼らは、端の方で何かをしている。何事もないように見えるが、警戒は怠らない。何故なら、彼らから魔力を感じているからだ。

 魔力を隠さない限り、どうやら油断をしているみたいだ。

 私は目を瞑り、術式を唱える。そして、彼らの念話テレパシーに干渉する。


『ふぅ〜ん。なんだか、味気のない人だかりね』


『ここへ来てまだ浅いが、こりゃ、殺し甲斐がないぜ』


『でも、僕らの力を試すには、充分な数じゃない? ただ殺すだけじゃ物足りないし』


『いいね! こんなミジンコ共を殺したところで、何も得がないがな!!』


『あはは! それ良いじゃん!!』


 彼らは、自分らの力に過信しているみたいだ。だが、このままでは犠牲者が増すばかりだ。今やれば、気付かれるに違いない。

 さっぽろまで、気を待つしかない。今は北18条だ。さっぽろに近づく度に、人が増していく。

 次の駅である北12条に着く。そして、彼らが動き始める。不敵な笑みを浮かべた時だった。

 私は、地下鉄全域に『虚数空間』を展開した。すると、乗客が消え、彼らの一人の攻撃が掠ったのだ。


 彼らは異常に気づくと、その場にいた私に迫り出す。こうして、一触即発の状況のまま、私は彼らと接触するのだった。



 ――――――――――――


ラスティア視点 PM 1:00 探偵事務所 如月


 姉さんが警察の方と共に、現場に向かってから数時間が経った。中々帰ってくるのが遅いので、また厄介事に巻き込まれたのでないかと思う。

 明日香さんも今はいない。こうして、私は魔術院からの連絡も兼ね、姉さんの帰りを待つのだ。

 紅茶も飲みながら、待っていると、ベルが鳴る。私は、姉さんが帰ってきたのこと思い、ドアを開ける。


「はい。どなたでしょうか?」


「すいません。こちら、探偵事務所 如月で間違い無いでしょうか?」


「は、はい。そうですが?」


 私は、謎の服装をした人達を見て、嫌な予感を察する。まずい! 姉さんに知らせないと!

 彼らは、私が閉めようとした瞬間、魔術を使い出す。私は咄嗟に氷花を展開し、彼らと対峙する。


「一体、何者ですか!?」


「ひどいな。抵抗をするのやめてもらいません? 僕らはあなたに同行をしてもらいたいだけなのに」


「同行? 一体誰に?」


「もちろん。『女王』の元までに。おっと、抵抗をしないように」


 私は氷花を構え、謎の少年たちに向かって立ち向かう。かくして、私の一人だけの戦いが始まるのだった。

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