幕間3 【英雄は過去を語る】後編
彼女は、自身のかつての幼少期の事を話、『スカサハ』の所で修行をしていた事を話した。
そして、今度はアルスターに帰還した頃の話をする。
『アルスターに戻ってからしばらくして、隣国のコノートって国から女王率いる軍がやってきたのよ。
でも、肝心の手前の軍ときたら、みんなへっぴり腰になっちゃったわけ。どうも、アルスターの連中には、責められると弱くなる呪いがあってね、みんな国が攻められる弱くなるのよ。そのせいで、アルスターは攻めることしか脳がないって訳』
「それは、みんなそうなるよね。貴方もそうだったの?」
『いや、私はアルスターの生まれじゃなかったから、自由に動けたわ。それもあってか、コノートの軍勢を蹂躙してやったわ!
その時に見たあの女王の顔ときたら、すごかったわね』
高笑いしながら、当時のことを言う彼女。どうやら、大英雄の力は本物だったそうだ。
『まぁ、流石にこれじゃ被害が計り知れないと思ったのか、私はある事を提案したわ。これからは、1日1回、一騎打ちで戦うってね。
正直、あの大群を倒すのに疲れたわ。そのせいもあって、1日中寝たわね』
「流石の英雄も、連戦続きじゃ体が持たないんだね」
私はそういうと、彼女は照れたのか、指で頬をかいた。
『それで、私はメイヴと交渉したわ。あっちは参ってきてこれからは一対一の決闘に切り替えようってね。
その間だけ、コノート軍は攻めていいって条件付きでね。まぁ、メイヴは舌打ちしながら応じたけど
私はアルスター峡谷の川瀬で一騎打ちをする。その間だけ軍を進めると言ったわ』
彼女は、女王に対して条約をつけた。彼女と一騎打ちで戦うか、そのまま蹂躙されるか。結果として、メイヴは最小に被害で済む選択を選んだと言えよう。
『それからずっと、タイマンの日々だったわ。コノートの連中、私を倒すためにヤッケになって喧嘩を挑んできたわ。
でも、向こうの戦士と来たら、殺すに惜しい戦士を送ってこなかったわ。まるで、相手にならない奴らばっかりだった。
だけど、ある日戦いに来た戦士とだけは、やりたくなかった相手だったわね』
「それって、もしかして?」
『その時の相手は、フェルディアだった。影の国で誓いあった私たちは、アルスター峡谷の川瀬で、敵同士で再開するなんて、皮肉よね。
結局は私がフェルディアを殺したことで、私の勝利で終わったわ』
「親友と争うなんて、辛かったよね?」
『そうでもなかったわ。お互い戦士だから、戦場で死ぬのが誉よ。どの地域でも、この時代じゃそれが常識よ』
彼女はフェルディアとの戦いを話す。その時の彼女の顔は、どこか悲しげな顔をしていた。
『それからしばらくは大きい戦いはなかったわ。でも、アルスターの幼年組が「クー・フーリンを守るんだ」って躍起になってたわね。
それは私の落ち度かな? そんなある日、アルスターの海辺でヤンチャがガキが暴れ回っていたんで、そのガキと戦ったわ』
「ガキが暴れまわっていたって、どう言うこと?」
『どうも、強い奴と戦いたくって、アルスターに訪れていたらしい。私が直接相手をしたけど、これがまぁ強いのよ。流石の私も、命の危険を感じたのか、ゲイボルグを使う他無かった』
「それで、貴方はその子を?」
『当然、手にかけたわ。「そんなものは教えてもらえなかった」が、そのガキの死に際ね言葉だったわ。
どうやら、影の国で修行してきたらしい。んで、そのガキの名は『コンラ』って名前だったわ』
「コンラってもしかして?」
『私とオイフェとの間にできた子よ。殺し合いしたとは上、この手にかけたんじゃ、父親失格ね。
アルスターの姫様はが止めたのは、その時と最後の戦い位だったわ。
「行ってはなりません」って止められってけな。まぁ、王の勅命じゃ仕方なかったわ。あの時代じゃ、王の言う事が絶対で、戦士はそれに従うしかなかったんだから』
「その為なら、殺しも請け負うしかないなんてね」
『まぁ、それと比べれば、今の時代のお偉いさんはヘタレしかないわ。私が生きてたら、真っ先に殺してるわ。
それでも、メイヴとの戦いは続いてたわ。あの女は約束なんて守る訳なかった。フェルディアが死んだ後も戦える戦士を送ってきては、裏でコソコソと軍を送ったわ。
表向きに交わした条約なんだし表面上は守った事になるわね。その中には、女の戦士もいたわ。まぁ少し加減して相手をしたわ。
戦いで女を殺す趣味なんて無いもの』
彼女はコンラとの一戦後の話を進める。
『そんなある日、痺れを切らしたメイヴが、大軍を寄せてきたわ。当然アルスターも連中はひよって来たわ。
そんな時、私は禁忌を犯したわ。いや、犯されたと言っていいわね。腹を空かした私に肉をご馳走したわ。その時は知りもしなかったわ。
まさかそれが、犬の肉なんてね。当然、
でも最後は戦士らしく、体を鎖で縛って立って死んだわ。もちろん臓物は川で洗ったけど』
「――――――――」
最終的に、彼女はメイヴの軍勢に負けた。
そして、彼女は大木に自身ごと鎖で巻き、そのまま息を引き取った。
これが私の知るケルト神話でも有名な叙事詩、『クーリーの牛争い』の話だ。彼女のさっきまでの話は、叙事詩では語られていない事だ。
彼女にとっては誇りある戦いだったのかもしれない。それを知った歴史家たちは何を言うかは分からない。
それはもう、今まで分かった歴史を否定する部分があるからだ。
「そろそろ朝かも。では、私は行くね」
『えぇ、早く起きなさいな』
彼女は、後ろ向きに私を見送る。こうして、クー・フーリンという英雄の話は、幕を閉じたのだった。
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