幕間2【英雄は過去を語る】前編

 まただ。またここに来てしまった。

 私は、どうもここが居心地がいいのだろう。それほど、現実が嫌なのだろうか。

 けど、ここへ来れば彼女に会える。それだけでも、私の何かの支えになるのだからだ。


『私の事を知りたい? あんたが知ってどうするのよ?』


「いや、私はあなた個人を知らないだけで、そう言うのはないの。

 ただ、あなたという『自分えいゆう』を知りたいだけ」


『今出ても退屈だろうから、特別に教えてあげる。私とて、あんたという『自分しそん』に何も教えないのも癪だしね』


 そういい、彼女は話し始める。『英雄・クー・フーリン』の武勇伝を。


『ガキの頃だったかな? 私は誰よりもヤンチャで、自分よりの弱いやつの言うことなんて、聞く気すらなかったわ。

 そんな私に、コノール王が私を招いたの。鍛冶屋の『クラン』って言う男の所にね。

 その時の私の名は、『セタンタ』と言うなだったわ。んで、当時ハーリングを最中だった私は、王に終わってから行くと伝えた。

 だけど、コノール王がそれをクランのおっさんに伝え忘れてしまってね。仕方なく、1人でそのクランの館に出向いたわ』


 彼女は、幼少期の頃の話を始める。セタンタっという名前は初めて聞く名前だ。

 やっぱり、日本という国は、アルスター神話とは馴染みが薄いんだなと痛感した。


『出向いたら何の、番犬が私に襲いかかったわ。当時に私からしたら結構、手強かったわ』


「それで? その番犬はどうしたの?」


『それなら、絞め殺したわ。でも、それと同時にクランのおっさんを泣かせてしまったわね。

 その犬は、猛犬として知られていたのよ。クランの自慢の犬だった。私は深々と謝罪したわ。その犬の仔とその仔が育つまで面倒見させてくれって。

 その間は、私が犬となってここを守るって誓ったわ。犬は絶対に食わないって『禁忌ゲッシュ』を立てたのも、その時ね。

 その時から、私は『セタンタ』じゃなく、『クランの犬クー・フーリン』と呼ぶようになったわ』


「そのクランって人の犬を殺してしまったから、今のその名になるんだね」


 彼女は、ドヤッとした顔を私に見せる。それほどに、クランの門番の頃が誇らしいのだろう。

 それからはしばらく月日が流れ、彼女が青年の頃の話になる。


『あれは確か、今のあんたくらいの歳になった頃の話ね。今日騎士になりたい奴らが、予言者『エリン』にこぞって集まったの。

 そいつらはみんな、『赤枝の騎士団』の幼年組の連中でねこぞって成人になりたい奴らばかりだ』


「あなたも、そのエリンって人の予言を聞きに来たの?」


『いや、私は別に興味は無かったわ。その頃には、もう成人の儀を終わらせていたわけだし。

 でも、コノール王は私を騎士にさせる気はなかったわ。それで私はブチギレて、王宮中の剣とか槍とかへし折ってやったわ。

 観念した時のコノート王の顔は傑作だったわね』


「あはは……」


 彼女は、ガハハっと笑いながらその時のことを話す。どうやら、その時のことが今も忘れないでいたみたいだ。


『まぁ、騎士となってから月日が経って、私は『影の国』に旅に出たわ。

 影の国には、『スカサハ』っていう女王が治めていたのよ。その女がまぁ強いのよ。当時の私はもう歯が立たなかったわ。

 この時から、私はスカサハに魔術と武術を習った。その時には、多くの同胞に恵まれたわ。中でも、特別仲が良かった奴はいた』


 彼女は、上を見上げながらその人物のことを話し始めた。


『そいつのは、『フェルディア』。コノートの生まれで、私の兄貴みたいな人だった。最初は、殴り合ってばっかりだったけど、いつしか、意気投合しちゃってね。それから、フェルディアと義兄弟きょうだいの契りを交わしてしまったわ。

 でも、そんな最中に不届きものがやって来たのよ』


「不届き者? 一体誰なの?」


『隣国の女王さ。確か名前は、『オイフェ』って言ったかしら? この女、懲りずにスカサハと喧嘩しまくっていたのよ。

 私も出してくれってスカサハに言ったけど、中々出陣すらさせなくてね、何日か言い争ったわ。

 まぁ、スカサハに睡眠薬を飲まされたけど、これっぽっちも効かなかったわ。

 でも、私はオイフェと一騎打ちをして彼女を生け取りにし、いつしか惹かれあったわ。しまいのは、彼女を孕んでいたわ。

 スカサハにバレたその時は、死ぬかと思ったわ。だって、すごい速さで石を投げるんですもの』


「はら……」


 私は絶句した。時代というものは怖いものだ。生け取りにした敵国の女王でさへ、孕むなんて事を平然とするのだから。


『オイフェとは、ここで別れたわ。ある条件をつけて、まぁ契りをしてもらったが、それは今度話すわ。

 そして、影の国での修行は終えて、私たちは互いの国に帰ることになったわ。ゲイボルグは、私に物になったけど、誰も言わなかったわ。

 それだけ私の実力はスカサハでさえ認めていたみたいだわ。まぁ、当の本人は来なかったけどね

 他の連中は、先に出ていってしまったけど、残ったのは、私とフェルディアだった。

 お互い、「自分の国に来ないか」って言ったけど、結局そんなことをせずに帰ったわ。だって、それじゃ引き抜きになっちゃいますもの』


 私は、彼らの友情に羨ましく思った。同じ師の元で修行し、いつしか義兄弟きょうだいの契りをしてまでに絆を深めているのだ。


 だけど、そんな平和な時が続くことなんてない。彼女は、悲しげな顔をする。

 かくして、私は彼女の話の続きを聞くのだった。



 ――――――後編へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る